萩本欽一さんとの、感動的で宝物のような時間|正田真弘写真室「笑いの山脈」最終回

文・撮影=正田真弘 編集=竹村真奈村上由恵


カメラの前に立ちはだかり、ネタの瞬間ものすごい存在感でエネルギーを放出するお笑い芸人。その姿はまるで気高い山のようだ。

敬愛するお笑い芸人の持ちネタをワンシチュエーションで撮り下ろす、フォトグラファー正田真弘による連載「笑いの山脈」。本業はポカリスエット、カロリーメイト、どん兵衛、Netflixなど見たことある広告をいっぱい撮っている人。

萩本欽一さん、芸を磨きつづける人の生き方

雑誌『ケトル』での連載から始まり9年、ついに最終回となりました。
「芸」を写真に残したいという思いから、数々の芸人さんを撮影していくにつれ、
芸を磨き、信じ、貫く。その生き様を感じることで、
いつしか自然と「芸」から「人」へ写真の重心が移っていったことも、
写真集『笑いの山脈』の装丁をしていただいたアートディレクター正親篤さんとの対話で気づきとなり、
写真のおもしろさも改めて知った次第です。
本では、その変化も楽しんでいただけたらと思います。

さて、冒頭が長くなってしまいましたが、
連載も長い旅のようでゴールをどこにするか、誰に辿り着くかがとても大切でずっと考えながら進めていました。

振り返れば幼少期、絵に描いたような家族団欒のお茶の間でテレビにかじりつき、
笑いの原体験は1976年に放送開始した番組『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日)だったことから、
最終回は欽ちゃんこと、萩本欽一さんでと決めたものの、そもそも受けてもらえるものなのだろうか。
何もせず不安になるくらいならと、まずはペンを手に取り、
思いを綴った撮影依頼の手紙を書いたのはカメラマンになって初めての体験であった。
何度か書き直し、編集の竹村さんに託し、結果を待った。

胸を高鳴らせる時間が流れ、受けていただけるという一報をいただいたときは両手の拳を突き上げた。
人はうれしいとき、やはりガッツポーズをしてしまうものなのだ。

そして、撮影当日。

撮影はオフィスの応接間をお借りして準備を進めた。
連載のゴールに辿り着いた感慨深さと緊張が入り混じり、
静かな空気の中で萩本欽一さんを迎えた。

挨拶をしてすぐ撮影スタッフみんなに声をかけてくれて、
現場は一瞬で朗らかな空気に包まれた。
いわば、そこはもう欽ちゃん劇場になっていたのかもしれない。

萩本欽一さんおなじみの欽ちゃん走りのポーズ。
これをしっかり写真に収めるべくやはり大判フィルム10枚、バックアップとして中判フィルム3本を準備した。

ケガから回復されて間もないことから両足のついたポーズを提案したが、シャッターを切るごとにしっかりと足を上げ、
芸に対し妥協のない姿はこの連載の最終回にふさわしく、芸を磨きつづける人としてのあり方、生き方を僕の心にしっかりと焼きつけてくれたのだった。

撮影が終わり、僕たち撮影スタッフに修行時代の話から運の話までいろいろと話してくださり、
時間は撮影を終えて1時間も過ぎていた。
その感動的で宝物のような時間は、連載を終えたご褒美のように思えた。


萩本欽一
1941年5月7日生まれ、東京都出身。浅井企画所属。1966年、坂上二郎に誘われコント55号を結成。司会を担当する番組が高視聴率をマークし、“視聴率100%男”という異名を持つ。長野冬季オリンピックの閉会式の総合司会や、クラブ野球チーム監督など、幅広いジャンルで活動。現在YouTube『(萩本欽一)欽ちゃん80歳の挑戦!』を精力的に配信中。

正田正広写真集『笑いの山脈』
正田真広写真集『笑いの山脈』

萩本欽一から空気階段まで、お笑い芸人55組が登場。
“芸”を真っ向から撮影した、“お笑いポートレイト集”『笑いの山脈』が誕生!
お笑い芸人たちの一発ギャグ、鉄板ネタ、代表コント、その最高のパフォーマンスを4×5の大判フィルムに焼きつけ、写真で切り取るからこそ迫力と活気に満ちあふれているお笑い芸人たちの“芸”を、金箔の見返し、180度開く手製本など豪華な造本に閉じ込めました。

【「笑いの山脈」展】
2022年11月12日〜12月5日まで、スタンダードブックストアのギャラリーにて14点ほど写真を展示しています。写真集『笑いの山脈』はもちろん、平山昌尚さんとのコラボTシャツ、トートバッグ、ステッカーも販売。

会場:スタンダードブックストア
住所:大阪市天王寺区堀越町8-16 2F
時間:11:30〜19:30

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