神保町よしもと漫才劇場を中心に活動している吉本興業所属のお笑いコンビ・めぞんの吉野おいなり君による連載「吉野おいなり君の妄想日記」。
今回はおいなり君が恋愛ドラマ『失恋不可避』(9月30日よりYouTubeで公開)で主演を務めるということで、撮影現場での妄想を綴ってくれます。
失恋不可避撮影断念不可避
よろしくお願いします! めぞんの吉野おいなり君です!
この前、妹の日というものがあって、その日に吉本の社員さんがにやにやしながら近づいてきて「妹の日らしいですよ、何か妹のことについて語ってもらっていいですか?」と動画を回し始めたのでキレておきました!
僕は妹の日に騒いだりしません。それは妹が本当にいない人の所業なので。
僕には架空の三姉妹がしっかりいます。
妹の日で騒いだり、妹が題材のマンガを読み漁ったりすればするほど、僕の中のゆうかとゆめとうたが薄れていってしまう気がするので、皆さんもできる限り気をつけていただけると幸いです。よろしくお願いします。
今回も、見たい人だけが見てくれるこの電脳聖域で妹のことを4000文字綴ろうと思っていたのですが、またQゼーレ Web Japanから指示が出たので『失恋不可避』について書かせていただきます。
『失恋不可避』を知らない人もいると思いますので、ここで紹介させていただきます。
『失恋不可避』とは僕が出演させていただくことになったYouTubeドラマで、樋口日奈さん、森公平さん、堀口紗奈さん、西尾まうさん、ヒラノショウダイさんが出演される恋愛ドラマとなっていて、5話までをYouTubeにて公開、そして最終回を劇場で公演するといったかたちになっています。その主演に選ばれました。
主演?
恋愛ドラマの主演?
相手が元乃木坂46の樋口日奈さん?
実際に現実世界で?
掲示板内のなりきりチャットでその役を演じて、文字を打ち込んで演技するのではなく?
現実世界で?
異常事態が発生しています。強い異常事態が。
エマージェンシー、
エマージェンシー・ワトソン、
僕の中のエマージェンシー・ワトソンも言っていました。
「発音が違ってる。正しくは恋愛ドラマ。アナタのはなりきりチャトー」。
そして、その顔合わせ?本読み?がこの前あったのですがすご過ぎてすご過ぎて。
まず全員、なんっていうか、しっかりしてる人たちで大人って感じでしたし、共演していただく方たちは全員きれいでカッコよくてシュッとしててきれいでかわいくてカッコよかった。
変なカプセル状の頭で体のどこにも筋肉がついていないのは僕だけでした。
キノコスライム。
本当に全員、アニメの世界の人みたいだった。
マジで整っていた。
その中にキノコスライムが侵入してしまった。
エマージェンシーコールを出していたのは『失恋不可避』側かもしれない。
“ドラマの撮影したらキノコスライムだった件”
そしてヒロインの樋口日奈さん。
やっぱりアイドルってすごいんだなと思った。
かわいいとかかわいいとかかわいいとかはもはや当たり前で、標準装備で、優しくて気遣いができて、あり得ないぐらいいい人だった。
もはや僕のような人間がそんな評価をするのさえおこがましいのだけれど、これは伝えなくてはならないと思って。まあそんなこと知ってるし、いまさらお前のようなキノコに言われる必要はないという意見もわかりますが、黙っていてください。
本当にいい人だった。
慣れない環境に初対面の人たちがそろいまくっている状況でテンパりまくってる僕を見かねて、優しく話しかけてくれた。ずっと質問してくれて、僕の答えに笑顔で相づちを打ってくれた。楽しそうだとも感じた。感じるだけなら自由なので。
僕が16歳で場所が2-Aの教室だったなら確実に告白していた。
危な過ぎる。
29歳で吉本の本社でよかった。
耐えた。
YouTubeで樋口日奈さんの動画をたくさん観るだけですんだ。
正直、相手の女優さんに緊張し過ぎてドラマが撮れないなんてことになるのは言語道断だから、たくさんYouTubeを観て慣れておこうという気持ちもあったのだが、完全な逆効果。裏目。もはやテレビで観ていた憧れの人に会う状態になってしまうかもしれない。ゲームセット。
『失恋不可避撮影断念不可避』
まあ、そんな弱音言い訳泣き言を言っていても始まらないので、今日も台本を穴が開くほど見つめている。
台本は僕に恋しているかもしれない。
『台本不可避』
同じ景色のズレ
ドラマの話はこんな感じとなっています。ここからは僕の学生時代に憧れていた恋愛を書きます。
ただただ、ただただ書きます。
「……セルゲイ•ドラグノフ!!! ……あ、夢か、……今、何時だ?」
ふと窓から見える外の景色に目をやると、空が赤暗くなっていることに気がつく。
そうか、俺は朝まで『鉄拳』をしていて、気がついたらリビングで寝てしまっていたのか。
普通の高校生なら、こんな時間に起きてしまったら罪悪感に押しつぶされてしまうのだろうけど、俺は違う。なぜなら、学校は今から始まるのだから。
俺の名前は吉野裕介。夜間学校に通っている17歳の男子高校生だ。17時半から21時までの学校に通っている者として、夕方は朝なのだ。
夜間学校は、場所にもよるのかもしれないが、実は同じ年の人が多い。年上の人とかも同学年にいるが、俺のクラスはほとんどが同じ年の同級生だ。とはいえ、女子はほぼおらず、男子校といっても差し支えのない状況だ。
“夜の男子校”
最悪の響きだ。いいことがひとつもないように感じる。それでも通うしかないのだ。
高等学校卒業証明書を持っておくことはいいことだから……。
高等学校卒業証明書行きの電車に揺られながら思う。こんな福岡の片田舎での暮らしは、俺に何を与えてくれるんだろう。一般的に必要とされている資格以外に、俺に何をくれるんだろう。地方鉄道の乗客の少なさと薄茶色の景色は思春期の脳をセンチメンタルに走らせる。
「あの、この電車って〇〇高校の最寄駅に着きますか?」
「あ、えっと、はい」
その高校の名前ならよく知っている。いつも俺が日が落ちてから通っている高校の名前だ。
「そこになんの用ですか?」
……なんて聞けたらよかったんだけど。初対面の人に明るくない性格と、突然話しかけてくれたその子があまりにも現実離れしたかわいさだったから。
この田舎にどう考えても似つかわしくないほどに輝いていて、まるで強引なコラージュ画像のような違和感さえあった。
そんなことを考えていたら、質問された駅に着いていて、いつの間にかコラージュはなくなっていた。
いつもどおりの景色だ。
そしていつもどおりの長過ぎる坂を登っていくと、いつもどおりの暗闇に紛れて見えづらい校門をくぐる。今日もまたいつもどおりの変わり映えのない日常だ。
「……はぁ」
何もつらいことなんてないし、何も嫌なことなんてない。ただ何もないことが、無性に嫌なのだ。
あとは、本当に嫌な授業をまたそつなく乗り切るだけだ。これもまたいつもどおりの景色がつづく地方鉄道の車窓となんら変わりない。ただ、目的の駅に着くのをただ揺られてボーッと待つだけだ。
そう思っていた。何も変わらないと。
ごく稀に車窓から見つける、薄茶色の中に都会に憧れたようなデザイナーズなんちゃらみたいな名前のつくビルが建っているぐらいの変化を、それでも少し心が躍ってしまう自分に嫌気が差しながらも結局普段どおりを貫く日々を繰り返すと。
そう思っていた。この瞬間まで。
「あ、あの遅れてすみません!」
まさかまた同じ景色のズレを見られるなんてとか、なんで同じ電車で来たはずなのに遅れているんだとか、こんな学校にも転校生が来るのかとか、そんな些細な疑問は気づけば一瞬で吹き飛んでいた。
「今日からこの学校に転校してきました。樋口です。よろしくお願いします」
それはたぶん、俺の陰鬱な気分とか、各駅停車の高校生活を恋という名の特急電車が吹き飛ばしてくれるのだという期待に胸がふくらみ切っているからだ。
必要な駅など何ひとつないといわんばかりにすっ飛ばしていく。
その爽快感に、何かが変わる気がして。
喜びに、何かが進む気がして。
「あ、あなたさっきの!」
それはまるで、この薄茶色の教室の中に都会でしか見られないような、アイドルという名前のつく美少女が立っている変化にすごく心が躍っている自分に。
お疲れ様でした!!
完全に妄想です!!!
ばいばい!!!!!
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