みなみかわ、THE YELLOW MONKEYをめぐる“人生一番の後悔”「吉井さん、私もファンでいいんですよね?」/映画『成功したオタク』【QJ映画部】
映画愛好家たちが新作・旧作問わず作品の魅力を語り尽くす連載「QJ映画部」。部員はただいま、お笑い界イチの映画狂・みなみかわひとり。すっかり売れっ子になった今でも週に一度は映画を観るというみなみかわが、注目の新作映画をひと足先に熱血レビュー。集まれ、映画愛好家たち!
第2回は、あるK-POPスターの熱狂的ファンだった監督によるドキュメンタリー映画『成功したオタク』。同スターから認知され、テレビ共演も果たし“成功したオタク”となった監督だが、ある日、推しの性加害事件が発覚。受け入れがたい現実に対する葛藤の末、同様の経験をしたオタク仲間を思った監督は、「真の“成功したオタク”とは何か?」を問うべく、仲間たちのもとへ会いに行く。
私にはファンの資格がない
「イエローモンキーのライブに行かへん?」
人生で一番の後悔は何か?と聞かれたら14歳のときの出来事を思い出す。
中学生のころ、そこまで親しくない同級生から「イエローモンキーのライブに行かへん?」と誘われた。私は昔も今もTHE YELLOW MONKEYさんが大好きである。
人生で一番最初に買ったアルバムはTHE YELLOW MONKEYの『SICKS』という作品で、さらにライブのVHSもお年玉をはたいて買っていた。友人はとにかく余ったチケットを現金化したく、人づてに私がTHE YELLOW MONKEYのファンというのを聞きつけ「ならば行くだろう」と大して仲よくない私を誘った。
しかし当時お年玉も余っておらず「ライブに行く」ということが習慣化されてなく、なにより日程が大事な模試と被っていたのだ。「行きたいけど今回はあきらめるか」と断ってしまった。
今思う。模試0点でも親に土下座して金借りてでも行くべきだった。
なぜ行かなかった? なんだかTHE YELLOW MONKEYより自分の人生を優先してるみたいで「ファン」というのはちょっとおこがましいと感じた。
その後、THE YELLOW MONKEYのライブに行くことはあっても「14歳のあのとき行ってない自分」に自分の中の吉井(和哉)さんが言う。
「お前ニワカだよ。だってあのとき来なかったじゃん」
「いや、吉井さん、あのときはお金なくて……模試が……」
「は? めっちゃいいライブだったんだよ。あのとき来なきゃ意味ないよ」私に背を向け歩き出す吉井さん。
「聞いてくださいよ‼‼ 僕カラオケでは絶対『悲しきASIAN BOY』歌うんすよぉぉぉぉお‼」
私にはファンの資格がない。あのとき裏切ったのだ。吉井さんも振り向いてくれない。そしてTHE YELLOW MONKEYは活動休止、解散となった。
“ファン”とはなんなのか?
映画『成功したオタク』を観た。
K-POPスターを推していた女性。
推すというレベルではなく崇拝。文字どおり人生すべてをそのスターに捧げ、そのスターから認知もされていた。まさに成功したオタク。
しかし一転、スターが逮捕され、犯罪者になった。
彼女は犯罪者のファンになった。
人生すべてを推し活に捧げていたファンたちがどう思っているのか?
ファンが監督になり、いろんなファンに会いに行く映画である。
ファンのままいるのか? ファンをやめているのか?
怒っているのか? 失望しているのか? 後悔しているのか?
私の場合は対象が同性だし、少し性質が変わるかもしれないが「『ファン』というものがなんなのか?」を稀有なケースからファン自身で描く作品だと感じた。
それは正直イタくもあるし、恥ずかしくもあるけどまっすぐだった。
応援する対象と応援する自分がいる、という事実
さらに少しいじわるな目線で見れば、その状況ですらファンの自分とスターを線で結んでて、悲劇的な自分に浸ってるようにも見えた。
K-POPスターが好き→そんな自分も好き。
K-POPスターが犯罪者→かわいそうな自分。
ファンは対象を推している、応援しているだけと思いきや、そこに確実に自分がいる。その他大勢のファンじゃない。自分がドシンといて対象がいる。
まあ当たり前なんだけれども。
てことは! 私だって私だって胸張ってファンと言える。言えるじゃないか。
吉井さんに妄想の言い訳をしてるとき
「僕はイエモンなんて略さないですよ。イエローモンキーです!!!」
とか
「初めて買ったアルバムは『SICKS』で、その次『jaguar hard pain』なんですよ! こんなことニワカは言えないですよ! もちろん『JAM』も好きですけどね! てへ!」
とか
「吉井さんが昔TBSでバイトしてて上司と仲良くなかったってエピソード話してた『うたばん』のVHSまだ実家にあります‼‼」
とか……
もう吉井さん云々じゃなくて自分が先に来ちゃってる。認知されたくて言っちゃってる。これもどこかで読んでくれないかなとさえ思ってる。
どうですか? 恥ずかしいでしょう? 見るに耐えないでしょう?
でも、そんな目も一切気にならないのがファン。ファンでいいんですよね?
再結成うれしかったなぁ。
そんな当たり前のことを体張って気づかせてくれた映画です。みなさまぜひ。
映画『成功したオタク』
3月30日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
監督:オ・セヨン
2021年/韓国/85分/カラー/原題:성덕/英題:FANATIC/配給・宣伝:ALFAZBET
公式ホームページ:https://alfazbetmovie.com/otaku
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