「おじさんであることを受け入れてから、よくなってきた」芸歴23年目・なすなかにしが見つけた自分たちらしさ

2023.8.4
なすなかにし

文=釣木文恵 撮影=山口こすも 編集=梅山織愛


いとこ同士という珍しい関係性のお笑いコンビ・なすなかにし。子供のころから一緒に遊んでいたというふたりに今後の展望を聞くと、「死ぬまでふたりで遊んどこうと思う」と答えた。

芸歴23年目。さまざまな経験を経て、“自分たちらしく”歩むことを決めたふたりが描くこれからとは。

前編はこちら

自信だけで上京するも「全部なくなった」。どん底を経験したなすなかにしが“ロケの達人”になるまで

“ベテラン”イメージにようやく追いついた

なすなかにし
なすなかにし(左・中西茂樹、右・那須晃行)

──おふたりは若いころから「ベテランっぽい」と言われていましたよね? そのことについてはどう思っていましたか?

那須晃行(以下、那須) 最初は嫌でした。デビュー直後から「新人ちゃうでしょ」とか言われてたよな。

中西茂樹(以下、中西) 20代のころから「ベテランでしょ」と言われて、意味がわからなかったです。若いころなんて特に、モテたかったし、自分らとしてはフレッシュなつもりでしたから嫌でしたよ。……ただ、やっぱふたり共このように地獄の声帯をしてますので。

那須 声がね……(笑)。ベテランと言われても仕方ない。

中西 あまりにもベテランと言われるんで、一度、師匠キャラの漫才をやってみたりもしたんですけどね。

那須 30代くらいだったかな。

──今ではおふたり共、ベテラン感を全面的に受け入れているように見えますが、いつごろから受け入れるようになったんでしょう?

那須 東京に来て、『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ)に出てたころちゃう?

中西 いや、あのころも僕、まだ目が痛くなるような蛍光黄緑の短パンとか履いて歩いてましたね。

那須 まだモテたかったんや。

中西 僕、40歳くらいになっても、よその子供が困ってたら「よし、お兄ちゃんがやったろか」とか言ってたんですよ(笑)。でも、ようやくここ数年で、だんだんおじさんであることを受け入れて、等身大で振る舞うようになってきました。個人の感覚ですけど、それは僕の中では大きな転機だったかもしれません。

那須 雰囲気にやっと年齢が追いついたよな。そうやって少しずつテレビにも出られるようになった今、第一線で活躍されてる方が、大阪で一緒の時代を過ごした方々だから、「やっと来たか、なすなか」と言ってくださる方ばかりなんですよね。それこそ川島(明/麒麟)さんとか、『笑神様は突然に…』(日本テレビ)でいうと千鳥さんとか。あと大阪ではないですがサンドウィッチマンさんも「本当に苦労してたもんな、お前ら」とすごい優しくしてくださって。それがめちゃくちゃうれしいんですよ。

──少し話がそれますが、おふたりが大阪にいた時代は今よりもっと「吉本vs松竹」という対立構造が強かったのではないでしょうか。

那須 当時はほんとそうでしたね。

中西 だから吉本の方としゃべったことなかったです。せいぜい挨拶くらい。

那須 芸人同士で勝手に縄張り意識もあって。「この道より向こうは吉本さんやから」とか言い合ってたよな。

中西 大阪の、千日前に行くともう吉本さんというイメージでしたね。。

──そんななかでも、川島さんや千鳥さんはなすなかにしのことを認識してくれていた?

中西 大阪の賞レースで一緒に戦ってましたから。

──そんなみなさんが今、「やっと来たな」と言ってくれるんですね。

那須 素敵な時代になったなと思います。

中西 あのころ戦っていた皆さんがいなかったら、今の僕らはないんじゃないですか。ほんと、感謝してますね。

なすなかにし

もう漫才でピリつきたくない

──漫才についても少し聞かせてください。おふたりは2022年から『なすなかと22』という単独ライブを定期的に開催されていますが。

中西 やっぱり、僕ら漫才師なので。ネタを作ること、舞台に立つことは当たり前だし、僕らの軸の部分なので、そこはずっと大切にしていきたいという思いがあってライブをやっています。

──2022年に芸歴22年を記念してスタートしたライブで、今年9月に第22回でフィナーレを迎えるんですよね。これまでもナイツ、2丁拳銃、四千頭身など豪華なゲストの方を呼ばれていましたが、このライブで得たものは?

那須 ゲストに出ていただいた方々にほかの現場で会ったとき、気さくにしゃべれるようになったのは大きいですね。昔は僕ら、収録なんかでもぽつんとひと組だけでいることが多かったんです。でもこういうライブをやったことで、他事務所の芸人さんと交流ができるようになったので。

中西 人見知りなところがあって、これまで全然しゃべれなくて。

那須 今では他事務所の人たちとご飯食べに行ったりできるようになりました。それと、やっぱりゲストの方のネタを見ると勢いを感じて、気を引き締められます。

中西 僕ら自身、継続的にネタを披露することで自分たちの漫才のスタイルも少しずつ変わってきました。「ああ、こういうのが自分らのやりたかったことなのかな」というものにだんだん近づいていっている感覚はあります。

──なすなかにしさんは2016年に『M-1(グランプリ)』のラストイヤーを迎えられましたが、その時点ではどんな感覚でしたか?

中西 あんまり「これでもう終わりだ」とは思わなかったですね。より、のびのびとするきっかけにもなったかもしれない。

那須 開き直りました。「もう出るものがないじゃん。じゃあ、好きなことやろうよ」と。

──おふたりを含め、賞レースから解き放たれた芸歴15年を超えたみなさんが、新しい賞レース『THE SECOND』のスタートによってまた勝負の場に引き戻されましたが……。

那須 これからの芸人さんは大変ですよね。今は結成5年未満の大会もあるじゃないですか。そこから『M-1』があって、『M-1』が終わったら『THE SECOND』がある……。地獄のような芸人生活を送ることになる。

中西 そのぶん、ネタで世に出るチャンスは増えたわけですけどね。

那須 今年の『THE SECOND』はよかったですよ。肩の力が抜けた方ばっかりで、楽屋も和気あいあいとして。

中西 そうそう。僕、楽屋でかもめんたるの槙尾(ユウスケ)さんと楽しく写真撮ってましたもん。

那須 本当に賞レースなのか?と思うくらい和やかだった。『M-1』に出られなくなった芸人さんたちはみんな開き直った期間があるから、本当に楽しくネタをされていましたね。お客さんも予選から盛り上がってたし。

中西 そうそう。

那須 ……ただ、第1回があれだけ盛り上がって終わったことで、「これ決勝行ったら売れるぞ」という空気感が生まれて、第2回からはちょっとピリピリするんじゃないかと思って。それはすごく嫌なんですよね。もうピリピリしたくない。

──でも、挑戦はされますか?

中西 わかんないですね。

那須 おそらく出る……かもわからないですね。ピリついてるようなら、出ないかも。

中西 ほんまにピリつきたくない。僕らはおじさんらしさ全開で、楽にいきたいです。

ずっとふたりで遊んでいる感覚で

なすなかにし

──最後に、これからの展望を聞かせてください。

中西 もともと、ちっちゃいときから那須とふたりで一緒に遊んでたんで、もう死ぬまで遊んどこうと思ってますね。

那須 それが一番やな。

中西 今までがそうやったんで。一緒に遊んで楽しかったのがここまでつづいて、今いい感じになってきてるんで、これからも遊びつづける。

那須 欲を出していろんなことを考えてるときほど、うまくいかなかった気がするんですよ。縛られていたものから解き放たれて、開き直って、「もう自分らが楽しいことをやろうよ」となってからいい方向に進み出した気がします。だから行く現場行く現場、自分たちらしく、ふたり仲よく遊んでる感じでやっていけたらなと思います。

中西 そらほんまはカッコよく、華やかに『M-1』とかで世に出たりしたかったですけど、僕らは結局そっちじゃなかった。おじさんであることを受け入れてからよくなってきたので、最後は人生を受け入れることじゃないですか。

那須 コメントがまだモテたがってるなあ。

中西 結局、まだおじさんを受け入れ切れてないんかもしらんな(笑)。

なすなかにし

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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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