「納言・薄幸の煙たい記憶」。
この連載は、愛煙家である幸さんに人生の起点となった一服を綴っていただく“煙草回想録”です。
今月の記憶は、人生初の一服。
バイト先は、ドクソったれ性悪集団
私に限らず芸人は大体そうだけど、この仕事だけで飯が食える様になる前まで、恐ろしい数のバイトをしてきた。
芸人として売れていないから、仕方なくバイトをしていたのに、皮肉な事に私はバイトが向いていた。
自分で言うのも何だけど、そこそこ仕事が出来る方だった。
居酒屋でバイトをし過ぎて、一度にジョッキを11個、調子が良い日にゃ13個持てる。
そのせいでお客さんから“サーカス”という不名誉なあだ名をつけられた。
17歳の時にバイトしていたレストランでは、こいつなら任せられると思われ、バイトのくせにバイトの面接をしていた。
17歳の私は、10歳以上歳上の28歳のフリーターを“礼儀がなっとらん”という理由で不採用にしてみたりした。
託児所でも保育補助のバイトしていた。
24時間制の少人数の託児所。
少人数だと、一人一人がめっちゃくちゃ愛おしく感じる。
子供とバイバイする時は寂しくて、親とバイバイする時の子供より泣いちゃってた。
隠れてトイレでこっそり泣いていたもんだから、子供達の間でトイレにオバケが出るという噂が広まった。
託児所のバイトだけは、全く苦じゃなく、心から楽しんで働いていた。
そんな私はその後、『逃走中』で子役の子に「ガキが!」と言ったせいでプチ炎上した。
“初めてリプライ送ります。逃走中を見て貴方が子供が嫌いなのが、よく分かりました”
じゃないんだよ、手厳しい世の中だぜ。
ありがたい事に、仕事内容も人間関係も、ほとんどのバイト先で上手くいっていた。
ただ唯一、20歳の頃にバイトしていた居酒屋だけは、全く上手くいかなかった。
あんまり人の事を悪く言いたくないけど、まあ何というか、言い表すのなら、ドクソったれ性悪人間しか居なかった。
どう生きたらこんなに嫌な人間になれるのかって位、ドラマに出てくる様な嫌な奴だらけ。
一人だけ嫌な奴、とかじゃない。
だらけ!
嫌な奴だらけ!
唯一シフトの融通が利くというメリットのみで続けていた。
嫌な奴だらけの中でも、特に店長が嫌な奴だった。
もう、笑っちゃう位嫌な奴。
この時点で終わっている。
頂点の人間が良くないんだから、そりゃあその下も良い奴が居る訳がない。
店長は出勤すると、まずドアを足で開ける。
マジで何でだよ。
両手が塞がってるからとかじゃない。
手ぶらなのに、足で開ける。
意味が分からない。
そしてその後、2時間位バックヤードから出て来ない。
私が
「店長すみません!ヘルプお願いします!」
と呼びに行くと
「お前、混んでんじゃねえよ!」
と言ってから、やっと出て来てくれる。
私が混んでいる訳じゃないのに“お前、混んでんじゃねえよ”と怒鳴られた後、ヘルプに来てくれる。
店長が働く事をヘルプと呼んでいたのは、後にも先にもここの店だけだった。
ちなみにこの、店長を呼ぶ係も全員行きたくないから、ほぼ毎回私が押し付けられていた。
そう。忘れちゃいけないぜ?
店長だけじゃなく他も全員嫌な奴なのだ。
店長は、ピークが収まったらまたバックヤードに戻り、誰よりも先に賄いを食い、腹いっぱいになったら少し仮眠をとって、閉店の2時間前、22時で退勤する。
逆に、動かな過ぎてつまんないんじゃないかと心配になる程働かない。
17時〜22時までの労働。
平均稼働時間5時間。
バックヤードに居る時間を除くと40分。
店長はバックヤードで何をしているのかと言うと、200本煙草を吸っている。
バックヤードには、サスペンスドラマの凶器にしか使われない、でっかいガラスの灰皿が置かれている。
その人間性だから、いつか誰かに灰皿で殴られる日が必ず来るのに、その灰皿を愛用している。
捨てても捨てても、凶器灰皿が毎日ぱんぱんになる位煙草を吸っているから、多分200本吸っている。
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