小林私が語る『ラグナクリムゾン』の“新しさ”と淡い記憶
気鋭のシンガーソングライターで大のマンガ読みである小林私が話題の作品や思い入れの深い作品を取り上げて、「私」的なエピソードとともにその魅力を綴る新連載「私的乱読記」。
初回は9月30日よりアニメが放送され、小林も新曲『鱗角』をエンディング曲にも提供した『ラグナクリムゾン』の原作を掘り下げる。
マンガを軸にブツブツ書く
初めまして。シンガーソングライターを営んでいる男、小林私と申します。
成人男性がマンガを軸にブツブツ書く連載、そう聞いて馳せ参じました。比較的マンガを嗜む人生を送っていたのでありがたい話です。
好きなマンガは『世界鬼』岡部閏/小学館、『げんしけん』木尾士目/講談社、『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』谷川ニコ/スクウェア・エニックスなどです。
対戦よろしくお願いします。
『ラグナクリムゾン』の“硬派”な魅力
今回のテーマは『ラグナクリムゾン』小林大樹/スクウェア・エニックス。
先日アニメも放映され、そのエンディング曲の「鱗角」を担当しているのがおいらってワケ。おいおい、連載1回目からタイアップのアニメがテーマなんてクセえ……そう思われるのも仕方ない。性格があまりよろしくない俺ならそう思う。しかし、あんま気にすんな。いちマンガ読みとして忖度をする気はないし、SNSに異常に嘘が嫌いなオタクっているだろ? それが俺です。嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん。
さて、この連載が載るタイミングがアニメの何話放送時点なのか不明なので、原作にもフォーカスしながら話を進めていく。この連載のコンセプトがあくまで主軸にしたマンガに沿って自分語りをするということにあるとはいえ、多少の説明は必要であるし、個人的におもしろかったところも書いておきたい。
あとたぶん、マンガとかアニメとか、ゲームとか小説のたとえが死ぬほど多いと思うけど、許してほしい。
「……入須先輩、『ラグナクリムゾン』のネタを割られるのは、どんなに些細なことでも嫌ですか」
「いや、気にしない」
「そうですか。でももし先輩が嫌だと思ったら、ここからしばらく俺の言うことを聞かないでください。耳をふさいでも目をそらしても、方法は任せます」
『ラグナクリムゾン』をひと言で表すとしたら、まずは“硬派”な作品といいたい。大切な人や帰る場所を失って強さだけが残った未来の自分が、かつての無力な自分を嘆いて力を与える。その力で世界に蔓延る竜と戦い、狩る。
ある日突然強大な力を手にしたら俺TUEEE(死語)……にならないのが最も硬派なポイント。
「違うんだっ 本当にがんばったのはオレじゃなくて……でもっ そいつはもうここにいなくて……」
アニメ第1話、対グリュムウェルテ戦後のラグナのセリフ。
(原作ではモノローグで「遠い未来の誰かの 数十年分の思いが ただただあふれた」とあるシーン。原作だともうちょいあとに出てくる)
ラグナはすごい。俺だったら絶対に調子に乗ってしまう、未来の自分の力ならなおさらだ。ラグナが俺だった場合のセリフが以下である。
「ま~これが実力っちゅうか……ホントの“俺”みたいな?(笑)いいっていいって(笑)同期なんだからタメ語で(笑)」
こうなりてえ。なんかアイツすげえらしいって噂されてえ。先日、突然同級生から電話がかかってきたと思えば「今日祭りだから来い」とのことで1年ぶりくらいに地元に帰った。電話が来た時点で19時だったので祭りはほぼ終わっていた。とはいえメジャーアーティストの凱旋、さぞチヤホヤされてしまうだろう……。
ちょっと困るって(笑)ま、フォロワーは多いけどサ(笑)の素振りをしながら勇んでみたものの、一番すごいとされていたのはシェフになって店を開いたやつの話だった。シェフか……シェフはすごいな……オーナーというのもすごいな……同い年で……あとみんな普通に結婚とかして、車とかも買ってんな……そっか……オレは……やることがあるから残るよ……。
強さのインフレから始まる新しさ
閑話休題、『ラグナクリムゾン』のおもしろさ、パワーバランスの話をしよう。バトルもので主人公と敵の力関係をどうするかというのは永遠の命題であるわけで、数々の作品が数々の答えを出している。
ベタなものだと修行。『ドラゴンボール』鳥山明/集英社や『HUNTER×HUNTER』冨樫義博/集英社がわかりやすいだろう。現状ではどうにもならない相手に対し、修行をすることで倒せるレベルまで力をつける。
あるいは共闘。ひとり、もともとのチームに足りない要素を補う仲間が増える。ないし今までに倒した敵が仲間になるとか。
これらは敵の強さが一定というか、始まりの街でLV10の敵Aを倒して、次の街でLV20の敵Bを倒して……といった具合。『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平/集英社なんかは主人公と最初の敵がLV1から始まってそろって強くなり、大規模な戦いに発展していくというスタイル。
さらにこのレベルの上限をどこに定めるか、という問題もある。
『ワンパンマン』ONE/集英社なら主人公が初めからカンストしていて、それを物語の中でどう動きにくくさせるかというハラハラがある。上限が初めから決まっているパターン。
『トリコ』島袋光年/集英社は上限を取っ払い、最終的にはほぼ無際限な数値になる。バトルマンガの例で出すのも少し変だが、『嘘喰い』迫稔雄/集英社はそのへんのバランスが素晴らしくうまい。最強という肩書を背負ったキャラクターが最後まで最強のまま魅せていく。サイタマがLV∞としたら、伽羅はLV88(レッドのピカチュウ)みたいなものだ。
では『ラグナクリムゾン』はというと、前述したとおりラグナの未来から得たLV100の力でスタートをする。では対峙する竜族はというと、こちらもLV100を携えている。つまり、強さをインフレさせてから火蓋が切られるのだ。
ポケモンでたとえるならオープンレベルのバトル。では何が戦いの肝になるのか、対アルテマティア戦がわかりやすい。
ラグナの特性は現在では本来たどり着けなかった銀気闘法、対するアルテマティアの特性は時操竜の名に冠するように時を操る力、時操魔法である。これによりチートvsチートの構図が爆誕する。
銀気闘法の弱点は現在の肉体に未来の力が追いつかないことによるオーバーヒート、時操魔法の弱点は“止める”と“戻す”を同時に使えないことである。どちらも強力でありながら弱点は戦いの中で基本変わらない。その使い方によって結末がいかようにでも変わってしまうバランスが目を引くのだと思う。高レートポケモントレーナーのレンタルパーティーを使ってみても動画見たときの強さを感じにくいように、使い手や戦況がその強さを上下させるのだ。
この戦いの結末は本編で追ってほしい。原作の「世界よ巻き戻りなさい」の表現は圧巻である。
掘り返される公文の記憶…
連載コンセプト的にはそろそろ自分に絡めた話題をもうひとつくらい出したいところだが、うーん、ここまで来るとあんま自分と関係ないからなぁ……めちゃくちゃ寝てしまった日に時操魔法使えたら、とかはあるが。
銀気闘法といえば、『デビデビ~DEVIL&DEVIL~』三好雄己/小学館というマンガの主人公のひとり、ソードのバトルスタイルに暗黒魔闘術というのがある。魔力を体にまとって戦う術だ。
昔通っていた公文の1階が待合室のようになっていて、待合室といっても病院のような感じではなく、ボロい小屋のような佇まいで電気も薄暗く、たとえるなら『ビットワールド』のHPにあった脱出ゲーム『ミオとモジャビーを救え!幽霊屋敷の謎』みたいな雰囲気だった。
そこには『奇跡体験!アンビリーバボー』のコミカライズや『カンニンGOOD』毛内浩靖/小学館といった習い事をしたあとに読むには刺激の強い本がたくさん置いてあり、『デビデビ』もそのひとつだ。
『ラグナクリムゾン』を読みながら、そんな淡い記憶を掘り返したりもしていた。これはみんなにも関係ないか。
そろそろ書き終えていいだろうか? よさそうだ。
文字数の縛りも特に言われてないから、もしかしたら15文字くらいでもよかったのかもしれない。
15文字でよかった場合、次回は下記をそのままコピペで提出します。GG
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ジャンケットバンクめちゃオモロ
第2回は12月発売予定の『クイック・ジャパン』vol.169に掲載。
(※本連載は『クイック・ジャパン』と『QJWeb』での隔月掲載となります)