圧倒的な楽曲クオリティと笑いを融合させた、ジャルジャルの名曲『虹色の思い出』について

2020.4.8

『虹色の思い出』に惹きつけられる理由

まず、『虹色の思い出』はイントロがない「ノンイントロ」の楽曲だということ。米津玄師『Lemon』やKing Gnu『白日』をはじめ、昨今、非常にノンイントロの楽曲が増えてきている。あえてイントロを作らないことで曲の印象を感じる前にその世界観に引き込むことができるのだ。

この『虹色の思い出』もいきなり後藤淳平の畳みかけるようなラップからスタートする。後藤のラップから福徳秀介のサビまでの時間はわずか「20秒」。ほとんどの楽曲はどんなにBPMを速くしようともサビ部分までおおよそ1分はかかってしまう。しかし『虹色の思い出』は音と音の間を極限まで狭めることで一瞬でサビに到達してしまう。これにより、聴き手が曲の内容を理解するよりも先に「圧倒」が生まれる。

そしてサビ。「I’m just forever」が耳から離れない。去年大ヒットしたOfficial髭男dismの『Pretender』なら「グッバイ」、あいみょんの『マリーゴールド』なら「麦わら帽子の君が」など、一度聴いただけで心を掴む、いわゆる「キラーフレーズ」があるかないかで楽曲の印象というのはガラリと変わる。『虹色の思い出』の「I’m just forever」はそれらに匹敵するほどのパワーを秘めている。

そして歌詞。一聴してもまるで意味がわからない。すぐに内容は理解できないかもしれない。しかし何度も何度も聴き、歌詞の意味を噛み砕くことで新たな発見や魅力が生まれるのがこの曲のすごさだ。この難解な英語を日本語に翻訳することでこの曲が伝えたいメッセージが見えてくる。

I’m just the beat(俺はただのビートだ)
I’m just the beat(俺はただのビートだ)
I’m living in just the, just the beat(俺はただのビートに生きている)

これは亡きたかしへの鎮魂歌。ここで言うビートとはそう、「鼓動」のことだ。そう、お前の心臓が止まってもお前の魂の「beat」は俺の中で鳴りつづけていると。

I’m just forever(俺はただの永遠だ)
I’m loose all the time(俺はいつもルーズだ)
I’m just sellin’ more(俺はいつも売っている)
I lose all my mom(俺はママをすべて失う)
And come fallin’ time(それと同時に堕ちるときが来る)
And lesson in love(そして愛のレッスン)
I’m left-handed mom(俺のママは左利きだ)
I’m Lou…any more(俺はもうルーだ)

「I’m just forever」俺にとってたかしはただの永遠だと。ここで「just」つまり「ただの」と表現する言語センスが凄まじい。何も特別なことじゃないんだと。俺とお前は永遠なんだ。そう言っているのではないだろうか。福徳はつづける。俺はいつもルーズでまじめだと。それくらい自分のことがわからない、そうママの愛のレッスンを受けても。そんな俺はもうルーでしかないと。大切な友への喪失感と自分自身の弱さ、それを嘆きながらも前へ前へと進んでいく、「虹色の思い出」を胸に……。そんな悲哀と希望に満ちた歌ではないのだろうか。

もうおわかりだろう。ノンイントロ、メロからサビまでの疾走感、中毒性のあるメロディ、「I’m just forever」というキラーフレーズ、深みのある歌詞、なじみやすい歌声。そう、この『虹色の思い出』は「名曲」と呼ばれる音楽が持つすべての要素を兼ね備えている。

「歌ネタ」と呼ばれるものはこの世に数多とあるが、ここまで圧倒的な楽曲クオリティと笑いを融合させたのは当時のジャルジャルがはじめてだったかもしれない。

『虹色の思い出』はジャルジャルと放送作家の倉本美津留とミュージシャンの福山芳樹が結成した音楽ユニット「モジャモジャルジャル」によって演奏されたものがApple MusicやSpotifyなど各種音楽配信サービスでも聴くことができる。この機会にぜひ『虹色の思い出』を聴いてjust foreverしてほしい。


『虹色の思い出』作詞/作曲:ジャルジャル

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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