2022年10月からスタートした漫画家発掘ドキュメントバラエティー『THE TOKIWA』(日本テレビ)。11名の漫画家たちが熾烈な競争を繰り広げる本オーディションの優勝者は、劇団ひとりがこの企画のために書き下ろした原作をマンガにして、電子コミックサイト『まんが王国』で連載する権利を獲得する。
原作を書き下ろすにあたり、父方の故郷・高知県土佐市をその舞台に選んだひとりは、1日かけて自らロケハンを敢行。推敲を重ね、第5稿まで書き直しを行った。ひとりが約3カ月をかけ完成させた、ハートフルな青春ラブコメ『ようこそ!パラダイス劇場へ』原作第3話分を、QJWebにて特別公開。
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』
○波介山展望公園
崖から落ちていく夏海。
夏美の顔。
その顔が幼くなっていく。
○宇佐町・マリーナ
船が係留されていくマリーナの奥側。
宙回転しながらダイブする夏海(8)。
友達数人と遊んでいる。
夏美「いった! いま二回転したっとよ!」
友達「あかん! 最後、背中から落ちてたぜよ!」
夏海「なに! もう一回じゃき」
寿江の声「夏海ー!」
マリーナを囲む家々。
その中の一軒が北村家。
寿江の隣に手を繋いで弟の和樹(3)。
和樹「なちゅみー」
寿江「ご飯にするよー」
夏海「うん! すぐ行く!」
○北村家(夜)
外観。
○北村家・食卓
食卓を囲む北村家。
夏海、和樹、正平、寿江。
ガツガツと食べる夏海。
正平「おい、犬じゃないんだから、ゆっくり食えよ」
夏海「ふぁい」
夏海「おかわり」
寿江「はいよ」
寿江、台所でご飯を盛る。
寿江「美味しいだろ?その天ぷら。さっき採ってきたばかりだから」
夏海「また行ったの?」
台所に山菜。
食卓に寿江が戻る。
寿江「今だと〇〇とか〇〇がたくさんあるんだよ、あと確か……」
寿江が図鑑を手に取る。
寿江「あー、そうだ。〇〇だ。〇〇にして食べたりすると美味しくてね」
夏海「ふーん」
夏海が見ている寿江が手に持つ山菜・キノコ図鑑の表紙。
○山(日替わり)
北村家からそう遠くない山。
夏海が図鑑を持って歩いている。
後ろからついてくる和樹。
山菜を見て。
夏海「あ、これそうだ」
図鑑の〇〇。
夏海「ほら、和樹。お母さんが言ってたやつ。〇〇」
夏海「〇〇にするとおいしいんだって」
和樹「おいしい! おいしい!」
山菜を採ってバケツに入れてる夏海。
夏美「(図鑑を見ながら)生でも食べれるって書いてる。食べてみよっか?」
ふたりとも食べるが苦々しい顔で吐き出す。
夏美「にがーい」
和樹「まじゅい」
夏美「やっぱお母さんに天ぷらにしてもらおう」
立ち上がる夏美。
夏海「よし! もっと採るぞ!」
和樹「とるじょー」
吐き出された〇〇。
○走馬灯劇場内
画面に吐き出された〇〇。
峯岸「と、ふたりがうっかり口に入れたこの草はなんと」
峯岸「〇〇という、猛毒の野草であった。大人でもこれを食べると(毒の説明)」
スクリーンに野草の説明図。
夏海「うーん。でも今見てもやっぱり似てる」
峯岸「これを自分自身が食べたのはともかく、弟の和樹にも食べさせたわけだから」
峯岸「これは減点対象になるだろうね」
閻魔様、各劇場のモニターを見ている。
夏海の資料。チェック項目が並んでいる。
弟が〇〇を食べてしまった、の横にマイナス2点。
夏海「え? じゃ私、地獄行き?」
峯岸「ま、これぐらいは大丈夫よ。閻魔様も鬼じゃないから。……いや、鬼か」
峯岸「けど、もし吐き出さずに和樹が飲み込んで死んじゃってたら分からないね」
夏海「え? 死んでたかもしれないの?」
峯岸「そうだよ。〇〇を食べて、この劇場に来た人を僕も何人か担当したことあるからね」
夏海「はぁ、よかった。そうならないで」
峯岸、気を取り直して走馬灯へ。(講談師みたいに扇で机を叩く?)
峯岸「さぁ、吐き出したとはいえ、ふたりを弱らせるのには十分の量であった」
○山
図鑑を見ながら山中を歩いている夏海と和樹。
峯岸の声「そんなこととは露知らず、山菜とりに山の奥へ奥へと進んでいく」
夏美の額に冷や汗。
図鑑を落とす夏美。
夏美「ちょっと待って、なんか変……」
和樹「なちゅみ……」
和樹が嘔吐する。
夏海「!」
和樹に駆け寄る夏海。
夏海「和樹!」
体が震えてる和樹。再び嘔吐。
夏海「和樹ってば!」
和樹「うぅぅ」
夏海「どうしよう……」
走り出そうとする夏美が立ち止まる。
峯岸「助けを求めに行こうとするも、こんな山の中へ弟をひとり置いていっていいのだろうか?」
峯岸の声「迷った夏海だが、やはり和樹を抱えていくことにしたのである」
和樹をおぶる夏海。
夏海「和樹! ダメだよ、死んじゃ!」
峯岸の声「と、弟を助けるために懸命になる夏海ではあったが、夏美自身も毒を口にしている」
山道を和樹をおぶって歩いていく夏海。
峯岸の声「混乱して、来た道とは逆に戻ってしまっていることには気がつかない」
○北村家(夜)
家のまわりを懐中電灯で照らして探している正平。
正平「夏海ー! 和樹ー!」
○同・居間
電話をしている寿江。
寿江「あー、そうですか。もし何かわかったら……あ、はい、すいません」
電話を切って、また別の場所に電話をしようとする。
そこへ正平。
寿江「どうだった?」
正平「ダメだ、いねぇ。そっちは?」
寿江「お友達のところは全部電話したけど、今日は誰も一緒に遊んでないって」
正平「警察に連絡するか?」
寿江「え、ちょっと大袈裟じゃないかしら?」
正平「なんかあってからじゃ遅いだろ」
寿江「……そうね」
寿江が受話器を取って、1番を押す。
○山の奥
和樹をおんぶをしている夏海。
疲労困憊。
和樹を降ろして座り込む。
夏海「もう、ダメ……ちょっと休ませて……」
夏海「どっちに行けばいいの」
行き先が分かれている。
夏海「こんな場所、知らない」
和樹「なちゅみ……さむい……」
和樹を抱えて、体をさする。
夏海「がんばって和樹」
○北村家の前
警察、地元の自警団が集まっている。
正平「寿江、俺たちは海の方に手分けして行ってくる」
寿江「うん、わかった」
自警団「寿江ちゃん、大丈夫だから。落ち着いてな」
寿江「はい、よろしくお願いします」
正平と自警団が向かっていく。
寿江「もしかしたら裏山かもしれません。あの子、山菜をとるのが近ごろ好きで」
警察「そうですか。だとしたら、結構広い範囲になりますね」
車が複数到着。
中のひとりが寿江に近づいて、
男「あのー、波介から来たものですが」
寿江「はい?」
男「お子さんが見つからないと連絡いただきまして」
警察「あー、ありがとうございます」
警察「波介の自警団の方々です。人手が多い方がいいと思って」
寿江「そうですか。ありがとうございます。北村と申します」
男「滝川です。ご挨拶はまたのちほどということで、動ける人間は全員連れて来ましたから何なりと」
警察「それじゃ、皆さんには山の方をお願いしたいのですが」
滝川「わかりました。おーい、みんな。山に行くぞ、支度してくれ」
自警団「はいよー」
車から荷物を取り出して準備をする自警団。
その中に少年の背中。
○山の中
月。フクロウ。
時間経過。
自警団「おーい! いるかー! 夏海ちゃーん、和樹くーん」
自警団「いたら声出してくれー!」
方々に散った自警団が懐中電灯を照らしながら山を進む。
木に出来た大きな穴を照らしたり、沢を照らしたり。
中のひとりが山菜の入ったバケツと図鑑を見つける。
自警団「滝川!」
駆け寄る滝川。
滝川「どうした?」
自警団「これ見てくれよ」
滝川「山菜、探しに行ってるかもってお母さん言ってたよな」
自警団「ここから家に戻るとしたら、いま来た道か。もう一回、戻って探すか?」
滝川「そうだな、見落としてるかもしれない……」
考えて。
滝川「それと、この先だ。手分けして探そう」
滝川「よし、行くぞ」
少年「うん」
少年はまだ顔を見せない。
自警団「おーい、みんな。ちょっと集まってくれ」
○山谷
和樹をおんぶしている夏美。
疲労困憊。
川の音が聞こえる。
夏美「?」
川が見える。
夏美「のど……乾いたよね……」
和樹を降ろす。
夏美「ちょっと待っててね」
傾斜を降りて、川へ。
川に口をつけて飲む夏美。
上にいる和樹を見て。
靴を脱いで川の水を入れようとする。
夏美「イッ」
尖った石が足の裏が刺さってしまう。
弾みで靴を川に落とし、靴が流されいく。
夏美「あ……」
靴を追いかける夏美。
水位が太ももぐらいの所まで追いかけた所で足を滑らせる。
夏美「!」
川に流される夏美。
峯岸「必死に手を掻く夏美」
溺れる夏美。
峯岸「しかし、その抵抗虚しく、川に流されていく」
夏美。浮かんでは沈み、浮かんでは沈み。
峯岸の声「さぁ、どうなる⁉ どうなるんだ、夏美」
もがく和美の手を掴む、少年の手。
峯岸の声「と、その時!」
夏美を引っぱり上げる。
ゲホゲホと夏美。少年の足元。
峯岸の声「夏美に差し伸べられた、文字どおり救いの手!」
少年の顔を見上げる。
峯岸の声「それが夏美と賢太、最初の出会いであった」
少年時代の賢太(8)。
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第1話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第2話
『ようこそ!パラダイス劇場へ』第3話
『THE TOKIWA』番組情報
2022年10月30日(日)から『シューイチ』(毎週日曜午前7時30分~)内のコーナーとして毎週放送(全8回)。『まんが王国』サイト内では『THE TOKIWA』第2弾の特設ページも公開中。
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