ピン芸人・本日は晴天なりによる連載「バツイチアラフォーの幸せだけじゃない日常」。
昨年、男性と結婚した彼女だが、自身はすべての性別の人に恋愛感情を抱くバイセクシュアルであることを公表している。性別関係なく恋愛をしてきた彼女が、自身の恋愛経験を語る。
自分がバイだと気づいたとき
ジェンダーやらセクシュアルマイノリティやら、ひと昔前まではさっぱり聞くことのなかったこれらの言葉も、ジェンダーアイデンティティの多様性に対する理解を広めるための「LGBT理解増進法」が成立したこともあり、当事者でない人でもよく耳にするようになったと感じているだろう。
私はバイセクシュアルだ。小さいころから女の人の裸に人一倍興味があったが、自分は女だという認識もしっかりとあった。その一方で、10歳くらいまで自分は途中で男の子になると信じ、チ○コが生えてくると思っており、小4で初めてクラスの女の子を好きになった。女は男を、男は女を好きになるのが常識ということくらい、小4ならもうわかっていた。だからこそ、自分はなぜそんな感情になるのか理解ができなかった。
“バイ”という言葉を知ったのは、それからだいぶあと。そこで、ああ、自分はこの言葉の類いの人なのだな……と認識した。
私は隠すこともなく、まわりに自分がバイだと明かしていた。しかし、オープンにしていれば生きやすいというわけでもないということを、のちの人生で学ぶことになる。
20代のころ、バイト先の店長や同僚などに「こいつ、実は芸人なんですよ~」と同じテンションで、「こいつ、実はバイセクシュアルなんですよ~」と、扱われることがあった。そんな紹介をされたら、「この人にはなんでも聞いていいんだ」と、質問の応酬。
「女同士はどうやってヤルの?」←なぜ急にデリカシーなくなってしまうのか?
「女同士はキレイだからいいよね」←それはお前が大好きな女の裸と裸がくっつくところを想像するからキレイだと思うだけだろうが。
「チャンスも2倍だね、バイだけに」←ストライクゾーンが広いと思われがちだが、別に誰でもいいわけではない。お断りすることもあるし、お断りされることだってある。
下世話な話しかされなくなり、腫れ物扱いされたほうがマシなこともあるんだと思い知った。
まだ理解ができていない人たち
恋愛対象を男性のみとする女性の中には、自分を変わり者にしたいがために、彼女がいたことや女に抱かれた経験もないくせに、「私もソッチの気があります」なんて言ってきたり、「女の子のアイドルとか好きで~」と、憧れを恋愛にすり替えようとする人がいる。
一番タチが悪いのは、女性に口説かれた経験や、レズにモテるというエピソードを作りたいがために、思わせぶりなことをガンガン言ってコチラに口説かせようとしてくる魔女だ。お前が合コンやら飲み会やらでほかの男に話すために、なんで私が協力しなくちゃならないんだよ!と思いつつも、まんまと引っかかったときの惨めさったらない。その気なんて微塵もないパターンに踊らされてきた。
そういう人たちは「私の友達もバイだし、まわりにそーゆう人多いから大丈夫!」と、理解者ぶってくる。「大丈夫」と許容してる時点で、なぜか受け入れる側に回っている。少なくとも私の知り合いのバイやレズやゲイは、別に許容や助けなんて求めてない。
セクシュアルマイノリティに対して、人はなぜこんなに想像力が欠けてしまうのだろう?と疑問に思うこともあるが、「なんにもわかっちゃいないね。これだからノンケは」と、逆の立場から差別発言をする現象も起きがちだ。
女性から男性になった方が「男同士なんて気持ち悪い!」と言った時点で、LGBTの人々全体が理解し合ってるわけじゃないと悟ったし、差別的な思考はどこにでも存在するんだとも思った。もっというと、LとGとBとTがなんでひとくくりにされてるんだ?とすら私は思う。
恋愛感情の波
お笑い芸人としてはさまざまな面から興味を持ってもらえるほうが得だし、話題になったらそれなりに盛り上がるが、そういった一連の下世話な質問や理解者スタンスの絡みがダルすぎて、私はバイだということをだんだん人に言わなくなった。悪気がないのはわかるのだが、うっとうしかったのは事実。こんなことを言うと、「理解してあげようとしてるのに」と押しつけがましく恩を売ろうとする輩も出てくるだろうが。
とある先輩に「お前はバイセクシュアルなんじゃなくて、性欲が強すぎて、その好奇心の先に同性との行為があったんだろう?」と言われたことがある。
じゃあ、本気で恋したあの人への想いの正体も性欲?いわゆる普通の女性から男性への恋心も性欲?私以外の人間もみんな性欲を抱いているだけなの?正真正銘の恋愛って?と、本当の恋愛とはなんなのかわからなくなった。
また、「男と女、どっちのほうが好きなの?」と聞かれることも多かったが、気持ちには波があった。特定の好きな人がいないときは、「女の子好き好き、あーヤバいね、抱きしめたい周期」と「男の子好き好き、あーたまらん、抱きしめろ周期」が、ランダムに訪れる。
バイ仲間の中ではそれが意外とあるある。私は比較的、夏は男の子に冬は女の子に恋をする傾向があり、それを「サザン(サザンオールスターズ)広瀬香美理論」と呼び、逆に夏は女性を冬は男性を好きになる傾向は「大黒摩季マッキー(槇原敬之)理論」と呼んだ。
もちろん、女の子にフラれて「とほほ~、しばらく女の子はこりごりだ。次は男にするか~!」(逆も然り)と、意識的に切り替えようとするときもあれば、まるで月の満ち欠けかのごとく抗えず、自然とどちらかに惹かれるときもあった。
既婚者の彼女との交際
ある日、彼女をライブの打ち上げに連れて行ったら、「彼女がいない男が余ってるのに、女のお前がどうしてこんな上玉と対になるんだ!」と理不尽な叱られ方をした。その当時、私がお付き合いをしていた子は、そんなことを言われるくらい誰が見てもかわいかった。
彼女もバイセクシュアルだった。出会ってから何度かデートを重ねていたが、奥手な私は相手が完全にこちらに気があるのが見えているのにもかかわらず、愛の告白ができずにいた。すると彼女のほうから「私のこと、友達だと思ってるならそれでもいいから」と、仕掛けてきたのだ。もう、結論を出すしかない私は「友達だなんて思ってない、よかったら付き合ってほしい」と告白。
すると、彼女はこのタイミングで、「うれしい! でもごめん。私、隠してることがあって……。実は、結婚してるの。でも、旦那にはもう愛情もなくて離婚しようと思ってるから、こんな私でも付き合ってくれる?」と、思いもよらぬことを言い出した。
告白するように誘導しておいて、既婚者カミングアウトは最高にズルい! しかし、なんだか「じゃあ、やめておこうか!」とも言えない空気だったし、私も好きになっていたので、既婚者の彼女とお付き合いをスタートさせた。
普通に考えたらこれは不倫。しかし、女同士でも不倫として成り立つのか?と思ってる人が多いだろう。実際「同性との浮気は罪悪感が薄い」と言っていた人もいた。同性と浮気されてもピンとこない、別に平気!異性とされるよりマシ!などと思ってる人が多いらしいが、私は今の旦那さんが男性と不倫してたら激しく嫉妬すると思う。
その彼女は自分は不倫しているのに、嫉妬深かった。社会人は仕事だろうと、プライベートだろうと男女の垣根なくさまざまな場で人付き合いがある。だから、いちいち疑われていたらキリがないが、バイはどんな人と会うときも、いちいち疑われる。
異性の先輩と会うと伝えたら、「また○○先輩と飲みに行くんだ?」と浮気を疑われたり、同期の女芸人にネタの相談をしに行くと伝えたら、「仲がいいからって家でふたりきりはおかしくない?」と言われた。その都度、しっかりと関係性を説明し、潔白を証明したが、理解を得るまでかなり苦労した。
少し重い彼女が応援してくれた『R-1』
その彼女と付き合っているころ、私は『R-1ぐらんぷり』で奇跡的に勝ち進んだ。なので“今は勝負の時だ!”と意気込み、バイトも入れず、ひたすらネタに集中する日々がつづいた。彼女も私に内緒で3回戦を観に来ていたらしい。
うれしかったが、少し怖かった。なぜなら、彼女は、旦那との家を出て、私の住む街の隣の駅に引っ越してきたから。そこまでされると、正直、重い。私の彼女への気持ちより、彼女の私への気持ちのほうが遥かに上回っていることが、恋人同士のバランスとしてはあまりよくない状態だった。しかし、彼女のおかげ(?)なのか、私はその年、準決勝へと駒を進めることができた。
それまでの人生で一番の大勝負と言っても過言ではない、準決勝の前日。深夜までネタを直し、練習を重ね、そろそろ寝ようと思ったとき、彼女からメールが来た。応援メールか?と思いきや、「今から少しだけ会えない?」と、マンガやドラマでしか見たことのない一文。よりによってこんな大事なときに、会いたいって……。ほんとにそんなこと言ってくる人いるんだ、と彼女に対して失礼ながら、ゾッとした。
だが、言えばわかってくれるだろうと思ったので、「明日は大事な日だから会えない」と送った。しかし、「1分だけでいいから」と返信が。だんだんイラ立ち始めていると、「ってかもう、家の下にいるんだよね」と、さらにゾッとする返信。
ムカムカしながら外に出て、道路を見下ろすと、これまたマンガのワンシーンのように、街頭の下で寒そうに立っている彼女がいた。この日は2月。ひと駅とはいえ、真夜中に歩いて来たら寒いに決まっている。頑なに不機嫌そうな顔を崩さないよう降りて行った私に、彼女は小さくてかわいらしい袋を渡し、「明日、がんばってね」とだけ言って帰ろうとした。
あれ? それだけ? ほんとにこれを渡しに来ただけ? むしろ私が「待ってよ!」と引き止めた。
袋の中身は、手のひらサイズの手作りマスコット。しかもそれは、私が『R-1』でやっていたネタのキャラクターだった。「3514」というエントリー番号のシールまで貼られていた。
「絶対に受かるよ、私がついてるもん!」と言って彼女は帰っていった。彼女を見送り家に戻ると、なにやら手紙のようなものも入っていることに気がつく。同封されていた便箋には、びっしり「合格」の文字。相変わらず重いなぁという気持ちは拭いきれなかったが、邪険に扱ったことを少し後悔した。
結果、『R-1ぐらんぷり2009』は準決勝で敗退。
その年の春先、彼女が旦那の出張先に着いて行くことになったため、私たちは別れることになった。いや、着いて行くんかい!別れるんじゃなかったんかい!と、心の中で5万回ツッコんだ。
そんな経験をしてきた私も去年、男性と結婚をした。「もう女の子は好きじゃないの?」と聞かれることもあるが、ほかの既婚者にも「最近、恋してる?」と聞くのだろうか? やはりズレている。
真っ向から嫌悪する人、勘違いしてる人。思っているよりも私の「ジェンダー」のことを理解してもらえたと感じることはないが、年の差婚ですら異物扱いされる時代なのだから、恋愛感情に対しての人の常識なんて、気にする必要はなさそうだ。そもそも恋愛に誰かの理解なんていらないのかもしれない。
私自身も今までの恋愛感情に後悔はない。相手が男でも女でも、恋する気持ちを抱いたら、常識に捉われることなく、ときめく心を信じたいのだから。
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