ELLEGARDENの話をさせてくれ──“現役バンド”としての復活に寄せて

2022.10.5
ヒラギノ

文=ヒラギノ游ゴ 編集=梅山織愛


2022年9月、ELLEGARDENの16年ぶりの新曲「Mountain Top」がSpotifyほか各種配信サービスでリリースされた。またその数日後には、チケット代の異様な安さを理由にツイッターでトレンド入りを果たした。

ソーシャルメディアやサブスクリプションサービスなど、2020年代らしい風景の中にELLEGARDENの話題がある。何重にも「きっとないんだろう」と思われてきた復活を経て、ELLEGARDENが本当の意味で“現役のバンド”に戻ろうとしている。

ただ、音楽を聴き始める10代のころに彼らが活動を休止していた世代には、この事の重大さが伝わり切らず、上の世代はフラストレーションを抱えていることだろう。我々は今、猛烈にELLEGARDENの話がしたい。

ELLEGARDENとは何だったのか

ELLEGARDENはチケット代の価格設定をキッズ向けに安く設定している。月に何度もライブに足を運べるような金額でないと文化の発展は望めないだろうという信条によるもので、昔からずっとそう。ただ、「ずっと」というには間が空き過ぎている。だからこそそれを知らない人たちにとっては驚きで、それを知っている人たちにとっては懐かしく、大きな話題を呼んだのだろう。

ELLEGARDENを初めて聴いたのはラジオだったか。彼らの曲は(ほぼ)全編日本語詞の曲と全編英語詞の曲に分かれるが、このとき聴いたのは後者で、視覚の情報がないのもあってしばらくは海外のバンドだと思い込んでいた。

全編英語詞の「Red Hot」

ほぼ全曲の作詞・作曲を務めるのはヴォーカル・ギターの細美武士。アンセムと呼べる楽曲を数多く生み出すソングライティングセンスとフロントマンらしい風格で2000年代以降の邦楽ロックシーンで絶大な影響力を持つ。

ラウドネスや叙情性もさることながら、その疾走感としかいいようのないロックバンド然としたダイナミズムがひと際に印象的で、多くのファンの心を掴んだ。

叙情的な魅力でファンに愛されるアンセム「MIssing」

ELLEGARDENのジャンルをこれだと言い切るのは難しい。といってもこれはELLEGARDEN固有の問題ではなく、このあたりの時代のこういうパンクロック全体に関わる話。ポップパンク、メロディックハードコア、メロディックパンク、スケートパンクなど、絶妙に範疇や系譜や位相が異なり、それでいて被る部分の多い概念が互いに重なり合い反発し合いながら存在しているから。

また、日本でいう「メロコア」はメロディックハードコアよりもポップパンクやスケートパンク寄りのニュアンスだとかねて言われていて、話はさらに複雑になる。

ついでにこのころの日本での用法としての(つまり欧米でいう「Emo〈イーモゥ〉」とはまた異なる)「エモ」や、セル・レンタルCDショップや音楽雑誌で見られた「ラウド」といった概念に括られることもあり、そろそろ読んでいてうんざりしてきただろうからこのへんにしておくが、なんせこの話を本格的に始めるとだいぶ深い時間帯までしっぽりやることになる。

ともあれ、ELLEGARDENにはこれらの音楽(特にスケートパンクという概念)と強く紐づくカルチャーの文脈が感じられる。カリフォルニアの、もっといえばオレンジカウンティの風だ。

オレンジカウンティの風

オレンジカウンティとはアメリカ合衆国カリフォルニア州オレンジ郡。暖かい気候の海に面したリゾート地であり、日常風景の中にスケートボードやサーフィンが溶け込んでいる土地。それらのカルチャーがパンクと結びつき、スケートパンクないしはポップパンクとして結実した。

サーファーのライフスタイルが描かれる「Surfrider Association」

実際ELLEGARDENは歌詞で描かれる風景や出で立ち、アートワークなど、随所にスケートカルチャーやサーフカルチャーの影響を感じさせる。

ファッションに関していえば、ディッキーズのハーフパンツにVANSのスニーカーという組み合わせはスケートカルチャー、パンクカルチャー双方で王道スタイルとして定着した。これらのファッションをまねた経験のある人もいるだろう。

ハーフキャップ
VANSのスケートシューズ「ハーフキャブ」はレジェンドスケーターのスティーブ・キャバレロのシグネチャーモデルだが、彼もスケートパンクに括れる音楽性のバンドをやってきている

ポップパンク、スケートパンク、メロディックハードコアといったジャンルに分類されることの多いバンドとしては、blink-182、The Offspring、Rancid、Sum 41、Good Charlotte、New Found Glory、The All-American Rejects、MxPx、No Use For A Name、Better Luck Next Time、ALLiSTER、Simple Planなどが挙げられる。

一方、日本における上記のような音楽ジャンルは主に「メロコア」と称され、Hi-STANDARDがリードするシーンの中で独自の発展を遂げていく。

Hi-STANDARDのメンバーが立ち上げたレーベル・PIZZA OF DEATH RECORDSにはHUSKING BEE、HAWAIIAN6、SUPER STUPIDといったバンドが所属し、Back Drop Bomb、cocobat、ヌンチャク、KEMURIなどのバンドと共に「AIR JAM世代」と呼ばれ一時代を築いた。こちらの括りは必ずしも「メロコア」に限らないものではあるが、大きな影響力を持った一群の中心部に「メロコア」の概念があったのは間違いない。

ただ、これらの邦楽バンドより少し下の世代のELLEGARDENはこの系譜に連ならない。

生形真一は横山健との対談で「バンドを始めたころ、日本のバンドは聴いていなかった」「Hi-STANDARDはあとになって聴いた」と語った

国内の近い音楽性のシーンに合流することなく、あくまで海外シーン直系といったアティチュードで活動をつづけた。また、近いジャンルで固まるのではなく、同世代の10-FEETやマキシマム ザ ホルモン、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ART-SCHOOLといったバンドたちとの連帯意識を強く感じさせるスタンスで、2000年代からの邦楽ロックシーンにおいて大きな存在感を示した。

「1行目の歌詞」の凄み

極私的にだが、ELLEGARDENについて語る上で欠かせないのが歌詞の書き出しだ。

これ以上に掴まれる1行目を書く作詞家を知らない。

<たった一つのことが今を迷わせてるんだ>──「ジターバグ」

<おとぎ話の続きを見たくて すぐ側のものは見えなかった>──「スターフィッシュ」

<気休めぐらいになればいいよ>──「虹」

<綺麗な言葉で片付ける君が 誰より悲しい顔を見せるように>──「アッシュ」

YouTube、またサブスクリプションの普及以降、サビから始まる曲が格段に増えたというのはよくいわれていることだ。サビまで待てずに別の曲に移動してしまうから、曲頭に盛り上がりを持ってくるのだと。

YouTubeもサブスクリプションも普及する以前に活動を休止したELLEGARDENだが、上記のような問題を曲頭の盛り上がりではなく一行目の歌詞の力でクリアしているといえる。

「つづきが気になる」し、それ以上に「その前が気になる」といった構造の歌詞だ。何か前提をすっ飛ばして、もう始まっている物語の中に突然迷い込んだような、ある種の唐突さ。反射的にこの世界を理解しようという構えを取り、一発で引き込まれる。

当時「等身大」という概念が広く信じられ、消費者が感情移入をしやすいように表現を普遍的なものに均す手法がさまざまなエンタメで尊ばれていた。対してELLEGARDENは、いってみれば聴き手のほうへ寄り添うのではなく、引力を放って聴き手を引き寄せるような作風。今に至るまで、こういった作風の系譜において細美を更新するような作り手とはまだ出会えていない。

再結成までの道のり

そんな絶大な存在感のあるバンドが、2008年から活動を休止した。理由は「作品制作においてメンバー間にモチベーションの差が出てきたこと」という生々しいものだった。

そして翌2009年、​​細美武士はthe HIATUSを結成する。1stアルバムのリードシングル「Ghost In The Rain」を聴いたときの複雑な心境を今も覚えている。

the HIATUS「Ghost In The Rain」

ピアノの旋律が美しい、これまでに聴いたことのない細美武士の音楽。ただ、直前の時期までELLEGARDENを聴いてきた人間としては受け止め方がわからなかった。ギター、ベース、ドラム以外の編成のオケに細美の声が乗っている状況にしばらく慣れなかった。これまで誰よりパンクシーンをリードしてきた彼が、試行錯誤を重ねパンク色を払拭した音楽を模索していった。着丈の長いモードなスタイリングで、ファッションからして随分印象を変えたことにも動揺した。

もちろんELLEGARDENでないバンドにELLEGARDENを求めるほうがお門違いなのだ。ただ、奥に透かして面影を追わずにいられない。そういう心象にデビュー当時悩まされたリスナーはそう少なくはないのではないだろうか。ELLEGARDENがそれほどまでに大きなバンドだったということ。

そして細美は2015年に新しいバンド、MONOEYESを始動する。どんなバンドなのかはメンバー発表を受けて見当がついた。the HIATUSでもドラムを叩く一瀬正和に加え、ギターにART-SCHOOLの戸高賢史、そしてベースにスコット・マーフィー。スコット・マーフィー!? 前述のUSのポップパンクバンド「ALLiSTER」のベースボーカルだ。

ギルティ・プレジャーズ
ちなみにこの少し前の時期、ヴィレッジヴァンガードでは彼の手がけたJ-POPのメロコアカバーシリーズ『Guilty Pleasures』がひっきりなしに流れていた

彼がいるということは──パンクなのか!?

予感のとおり、1st EPのタイトル曲「My Instant Song」は、ELLEGARDEN時代の風合いと近いものを感じさせるポップパンクサウンドだった。

MONOEYES「My Instant Song」

うれしかった。細美武士がまたパンクをやっているということが本当にうれしかった。ただその反面、このバンドでパンクをやっているということは──というのもまた同時に脳裏をよぎる。ここでパンクに対する欲求を満たしているということは、これでよりいっそうELLEGARDENの再開はないのだろう、という寂しい予感。

ELLEGARDENとは何になるのか

時は流れ2018年。突然だった。新しい、しかしあのころと同じように黒のTシャツとシャツで並んだ姿のアー写と共に、ELLEGARDENが活動再開を発表した。

以降、ワンマンのほか対バン、数々のフェスに出演と、精力的に活動をつづけている。

こちらのライブ配信では、活動休止中に地下アイドル沼に落ちた高田雄一(Ba)に対して細美が「今度ライブに連れてって」と歩み寄る姿が見られた

ELLEGARDENは、前述のとおり2022年9月に16年ぶりの新曲となる「Mountain Top」を配信、さらには新アルバムの制作も予告されている。そしてこちらも16年ぶりとなるワンマンツアー『Lost Songs Tour 2022』を同11月から開催予定。

また「ELLEGARDENの新アルバムを楽しみに待つ」という体験ができることに不思議な心地がしつつ、あのころと同じように高揚感に胸が躍る。なにより、“現役”のバンドとしての彼らの姿は10代のリスナーにどんな影響を及ぼすのだろうか?というのが楽しみでならない。

現状、ELLEGARDENが今活躍するミュージシャンたちに及ぼした影響というと、正直判然とこれだと言い切るのは難しい。そもそもバンドという形態自体が今音楽シーンの中心にあるとは言い難い状況だし。

ただ世界に目を遣ると、10〜20代を中心にラッパーとして絶大な人気を誇るマシン・ガン・ケリーが2020年に突如ポップパンク・メロディックハードコアに音楽性を転向するというビッグニュースがあった。幼いころに聴き親しんだバンドサウンドへの憧憬が彼を突き動かしたという。

マシン・ガン・ケリー「my ex’s best friend」

またポップパンクやメロディックハードコアの、あるいはそれと近い水脈からの流れを汲むEmo〈イーモゥ〉は欧米の若い世代の精細な感受性に寄り添う音楽として根強く支持されている。そればかりか、マシン・ガン・ケリーとのコラボでも知られるYUNGBLUD(ヤングブラッド)という次世代ロックスターの登場を契機に今また再興しつつあると言うこともできる。

YUNGBLUD「Tissues」

ポップパンク・メロディックハードコアには、若い世代のままならない情動と呼応する何かがある。それは海外の事例に留まらず、今後ELLEGARDENが現役バンドとして活動をつづけるうち、その系譜に連なる後輩たちがシーンで存在感を示すようになっていくのかもしれない。

未来のポップミュージック史においてELLEGARDENは──“何になっている”のだろうか? どういう語られ方をする存在になっているのだろうか。

今後はまたリアルタイムで追いかけながら想像を巡らせることができる。

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