もうひとりの主人公・湖池やよい
そしてもうひとり、金次郎を導いていく師匠・湖池やよい。彼女の存在なくしてこの『キッドアイラック!』を語ることはできない。
彼女は、「スパゲッ亭アラビアー太」として圧倒的な大喜利センスを持ちながら、実生活では人前に出ることが苦手な地味な女子高生だった。しかし金次郎と出会ったことで、人前で大喜利をすることの楽しさを知り、自分の殻を破っていく。そして気づいてしまう、金次郎への想い。
そう、これは金次郎と久里子ふたりのストーリーであると同時に、やよいの成長の物語でもある。やよいが最後に金次郎へ贈った言葉と、そのときに彼女が見せる表情の素晴らしさ、「このキャラ俺が幸せにしたい世界大会」でぶっちぎり優勝した。
ほかにも、金次郎のライバルとして登場するお笑い研究会の部長・プライドクソメガネこと森永や、腹に一物抱えた主人公の親友・明治など一人ひとりのキャラクターの行動原理が明確でわかりやすく、1ページも休むことなく感情が揺さぶられていく。
大喜利のおもしろさ
このマンガで何より素晴らしいのが、こうやって書くのはすごく失礼なんですが、題材である大喜利が「ちゃんとおもしろい」。
作者の長田悠幸先生は、『ろくでなしBLUES』『べしゃり暮らし』などで知られる森田まさのり先生と共にアマチュアのお笑いコンビ「漫画家」を結成し、M-1グランプリ2018にて準々決勝まで進出、ベストアマチュア賞を受賞しているほどのお笑い好きということもあり、作中で回答している大喜利はすべて本人が考えたものだという。
ちゃんと大喜利というものの構造を読者にわかりやすく説明しつつ、それに足る回答をキャラがバチーン!見せてそれがちゃんとおもしろい。空気感やテンポなど紙面で表現しづらいであろう大喜利をここまで表現できる、これは本当にすごいことだと思った。
ストーリー構成、キャラクターの素晴らしさ、ネタのクオリティ、全3巻という短さにもかかわらず、読後の満足感は筆舌に尽くし難いものがある。そしてすべての伏線が見事に回収されていき、最高のエンドに向かって風呂敷が畳まれていく快感は一生消えない鳥肌モノ。そしてラストシーン、おそらくすべての大喜利、お笑いファンの涙腺が崩壊します。
お笑いで人は救えるのか、つらい出来事があったとき、お笑いに意味があるのか。こんな時代だからこそ読んでもらいたいマンガです。菅田将暉が金次郎役、これ以上のハマリ役はいない……改めて、ぜひとも実写化をお願いします……。
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