全員が師匠並みの貫禄だった『第44回ABCお笑いグランプリ』

2023.7.23

写真=(C)ABCテレビ

文=かんそう 編集=鈴木 梢


芸歴10年以内の若手芸人たちの登竜門『ABCお笑いグランプリ』の第44回大会・決勝戦が7月9日(日)に開催された。漫才、コント、ピン芸、ウケればなんでもあり、ジャンル不問のお笑い異種格闘技として知られているが、この大会を制した芸人が未来のお笑い界を作ると言っても過言ではない。

ファイナルステージでは、なんと令和ロマンとダブルヒガシがいずれも671点という劇的な結果に。大会のルールに則り、ファーストステージの得点が高かったダブルヒガシが優勝した。それほどまでに激戦が繰り広げられたのは、どの芸人も非常にレベルが高く、審査もかなり難しいものになっていたからだ。

各組、どのようなネタを披露したのか。激戦の様子をお伝えしたい。

審査員はアンガールズ田中卓志が7年ぶり、かもめんたる岩崎う大が初登場

司会の山里亮太(右)、本田望結(左) (C)ABCテレビ

司会は南海キャンディーズ山里亮太と、京都府出身でフィギュアスケートと女優の二刀流をこなす本田望結のふたり。審査員は昨年に引きつづきハイヒール・リンゴ、矢野兵動・兵動大樹、陣内智則、かまいたち山内健司、ダイアン・ユースケ、そしてアンガールズ田中卓志が7年ぶり、かもめんたる岩崎う大が初めて務め、計7名。

個人的に衝撃だったのが、今大会のナレーション担当がラップグループMOROHAのアフロだったということ。開始10秒の「スター誕生はいつだってこのステージの上から」からマグマのような熱さで、それだけでも5000字の感想文が書ける。

決勝戦が始まる前にまず、前大会王者のカベポスターと、さや香、見取り図の3組がスペシャル漫才を披露し、会場のボルテージを上げる。3組ともさすがのひと言で、特にカベポスターの「星座」をテーマにした漫才は、切り口の新しさと彼ら自身のキャラクターが完全に合致したネタで今年の『M-1グランプリ』が楽しみになる素晴らしいネタだった。

【Aブロック】『THE W』優勝の天ピ、2年連続決勝のこたけなどが登場

天才ピアニスト
天才ピアニスト(C)ABCテレビ

『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』王者の天才ピアニストは「殺人事件」をテーマにしたコントを披露。殺人犯の独白あるある「高笑い」を軸としつつ、リアリティを損なわない絶妙な演技力と、それを超える破壊力抜群のボケとツッコミは、これぞ関西という笑いだった。

素敵じゃないか
素敵じゃないか(C)ABCテレビ

素敵じゃないかは、「悩み事」をテーマにした漫才を披露。吉野(晋右)の悩みの悩みを柏木(成彦)が話半分が話半分で何かをしながら聞くという漫才なのだが、その「何か」をするふたりのマイムが達人級にうまく、まるで本当にそこに学校机や浮き輪、デカい女や悪の組織などが存在するかのような錯覚に陥ってしまう。まったく新しいかたちの漫才を見た。

こたけ正義感
こたけ正義感(C)ABCテレビ

2年連続の決勝進出となった、こたけ正義感。スキマスイッチの「全力少年」を聴きながら、歌詞の中にある違法性をチェックする、弁護士芸人にしかできない唯一無二のネタを披露。「躓いて、転んでたら」は自身の過失なので違法性はないが、「泥水の中を」は自身の所有地かそうでないかによっては不法侵入の恐れがある、など次々にリーガルチェックをしていく。ちなみにスキマスイッチに直接許可をもらっており、どこでやっても法的にはOKらしい。

サスペンダーズ(C)ABCテレビ

Aブロック最後に登場したのは、サスペンダーズ。「結婚式」をテーマにした狂気と可笑しさが混ざったコントを披露。ふたりの演技力の高さも相まって、冒頭に感じていた違和感の正体が判明してからグッとその世界観に引き込まれてしまう、美しさすら感じるコントだった。

審査の結果、ほか2組を爆発力で上回った素敵じゃないかが、ファイナルステージへの切符を手にした。

【Bブロック】師匠のような風格の令和ロマンから芸歴8カ月の友田オレまで

ダウ90000(C)ABCテレビ

Bブロックのトップバッターは、2年連続決勝進出の8人組コント集団・ダウ90000。彼女ができたという蓮見(翔)にさまざまなたとえを繰り出す圧倒的な物量コント。7人それぞれがスポーツのたとえで違った角度のボケをしながら「パン」と「ドラマ」を入れ込みアクセントを持たせることで観客を飽きさせず、それを絶妙なタイミングでまとめ上げる蓮見のツッコミが中毒性を生み出している素晴らしいコントだった。

令和ロマン
令和ロマン(C)ABCテレビ

昨年準優勝の令和ロマンは「男らしい恋愛にぴったりの曲」としてback numberの楽曲たちを歌い上げる漫才を披露。歌詞の異常なまでの「かなぁ」の多さに着目するという、見つけた時点で勝ちのネタだった。飄々としてまるで掴みどころがない雲のような高比良くるまと、山のような安定感で堂々とツッコむ松井ケムリは、ハイヒール・リンゴのコメントにもあったように「師匠の(ような)風格」を見せつけた。

ハイツ友の会
ハイツ友の会(C)ABCテレビ

3組目は今年初決勝進出となった、ハイツ友の会。「バイトの先輩が声優学校に通っているから距離置きたい」という偏見まみれのネタ。一つひとつのパンチがあまりにも重く、もし声優学校に通っていたとしたら立ち直れなかった。

友田オレ(C)ABCテレビ

Bブロック最後は芸歴わずか8カ月の超新星・友田オレ。あらゆる「どうにかできたはず」といえる事象をテーマに、フリップを用いた歌ネタを披露。肝の据わり方が尋常ではなく、一瞬でその世界観に引き込まれた。歌自体の聴き心地のよさとネタ自体のおもしろさが完璧に融合した素晴らしいネタだった。

審査の結果、会場の空気を支配した令和ロマンが勝利した。

【Cブロック】ストレッチーズ、オフローズが決勝初出場

ストレッチーズ
ストレッチーズ(C)ABCテレビ

Cブロックのトップバッターは芸歴10年目で決勝初進出を果たしたストレッチーズ。ファミレスの店員と付き合いたいがために過去未来の時間軸を自由自在に飛び回るタイムリープ漫才。いかにもオーソドックスな漫才をやりそうな見た目からは想像もつかない変態的なネタのギャップがたまらない。

ヨネダ2000(C)ABCテレビ

ヨネダ2000は「他人に大声を出して謝る教室」をテーマにした漫才を披露。後半のリズムパートへの転調に気を取られがちだが、導入部分のしゃべくりパートがあまりにもよくできている。この世にないはずの「他人に大声を出して謝る教室」が存在するのではないかという錯覚にすら陥ってしまう。このしゃべくりパートがあるからこそ、後半の爆発力がより増していくというとても緻密に練られた構造になっているのだが、ふたりのコミカルさによってそれをまるで感じさせないすごさ。本当に恐ろしい漫才を体験した。

ダブルヒガシ
ダブルヒガシ(C)ABCテレビ

3組目のダブルヒガシは「職業に貴賎なし」をテーマにした漫才を披露。たとえるなら「言語化の化物」。「居酒屋のキャッチどっか行け」というほぼ全国民が体験したことのある不快感を、計算され尽くしたワードと間で見事なまでに表現した。キャッチへの毒舌からシームレスに教習ビデオあるあるにシフトする流れも見事。

オフローズ
オフローズ(C)ABCテレビ

Cブロック最後は今年決勝初進出のトリオ、オフローズ。「幽霊」をテーマにしたコントなのだが、とてつもないほどの展開の多さで見るものを飽きさせないテーマパークのようなコントだった。

審査の結果、最初から最後まで安定したウケを見せたダブルヒガシが勝利した。

ファイナルステージ

1組目は令和ロマン。「恋愛リアリティショー」をテーマにした漫才を披露。すべてボケが必殺級、かつツッコミのワードでさらに笑いが増幅され、展開のおもしろさもあり、オチすらも完璧、これ以上ないほどの完成度を誇るとんでもないネタだった。

2組目はダブルヒガシ。「一回も周波数を合わせたことがないラジオ」をテーマにした漫才を披露。ファーストステージと同じく、題材に対する言語化能力の高さがあまりにもズバ抜けている。あるあると毒を混ぜ合わせ、笑いの波が何度でも襲ってくる一生味わいたいネタだった。

3組目は素敵じゃないか。「◯◯つづける」をテーマにした漫才。1本目と同じく嫉妬するほどの発想力と、日本語のおもしろさと奇妙さの穴を的確なワードセンスで突いた、最高のしゃべくり漫才を披露した。

ダブルヒガシ
優勝が決まった瞬間のダブルヒガシ(C)ABCテレビ

冒頭にも書いたとおり優勝はダブルヒガシが手にしたものの、今大会の印象として全員、若手芸人とはとても思えないほどの貫禄があり、いったいこの先お笑い界はどこまで行くのかワクワクと同時に恐ろしさすらある。お笑いだけはAIがまだまだ追いつけない領域にあると実感した大会だった。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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