お蔵入りになった『ピラメキーノG』最終回
2011年3月、まだ神谷町に本社があったテレビ東京制作局で僕はその日の夜に放送予定の『ピラメキーノG』最終回にテロップミスがないかをDVDでチェックしていた。
※『ピラメキーノ』
2009年にテレビ東京で放送を開始した夕方の子供番組で、MCは当時若者たちからなぜか絶大な支持を得ていたはんにゃ(川島ofレジェンド・金田哲)とフルーツポンチ(村上健志・亘健太郎)。大人も楽しめる子供番組として人気を集め、2010年4月には『ピラメキーノG』というタイトルでゴールデンに昇格したが視聴率が振るわず1年後にゴールデンの枠を撤退。
当時僕は死ぬほど仕事ができないタイプのADで、配属されたばかりの『ピラメキーノ』の現場でもいろんな人に迷惑をかけていた。なかでも「ドロP」というコーナーでのミスは自分にとってかなり印象に残っている。
レギュラー陣とゲストが遊園地や廃校などで“本気のドロケイ”に興じるコーナー「ドロP」。観たことがない人は「フジテレビの『逃走中』から予算が9割カットされたらきっとこんな感じになるだろうな」っていう映像を想像してもらえば話が早い。そのロケで僕は泥棒役となって逃げ惑うフルーツポンチ村上担当のカメラマンに任命された。正直、昔から運動が苦手な僕ではあったが心の中で「とはいえ“ヒザ神”に置いていかれることはねえだろ」と高を括っていた。
※ヒザ神
フルーツポンチ村上の愛称。『アメトーーク!』(テレビ朝日)の企画「運動神経悪い芸人」で村上が走り幅跳びをした際に運動神経が悪過ぎて膝を曲げずに走行、着地をしたことに由来する。
ところがいざ本番を迎えると状況は一変。意外と走れる村上にまったく僕は追いつけずミスを連発。結局村上の姿をほとんどテープに収めることができないままロケは終了してしまった。泥棒を捕まえるゲームなのに、その泥棒の逮捕の瞬間がまったく撮れていないという大失態。出演者である村上も息も絶え絶えになりながら
「ちゃんと追いかけてきてくんないとさぁ……俺より足遅いやつ、初めて見たわ」
と、ボヤいていた。業界広しといえど「運動神経悪い芸人」に運動神経の悪さをとがめられたのは僕ぐらいではないだろうか。
あまりに不甲斐ないミスの連発に僕自身も若干自信を喪失していた時期だった。「この業界、向いてねえかもなあ」なんてことを考えながらその日もただぼんやりと最終回のDVDを観ていた。すると次の瞬間、とんでもない地響きと共に制作フロアが揺れた。
2011年3月11日金曜日、東日本大震災。
パニックになる社内。テレビはすべて報道特番に切り替わり、津波の凄惨な映像が流れ始めた。僕のパソコンのモニターには相変わらず『ピラメキーノG』の最終回が映されていた。画面の中のはんにゃとフルーツポンチは岩手の名産「わんこそば」を500杯食べ尽くすというミッションの真っ最中。どんなに仕事のできないADでもわかった、これは「お蔵入り」だと。そのまま世間は自粛ムードに突入、番組MC2組の勇姿がゴールデン帯で流れることはなかった。
もしタイムスリップできるなら、はんにゃとフルーツポンチのために『ピラメキーノG』の最終回をゴールデン帯にちゃんと放送してあげたい。心のどこかで眠っていたそんな思いをマーティ・岐部・マクフライは久々に思い出させてくれた。「この業界、向いてねえかもなあ」と嘆いていたADは9年間でペライチの企画書をサクッと仕上げられるぐらいには成長していた。
生勇者ああああメイン企画
<タイトル>
ピラメキーノ勝手に最終回2011
〜はんにゃVSフルーツポンチ これからのお笑い界をリードするのはどっちだ!? ガチンコ三番勝負〜
<設定>
・『ピラメキーノ』最終回の公開収録が行われているがなぜか時空の歪みが起きており舞台上だけ「2011年」で時が止まっている。
・舞台上のはんにゃとフルーツポンチは2011年のままなので、まだ自分たちがブレイク中の人気芸人だと思っている。
・しかし客席は2020年なので、MCのアルコ&ピースと準レギュラー陣は「今後9年間の2組の凋落っぷり」を未来人の設定でイジりつづける。
「はんにゃとフルーツポンチがゴールデンタイムで活躍する姿が見たい」というAD時代の純粋な思いと「レッドシアター芸人をただイジりたい」という現在の悪意が合体した名企画がここに誕生した。さあ役者はそろった、あとはライブを待つばかりである。
制作期間1カ月、制作費は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の1億分の1にも満たないこのSF大茶番に1500円の価値が果たしてあるのか。それを知ることができるのは、生配信終了1週間後の未来を生きる読者の皆さまだけなのである。
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#【連載】『勇者ああああ』芸人キャスティング会議
アルコ&ピース平子祐希が番組内で「むせかえるほど安いギャラ」と公言する、テレビ東京の低予算ゲームバラエティ『勇者ああああ』。
予算がなくたって、テレ東には「金がないなら企画を考える、有名人が出せないなら素人をおもしろく撮る」の伝統芸能がある。
この連載では、同番組の演出・プロデューサーを務める板川侑右氏が、過去に呼んだ芸人や今呼びたい芸人と、その理由などを明かす。
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