2度目のコンビ解散を救ってくれた、もうひとりの自分。鈴木バイダンと鈴子の不思議な関係

鈴木バイダン

文・編集=梅山織愛 撮影=晴知花


神保町よしもと漫才劇場に所属するお笑い芸人に自身の“出囃子”について聞く連載「大舞台で響かせたい」。今回は鈴木バイダンが登場。

今年1月にオドるキネマを解散し、ピンでの活動を開始したバイダン。現在は恋愛と同じように新たな相方探しに翻弄されながらも、ひとりを楽しんでいるという。そんな彼が新たなスタートに選んだ出囃子の由来やピンでの活動を支えてくれている存在について聞いた。

鈴木バイダン
(すずき・ばいだん)1991年12月2日生まれ、東京都出身。パンプキンショートケーキ、オドるキネマなどのコンビ活動を経て、現在はピン芸人として活動中。2023年4月に神保町よしもと漫才劇場の劇場メンバー入りを果たした。

鈴木バイダンの出囃子 山口百恵「プレイバックPart2」

鈴木バイダン
鈴木バイダン

──ピンでの活動を開始してからこの出囃子を使用しているとのことですが、なぜこの曲を選ばれたんですか?

鈴木バイダン(以下、バイダン) 出囃子って使い始めたら、めちゃくちゃイメージつくじゃないですか。だから、なかなか決められなくてSNSで「出囃子どうしよう」って言ったら、後輩のめぞんの原(一刻)ってやつが「バイダンさんのイメージだと『プレイバックPart2』だと思います!」って言ってくれたので、これでいこうかなと。なので、仮決定みたいな感じなんですけど、わりと気に入ってるし、自分に合う感じもするので、今のところ変える予定はないです。

──原さんはなぜこの曲をおすすめしたんですか。

バイダン なんでですかね~。僕もわからないので、本当はこの取材に原もいてほしかったです(笑)。

──でも、バイダンさんのネタのキャラクターの中でも印象深い「鈴子」には「プレイバック」がぴったりだと思います。

バイダン そうですかね。まあ、今は僕自身よりも鈴子で覚えてもらってるほうが多いので、そういう意味でもいいのかもしれないです。

鈴木バイダン

ピンチを支えてくれたのは「鈴子」

──そもそも鈴子はどんなきっかけでできたんですか。

バイダン 最初のコンビを解散して、ピンでテレビに出なきゃいけないってなったときにできました。不思議な感覚なんですけど、鈴子ってモデルとか特にいなくて、僕の中に別人格みたいに存在してた感じなんですよ。鈴子のネタを作ってるときとか、僕自身は何も思いついてないのに、一回、鈴子を入れてしゃべり出すとスラスラセリフが出てくるみたいな。自分でも扱い方がわからないんですけど(笑)。まあ、声とかも作ってるわけじゃないんで、よけいに自分と近い存在なんでしょうね。

──鈴子は自分の中にいるもうひとりの自分という感じですか。

バイダン そうですね。だけど最近は徐々に鈴子に飲み込まれてる感じもしてちょっと怖いんですよ(笑)。日常生活でも意識してないのに、「なにぃ~あんた~」とか鈴子の口調が出ちゃったりして。もはやバイダンってどんなだっけ?ってなることもあるので、バイダンがいなくなって鈴子だけにならないように気をつけたいです。

──ピンになって鈴子をやる機会が増えたからですかね? 今は鈴子のコントをやることが多いですか。

バイダン そうなんですけど、最近は漫談とかもやってます。鈴子以外のコントにも挑戦したいですし。でも、ピンになったときはやっぱり、鈴子の存在が大きかったんですよ。鈴子のおかげでもらえる仕事もあったので、鈴子がなかったらやばかったなと。鈴子がいなかったら、舞台に立ってなかったかもしれないです。

──鈴子としての知名度に助けられた部分もあるんですね。ちなみに鈴子は“恋多き良い女”ですが、バイダンさんから見て、鈴子とはどんな女性なんですか。

バイダン 鈴子って人の恋愛にとやかく言うくせに、いざ自分の恋愛になったら全部飛んでっちゃうんですよ。他人の相談に乗るときは、そういう状況ならこうしたほうがいいよ、そんな相手はやめたほうがいい!とか言うのに、いざ自分のことになったら「えー、でも好きだから無理!」とか言っちゃう。自分の恋愛はすごく苦手なタイプだと思います。だからいい男は捕まえられないし、結婚もしないし、恋愛では幸せにならない。結局、不幸なまま友達と「ダメだ、私また同じこと繰り返してる」って言いながら、お酒を飲むんだと思います(笑)。

──その姿、想像できますね……(笑)。では、鈴子から見たバイダンさんはどんなタイプに見えますか?

バイダン こっちは考えたことなかったなー。どうなんだろう(笑)。

鈴子 でも、バイダンって誰にでもある程度優しいんですよ。だから彼女ができても、特別優しくするとかはしない。みんなへの優しさと同じ。だから、彼氏としてはあんまりいい彼氏じゃない気がします(笑)。付き合う前は、優しくされたらうれしいし、どっしりしていてゆっくりしゃべるので、頼りがいあるかも、とか思うんですけど、いざ付き合ったらつらくなっちゃうと思います。なので、鈴子目線からはおすすめできない。

バイダン ……恥ずかしいですね(笑)。

──ありがとうございます(笑)。

ピンでやる覚悟は決まってない

鈴木バイダン

──ピンになって約2カ月で劇場メンバーになり、順調なスタートを切ったと思いますが、今後もピンとして活動をつづけていく予定ですか?

バイダン どうですかね~。まだ、ピンでやる覚悟は決められてないんですよ。なんとなく相方探しながら、ピンでいただいた仕事はがんばろうっていうフワフワした状態のままいたら半年経ってたって感じなんで。

──ピンになって、舞台に立つことへの心境の変化はありましたか。

バイダン ネタに関していえば、これまでよりただただ疲れますね。今までは5分間、ふたりでしゃべってたのに、その時間ひとりでしゃべりつづけなきゃいけないので……。でも、ウケたときは、全部自分のものになるので楽しいです。だけど、コーナーとかトークのときは、どうやって立ち回ればいいんだっけ?ってなります。神保町の中だとわりと先輩になるので、頼られることもあるんですけど、今は自分自身もどうしたらいいのかわからないので、やめて!って思います。

──コンビのときに必要とされていたことと変わった感覚ですか?

バイダン 変わったというか、コンビでやってたときに自分ができてなかったこともやるようになったというか。今までは相方がいたから、あまり意識してなかったことでも、これ苦手だったんだとか、これまで気がつかなかったこともいろいろ発見してる感じです。

──ネタ作りはこれまでどうしてたんですか。

バイダン ネタを書くことに苦手意識があって、一からひとりで書くっていうのはしたことなかったんですよ。相方が書いてきたものをもとにふたりで作っていくって感じでした。

──では、今はどうしてるんですか?

バイダン まわりにひたすら相談しまくってます。作家さんとか芸人仲間とかに「これどうかな?」って相談しながら、作ってます。ずっとピンでやってる人って本当にすごいなって思いますよ。自分だけで書くなんて僕は無理です。

相方探しは恋愛。今はひとりも楽しむ

鈴木バイダン

──新たにコンビを組みたいという想いもあるんですね。

バイダン ありますね。でも、ずっと誰と組めばいいんだろう……ってなってます。次はその人と組むんだ……ってなるのは寂しいんで、いいニュースとして届けたいんですよ。次はこんなすごいコンビ組んだよ!って。だけどその反面、話題性を意識してるのも違うなとも思うし、だったら何も考えずにとにかく仲いい人と組もうかな、いや、でもそれもちがうよな~とか。そんなことをずっと繰り返して考えてる感じです(笑)。本当に誰かいい人いたら紹介して!って状態なんですよ。なんか本当に恋愛してるときみたいですよね(笑)。

──確かにその考えを巡らせる感じは本当に恋愛みたいですね。

バイダン この半年で何人かとネタを試してるんですけど、ちょっとよかったなと思って自分の中では保留にしてた人が、別の人とコンビ組みますってなったときに、え?待って、待って?私は?とかなる感じとか、一回やってみていいなと思ってた人が違う人ともネタを試してたりすると、俺意外ともやるの?みたいに思う感覚とか(笑)。本当に恋愛ですよね。

──8月10日に開催される単独ライブには、『バツ2』というタイトルをつけられましが、これにはどんな想いがあるのでしょうか。

バイダン これまで2回も離婚(解散)してるんだから、そろそろひとりで生きていけるくらい強くなりなさい!って意味もありつつ、バツ2とはいえ、また次の恋愛できたらいいなっていうどっちの意味もあります。でも単独自体は、自分に対して発破をかけるというか、いつまでもグダグダ言ってないで、ピンとして腹括れよ!っていう意味でも開催を決めました。

──今はまだコンビを組むことも迷いつつ、ピンとしてがんばっていくと。

バイダン そうですね。過去にコンビを数回経験して、コンビ楽しかったなとかいう想いも残ってるので、やっぱり組みたいかもなとか思っちゃうんですよ。流れに身を任せてって、恋愛に置き換えたら絶対よくないんですけど、とりあえず今はそんな感じで、ひとりを楽しもうと思います。

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  • 鈴木バイダン第1回単独ライブ『バツ2』

    日時:2023年8月10日(木)開場20:45/開演21:00/終演22:00
    会場:神保町よしもと漫才劇場
    会場チケット:前売り1,500円(税込)/当日1,800円(税込)
    オンラインチケット:1,200円(税込)

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梅山織愛

(うめやま・おりちか)1997年生まれ。珍しい名前ってよく言われます。編集者・ライター。自他共に認めるミーハー。チョコレートとかき氷が好き。

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