『ヒプマイ』がキャラソン業界に起こした革命とは?

2020.1.21

キャラソン業界に起きた革命

声優業界においてキャラソンとは、あくまでもキャラクターと芝居の延長線上にあるものだと位置付けられている。当然歌唱を伴うものではあるが、キャラとして歌うという特殊技能が求められる。筆者も音楽プロデューサーとしていくつかのキャラソンを手がけてきたが、シンガーに対して「このキャラ、おバカな設定なんでもっと音外したり、間奏でいきなり笑い声入れたりしちゃいましょう」なんてディレクションをすることも。キャラソンにおける「良い歌」は、必ずしも世間一般で言う「良い歌」であるとは限らない。

しかしである。『ヒプノシスマイク』がアニソン業界、キャラソン業界に起こした革命であり発明は、通常の歌モノよりもより芝居に近く、柔軟な感情表現も盛り込めるラップが、発声の基礎も滑舌の基礎も備わっている声優のパフォーマンスと最高のマッチングを果たした……ということを音楽作品で示したことだろう。

『Enter the Hypnosis Microphone』

個性の塊とも言うべき各ディビジョンのラッパーたちが口汚くディスり合う真剣勝負は見るほどに引き込まれ、巧妙なリリックは息をも飲む迫真の表現を次々と導き出す。小気味よいリズムで刻まれるラップと、枚数を重ねるごとに上達していく声優たちの巧みなフロウ、そして一般的なキャラソンよりも言葉においても表現においても圧倒的な情報量が詰まったこの楽曲群に、気がつけば耽溺してしまっていた。

どのアニソンのマナーにも当てはまらず、どのキャラソンの文脈からも逸脱した本作は、飽和状態にあるこの業界に新たな風穴を開けようとしている。

アニソンやキャラソンなどの音楽は、これまであくまでもアニメやゲームの副産品だった。しかし『ヒプノシスマイク』は、音楽作品がオリジナルとなるコンテンツである。もっと言えば、音楽作品からアニメやゲームへと発展していく可能性を秘めたこの手法は、初めから数億円規模のバジェットが必要とされるメディアミックスで疲労困憊した現在のコンテンツ産業において、非常に重要な示唆を与えたのではないか。

アニメ業界、アニソンシーンにおいて、ヒプマイ革命の波はすぐそこまで来ているのかもしれない。

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冨田明宏

(とみた・あきひろ)音楽プロデューサー・音楽評論家・ラジオパーソナリティー。

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