しっかりと語彙力のないデンジ
「お互いにコイツのキンタマを蹴っていって…警察が来るまでに一番デケえ悲鳴を出させた奴の勝ち!!」
『チェンソーマン』5巻
デンジは激闘の末、サムライソードを捕獲した際に、キンタマを蹴る大会を開いた。幼稚なことにこれを「最強の大会」と呼ぶ。最高でも、最悪でも、最恐でもなく、最強。デンジは学校に通っていないため、発想やボキャブラリーが子供なのだ。もちろんこれも仕方のないことだ。
また、登場する魔人(人間の死体を乗っ取った悪魔、人格は悪魔)は、「魔人だから仕方ない」というデンジ以上に“仕方ない力”を持っている。デンジの同僚で血の魔人のパワーちゃんは、風呂に入らず、トイレも流さず、おまけにデンジの血を勝手に吸ったりするが、これも魔人なので仕方がない。自分でつけたのだろうか、パワーというアホみたいな名前でも仕方がない。サメの魔人・ビームも同様で、ネーミングセンスについては、デンジにすらツッコミを入れられている。
だからこそ発言に個性が生まれるのだが、これは作者にとって難しい問題でもあると思う。都合よくデンジに語彙力を持たせれば、状況の説明がすんなりいくシーンだってあるだろう、新たな展開を作ることだってできるかもしれない。でも、藤本タツキ(2016年『少年ジャンプ+』にて『ファイアパンチ』で連載デビュー)はそれをしない。デンジやパワーちゃんは、しっかりと語彙力のないままだ。
「テメエが俺に切られて血ィ流して!俺がテメエの血ィ飲んで回復…! 永久機関が完成しちまったなアア~!!」
3巻
(生きた人間を人質に取られて)「すっげえワルの敵が使ってくるやつじゃ~ん!!」
8巻
ここらへんのセリフなんか、道端で拾ったマンガを読んだりして覚えたんだろうなぁと想像してしまう。
藤本タツキとデンジは似ているはず
僕は藤本タツキのことを何も知らない。ネットに出ている情報ぐらいは把握しているつもりだが、性別すらもわからない。だが、それでもデンジと藤本タツキは似ていると思う。
たとえば、2巻第14話の副題。デンジがマキマとのファーストキスを固く誓うなか、新しく現れた美女・姫野先輩が、ベロを入れたキスを餌にデンジのやる気を引き出そうとする。そのときの副題が「エロキス」だ。まんま、そのまんまだ。なんて教養のないネーミングセンスだろうか。藤本タツキは、時折デンジやパワーちゃんの感性でマンガを描く。ほかにも「めちゃくちゃ」「ちょうめちゃくちゃ」「バン、バン、バン」「ボンボンボン」などがある。
キャラクターデザインは、ある意味雑で違和感満載だ。チェンソーマンは、皮膚とチェンソー部分がまったくなじんでいないし、サムライソードも同じ。人間とチェンソー、人の顔が集まってできた生物など、何かと何かを足したデザインがよく登場するが、必ず不自然さを残している。でもそれって当たり前で、チェンソーと人間は本来融合しないのだから、融合してなくて正解なのだ。混じり合ってないのに無理やりくっつけているからこそ、不気味さが生まれる。
ネーミングもデザインもセリフ回しも、大雑把で無骨な部分がある。もちろん狙ってのことなのだろうが、普通だったらブレーキをかけてしまいそうなものだ。実際に編集者にかけられたこともあるかもしれない。それでも強引に押し切ってしまう無鉄砲さは、やっぱりデンジに似ている。
“終わらせ”に来てる?
ここ最近の連載では、マキマの能力、マキマの正体、銃の悪魔など、1巻から謎として残されていた大問題が一気に明かされた。また、現時点の最新話では、ずっと伏線として張られていたマキマの目的も判明。残っている大きな謎と言ったら、チェンソーの悪魔まわりくらいだろうか。
これ以上どう盛り上げるんだよ、そう感じてしまうほど“終わらせ”に来てる感は強い。だが、これまで予想どおりの展開をひとつも作らなかった藤本タツキ先生のことだ、頭のネジがフッ飛んだ新シリーズ突入どころか、ジャンルすらも変わるほどの展開を見せてくれるかもしれない。今後の展開予想なんてできっこないので、大人しく月曜日を待つことにする。夢オチとかマジでしかねないし。
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