JO1、QuizKnock、ROF-MAO、齋藤飛鳥…2024年の『Quick Japan』を振り返る
2024年。芸能界の旧来的な価値観が崩れ始め、私たちメディアも足元を見つめ直す場面が増えた。取材対象者の言葉を拡声器的に流すのではなく、編集部としての意志を持って、批評的に、かつ真摯に相手と向き合うこと。現場の熱の中からしか生まれない切実なメッセージを届けること。誰もがSNSやYouTubeのアカウントで発信ができる今、私たちメディアに求められる役割はそこにしかない。
2024年はQuick Japanにとっても大きな変化の一年だった。
これまで別々のチームで動いていた本誌編集部とWEB編集部を統合し、これまでQJが得意としてきたお笑いやアイドルの特集に加え、ボーイズグループ、VTuber、海外アイドル、保護動物などの特集を編集者個人の熱意によって立ち上げた。
節操がないと思われても仕方がないと思うが、どの企画も今の時代に必要なメッセージを持っていると編集部が判断したものだ。入口はミーハーな興味でも、ただ一度飛び込んだらどのメディアよりも謙虚に学び、相手の核心の部分を掘り下げ、本人すらも気づいていない側面を映し出す。不器用で歪な部分も多々あるが、それがQuick Japanというメディアの唯一の価値だと思っている。
これからも真摯で創造的なメディアであり続けることを、読者のあなたに約束したい。
2024年に刊行されたQJ関連書籍は合計16冊。担当編集者の言葉とともに、今年のQuick Japanを振り返る。
(山本大樹/副編集長)
目次
- 神保町よしもと漫才劇場4周年記念ブック「大舞台で響かせたい」(1月)
- HARBOR MAGAZINE by QJ No.1(1月)
- 『Quick Japan』vol.170 サンドウィッチマン(2月)
- CUBERSメモリアルブック 〜ポップデジタルタトゥー〜(3月)
- 『Quick Japan』vol.171 新しい学校のリーダーズ(4月)
- 『Quick Japan』vol.172 JO1(6月)
- 大宮セブン10周年記念「埼狂のはじまり」(7月)
- 森田美勇人Photo&Essay「青葉の音」(7月)
- Quick Japan Presents だいすき!たべっ子どうぶつ 公式ブック(7月)
- 『Quick Japan』vol.173 7ORDER(8月)
- Quick Japan SPECIAL:QuizKnock「僕たちの現在地」(9月)
- 4EVE in TOKYO おもいでトリップ!(9月)
- DDT Special Guidebook 2024(Quick japan Presents)(9月)
- 『Quick Japan』vol.174 ROF-MAO(10月)
- 南條愛乃フォトエッセイ「こんなそんなまいにち」(10月)
- 『Quick Japan』vol.175 齋藤飛鳥(12月)
- 2025年に向けて
神保町よしもと漫才劇場4周年記念ブック「大舞台で響かせたい」(1月)
「LA・LA・LA LOVE SONG」に乗せられ、オドるキネマさんにハマった経験がある「出囃子界隈」の人間(エルフさんのYouTube『集まれ!漫才応援ゲキキモ界隈!!!』ぜひ見てください)として、芸人さんそれぞれが出囃子を選んだ理由を知りたかったのが、連載を始めたきっかでした。
個人的には「ライブで地獄のような空気になったときは私たちがなんとかしましょう」というオダウエダさんが出囃子「EM20_CH_alterna_01/巨災対」に込めた想いが素敵だなと思いました。(梅山織愛/編集部)
HARBOR MAGAZINE by QJ No.1(1月)
「Dive to Passion」をテーマに掲げる『Quick Japan』の制作を行ううちに、実感したことがあります。それは、アーティストのファンのみなさんが“好きなもの”へ差し向ける熱量の大きさ。次第に「このエネルギーを、メディアを通じて社会貢献へつなげることはできないか?」と考えるようになったことがきっかけで、スタートしたのが保護動物メディア『HARBOR』です。
創刊号に登場してくださったTHE RAMPAGEの陣さん・与那嶺瑠唯さん・藤原樹さんはじめ、普段から動物との暮らしをSNSなどで発信され、ペットの存在をファンのみなさんに共有されていたり、また動物の保護活動について関心を寄せるアーティストの方々も少なくありません。そうした、通常のカルチャー誌などでは深く語れないトピックについて掘り下げることで、ペットがいる人もそうでない人も、“動物とともに生きる”ことをカルチャーを通じて考えられたらと制作しました。
2025年1月発売の第2号では、BE:FIRST・RYOKIさんがご自身の愛犬たちと表紙&巻頭特集を飾ってくださり、7ORDER・真田佑馬さんと萩谷慧悟さんが保護猫・アスカちゃんとバックカバーに登場、ペットの災害特集に参加いただきました。現在「QJストア」で予約受付中です!(菅原史稀/編集部)
* * * * *
かつて保護猫を引き取ろうとしたとき、条件が合わずに断られた経験がありました。それならば「いつか保護動物にまつわるメディアを作ろう」とずっと考えたことを、ついに実現した第1号。まだ試行錯誤の拙い一歩目に協力いただいた陣さん・与那嶺さん・藤原さんには大感謝です。(田島太陽/編集長)
『Quick Japan』vol.170 サンドウィッチマン(2月)
伊達(みきお)さんのインタビューを担当したライター・安里和哲さんの巻頭言に編集部のメッセージがすべて込められています。あぁ〜しらきさん、U字工事さん、じゅんいちダビッドソンさんなど古くから親交の深い芸人たちの言葉によって、吉本中心のお笑い史とは異なる、サンドウィッチマンを中心としたもうひとつの“東京お笑い史”が刻まれた号になりました(永野さんからサンドさんへのメッセージも必読!)。
ナイツさんとの対談では事務所の垣根を越えた新劇場設立案が飛び出した一方、突然「おれは仙台焼きそばを作って町おこしがしたい」と初出しの夢を語り出した伊達さん。「初めて聞いたよ、その夢」と困惑する富澤(たけし)さんの表情が忘れられません。日本中の人々から愛されるふたりの天然ぶりが滲み出ていました。(山本大樹/副編集長)
CUBERSメモリアルブック 〜ポップデジタルタトゥー〜(3月)
2024年3月31日をもって解散した5人組ボーイズユニット「CUBERS(キューバーズ)」、そのタイミングで作らせてもらった一冊。『ポップデジタルタトゥー』というタイトル自体もメンバーのみなさんの話し合いで決めてもらい、その決定過程も本に収録されています(「デジタルタトゥー〜いや、悪い意味じゃなくて〜」という別案も)。
インタビューの終盤に「CUBERSとしての夢の実現度は?」という質問を投げかけたとき取材現場に沈黙がしばらく流れ、その沈黙に、これからというときにコロナ禍が重なってしまったことなど、5人が抱いている悔しさを感じました。あの空気感は今もありありと思い出せます。(森田真規/副編集長)
『Quick Japan』vol.171 新しい学校のリーダーズ(4月)
2023年末に香港で開催された『Clockenflap』から『COUNTDOWN JAPAN』、日本武道館単独ライブ、MV撮影に至るまで新しい学校のリーダーズの半年間に密着取材。香港ではライブ直前まで海外アーティストたちに積極的に話しかけたり写真を撮ったりと動き回っていたSUZUKAさんのバイタリティに圧倒されました。
インタビューで「人種も国籍も年齢も関係なく、みんなと魂の触れ合いがしたい」と語っていたのも納得。そしてなにより、どの会場でも観客を熱狂の渦に巻き込む4人のパフォーマンスの力強さ。10年近い歳月を費やし、まだ誰も歩んでいない道を切り拓いてきた彼女たちだからこそ生み出せる熱量でした。
写真家・ヤスダ彩さんの表紙巻頭グラビア、髙木美佑さんの香港レポート写真も素敵な仕上がりです。(山本大樹/副編集長)
『Quick Japan』vol.172 JO1(6月)
2020年1月にローンチしたQJWebで、最初に作ったボーイズグループの記事がJO1がデビュー前に実施したファンミーティングのレポートでした(「『PRODUCE 101 JAPAN』から誕生したボーイズグループ「JO1」の魅力とは?」)。
そこから4年、念願の本誌での表紙・巻頭特集をすることができた自分にとって思い入れのある一冊。11名での集合撮影のとき、佐藤景瑚さんが「Go to the TOP」のポーズでふざけていたり、現場の空気を和ませてくれていたのが印象に残っています。特集の最後に掲載したライター・つやちゃんによるシングルのディスコグラフィは、彼らの音楽面の魅力をこれまでにない視点で掘り下げられたはず。
QJWebにも転載しているので、JO1の音楽入門にぜひ(「JO1が「正真正銘、唯一無二のグループ」である音楽における特異点」)。(森田真規/副編集長)
大宮セブン10周年記念「埼狂のはじまり」(7月)
取材期間中に『THE SECOND~漫才トーナメント~2024』でタモンズさんが決勝進出を決めたのですが、全組のインタビューにタモンズさんのお名前が出てきて、全員が心からタモンズさんの活躍を心待ちにしてしていたんだ、と感じました。10周年を迎えた大宮セブンですが、この先もみなさんの絆は延々と続くんだろうと思います。
「痛みを知ることで人は強く優しくなれる」。大宮セブン以上にこの言葉が当てはまる人たちははいないんじゃないかと思います。(梅山織愛/編集部)
森田美勇人Photo&Essay「青葉の音」(7月)
2023年に発売した『日常』に続く2作目。今回は森田さんが敬愛する写真家・増田彩来さんに撮影・対談をしていただきました。初対面のおふたりでしたが、創作に関する考え方が近く、すぐに意気投合。インタビューの時間だけでは足らず、撮影中もそれぞれの考え方や写真に対する向き合い方をお話しされていたのが印象的でした。
また、WEB連載はすでに130回を超えています。森田さんが映す情景からは、毎回その季節の魅力が感じられるので、そちらも引き続きよろしくお願いいたします。(梅山織愛/編集部)
Quick Japan Presents だいすき!たべっ子どうぶつ 公式ブック(7月)
毎朝、通勤電車に乗っていると「たべっ子どうぶつ」のグッズを身につけている人をたくさん見かける……。そう気づいてから沼にハマるまではあっという間でした。
どこか気の抜けた笑顔で癒やしてくれるどうぶつさんたち。言葉は発さずとも、いつも楽しそう。それまでゆるキャラというものに興味を持ったことがなかった私ですが、今ではすっかりベッドの脇がどうぶつさんグッズで埋め尽くされています。
ホームパーティー、キャンプ、海などなど、どうぶつさんたちの不思議な世界をのぞき見できる一冊。ハマるのは今からでも遅くありません。(山本大樹/副編集長)
『Quick Japan』vol.173 7ORDER(8月)
ともに旅をしてきた仲間との別れを経験し、さらに絆が強くなった6人でグループの第二章がスタート。ワクワクするほうへと進み続ける7ORDERの物語はまさに『ONE PIECE』!だと、個人的には思っています。だから、今回の撮影は船上で行わせていただきました。
7ORDERさんのライブの日は雨に恵まれることが多いといわれているので、ロケ撮影はちょっと怖かったのですが、当日は無事に快晴!! 本当によかったです。(梅山織愛/編集部)
Quick Japan SPECIAL:QuizKnock「僕たちの現在地」(9月)
私自身も長年QuizKnockのYouTubeチャンネルの視聴者だったので、彼らのかっこよさ、そして“個”の魅力をとことん掘り下げる本を作りたい!と思ったのが最初のきっかけです。ファンのみなさんに喜んでもらえるよう、細部まで内容ぎっしり詰め込みました。
動画出演メンバーだけではなく、裏方スタッフのみなさんにもたくさんご協力いただいた一冊です。重版も決まり、まさかこんなに反響をいただけるとは……!とびっくり&大歓喜。また何かのタイミングに、第2弾も作れるようがんばります!(高橋千里/編集部)
4EVE in TOKYO おもいでトリップ!(9月)
タイを代表するガールズグループ「4EVE(フォーイブ)」初の、日本で撮影されたフォトブックです。近年タイではアイドルブームが起こっていて、J-POPやK-POPの影響を受けつつ独自の進化を遂げている……との噂を聞きつけ、2023年の『タイフェスティバル東京』での取材をQJWebで行うことに(「MV再生1億回超のタイ発アイドル・4EVEが示すアイデンティティ」)。
そこで彼女たちのステージを観て、インタビューしたことがT-POP(タイポップス)に本格的な関心を寄せるきっかけとなりました。バンドセットをバックに、即興的にパフォーマンスを作り上げる姿、初対面の海外メディアスタッフ(私たち)にも友人のように接してくれる親しみやすさに新鮮な魅力を感じたのです。
それから1年後、4EVEが東京でMVを撮影すると聞いて、その様子をぜひ記録したいと企画しました。忙しないMV撮影の合間にも「どんなポーズがいいかな?」とこちらの希望を聞いてくれ、シャッターを切るたび日本語で「ありがとう!」と言ってくれた彼女たちの思いやりが印象に残っています。誌面にはメンバー7人のソロインタビューがタイ語・日本語で併記されていて、タイのファンのみなさんからも温かい反応がありました。T-POPの盛り上がりは今後もさらに加速すると予測しているので、『Quick Japan』で引き続き追いかけていきたいです。(菅原史稀/編集部)
DDT Special Guidebook 2024(Quick japan Presents)(9月)
プロレスに本格参戦した武知海青さん(THE RAMPAGE)のトレーニング現場に密着し、ロングインタビューを行った記事(なぜLDHからプロレスへ?武知海青の反骨心とファンへの本音)の大反響を受けて、急遽制作したガイドブック。
LDHに所属するアーティストでありながら、本気でプロレスに取り組む武知さんの信念と、切実な思いがぎゅっと詰まった一冊になりました。Quick Japanとしても、プロレス団体のオフィシャルブックを制作するという新しい試みに。QJストアでは完売しましたが、DDT ONLINE STOREにはまだ少しだけ在庫が残っているようです。田島太陽/編集長)
『Quick Japan』vol.174 ROF-MAO(10月)
ほとんど知識のないまま飛び込んだVTuberの世界。そこには「おもしろければなんでもアリ」の自由な世界が広がっていました。「ろふまお塾」の全動画を会社で毎日視聴したのも今年の夏の楽しい思い出。バラエティ談義に花が咲いた佐久間宣行さんとROF-MAOメンバーの対談、そして彼らに懸ける熱量をひしひしと感じたスタッフ座談会など、気づけばたいへん充実した特集になりました。
まだまだ私たちの知らないところに熱いカルチャーが広がっている。そこに飛び込んで核心をつかむ、というQJのコンセプトを体現できた号だと思います。うれしいことに読者の方々からも大反響をいただき、いつか第2弾を作りたい……と密かに画策しています。(山本大樹/副編集長)
南條愛乃フォトエッセイ「こんなそんなまいにち」(10月)
QJWebで2年半続いた、声優・南條愛乃さんの連載「QJカメラ部」がついに書籍化! なんと、南條さんご本人がブックディレクションにがっつり関わってくださいました。横位置のA5判型、フクロウカフェでの撮り下ろし、南條さんの手描きイラスト入り……などなど、これまでの「QJカメラ部」フォトエッセイとはちょっと変わった雰囲気に仕上がっています。個人的に一番好きなのはチンアナゴの写真(グッズにもなりました。本と一緒に買えますよー!)。(高橋千里/編集部)
『Quick Japan』vol.175 齋藤飛鳥(12月)
最初に齋藤飛鳥さんとお会いしたのは発売から半年以上前のこと。写真家・小見山峻さんと事務所の方々を交えたミーティングで特集の方向性を定め、そこから時間をかけて撮影のアイデアをすり合わせながら作った号です。「まだ誰も見たことのない齋藤飛鳥」というテーマを追求し、デザイナーも編集者も含め、今のQuick Japanがクリエイティブを結集した特集号になりました。
本信光理さん、英勉さん、金森孝宏さんなど、齋藤飛鳥さんについて語る関係者たちのクリティカルで詩的な証言にもたいへん感銘を受けました。香月孝史さんによるロングインタビューもすべての言葉が真摯に紡がれています。WEBでも一部が読めるのでぜひ(齋藤飛鳥、歳を重ねることへの覚悟と信念「生き方さえダサくならなければそれでいいかな」)。
完成した雑誌を手にして、どこよりも深い特集ができた自負と満足感があり、一方で「齋藤飛鳥」という才能のすべてを捉えきれなかった悔しさもあり。まだ雑誌にできることはたくさんある、と希望を持った号でした。(山本大樹/副編集長)
2025年に向けて
Quick Japanは1984に創刊し、2024年が30周年という節目の年でした。
これまで、時代ごとにコンセプトを掲げ、時代を象徴する数多くのアーティスト/タレント/クリエイターたちに出演していただきましたが、これからのQuick Japanは、雑誌だけではありません。WEBメディアの「QJWeb」、ECサイトの「QJストア」、お笑いや音楽のイベントを行う「QJライブ」など、誌面に縛られず、多岐にわたるプロジェクトに拡張しています。
手に取ってくれた人、QJWebを見に来てくれた人、イベントに足を運んでくれた人、すべての読者/ユーザーにとって新しい発見があり、好奇心を刺激され、次のアクションに繋がるトビラになること。そして、掲載されているアーティストたちと読者のみなさんと共に、新しい躍動と熱狂を生むこと。それが今のQuick Japanの存在意義だと考えています。
2025年、31年目のQuick Japanも、どうぞよろしくお願いします。(田島太陽/編集長)