社会が認めるべき中高年の“ゆるい恋愛”。「もう若くないのに」圧力の理不尽さ
90年代の社会に大きな衝撃を与えたベストセラー『完全自殺マニュアル』(太田出版)の著者・鶴見済が、「生きづらさ」問題に再びフォーカスした新刊『人間関係を半分降りる 気楽なつながりの作り方』(筑摩書房)が7月に刊行された。
友人・家族・恋人との“優しい人間関係の作り方”、その具体的な方法が記された本書から、中高年の“ゆるい恋愛”について書かれた一節を特別に公開する。
自分のために生きる人が増えてきた
初めて結婚する年齢がいつのまにか上がっている。男なら平均して31歳、女なら29歳だ(※)。自分のように30歳から異性とつきあいはじめても、それなら全然遅くない。
またこんな話もある。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは、73歳の時までに8人の子どもを5人の女性との間に作っている。
「若い/もう若くない」というイメージは、ここ数十年の間にまったく変わってしまった。ストーンズのように、若い頃に不良のイメージで売っていたミュージシャンが、70代になってもまだ人気を博している。しかもイメージチェンジもせず、同じ「満足できないぜ」という歌を歌っている。
そうした様々なアーチストの活動も、この変化に大きく影響しているだろう。
恋愛についても、「若い/もう若くない」という以前の価値観に縛られて無理をすることなんかない。
※「第15回出生動向基本調査」国立社会保障・人口問題研究所、2015年
「若い時代は二度と帰らない」という脅し
高校の頃、勉強をよくやっていた。やりすぎたせいで、東大に入ってしまったほどだ。
そして同じく高校の頃は、スポーツもよくやった。そのふたつをやりすぎてしまったことが、多すぎる人間関係や過労を招いてしまい、心を病む大きな原因になった。その心の病はその後長引いて、自分の人生の最大級の問題になった。
自分らしくもなく、そんなに頑張ってしまったことには理由がある。当時、若い時は勉強とスポーツ(または部活動)を全力でやれと言われていたからだ。今やらないと一生後悔するぞと。
結局自分の一生の後悔は、それらをやらなかったことではなく、やってしまったことになった。つまりこういうふうにも言える。自分の一生の後悔は、社会が押しつけてくる無責任な人生アドバイスを無理に信じてしまったことだったと。
若い頃に打ち込めと言われているものがもうひとつあって、それが恋愛だった。恋愛のほうはまったくやらなかったけれども、それについてはまるで後悔していない。
何しろ恋愛をしたくなかったのだから。
「若い時代は二度と帰らないのだから」
こういう脅しは、引いた目で人生を眺める余裕のない十代には相当の威力がある。けれども考えてみれば、すべての時代は二度と帰ってこないではないか。そんな言葉に何か意味があるのだろうか?
増えている中高年の結婚
今、中高年の結婚が増え続けている。
その理由はまず、中高年世代の離婚が昭和の頃に比べてずいぶん増えたからだ。夫の定年をきっかけに離婚を考えている夫婦が多いことも、注目されている。
つまり今では、何十年も一緒にいた夫婦でも、そのまま我慢を続けない。仕事を途中で変えるように、結婚相手も変えるようになったのだ。
そうなると、人生の後半でひとりになる人も増える。彼らが次の相手を探し始めるのも当然のことだ。中高年の婚活や合コンが増えていることも、また話題になっている。
人生は長くなり、第二の人生も大事になった。そして以前より、みんなが何かのためでなく、自分のために生きることを大切にしはじめたのだ。
自分はつながりづくりの集まりを開いているし、仲間と一緒に路上に人を集める「0円ショップ」という社会的な活動もしている。どちらにもまわりには、界隈と呼べるような数十人の男女のゆるいつながりがある。年齢もまちまちだけれども、中年層がその中心だ。
それらのグループのなかにも、恋愛をしている人はもちろんいる。恋愛をする人も、しない人も、もう決まった相手がいる人も混ざっている。
みなが競い合い、奪い合うように一斉にやっている学校の恋愛と違って、こうした中高年の恋愛のほうがゆるくて、とても自然に思える。
社会は若い時代を「卒業」させたい
「もう若くないのに」という見方は、何の役に立っているのだろうと考えてしまう。
昭和くらいまでの社会なら、早く結婚をして、若い時代を早めに“卒業”してもらって、あとは仕事や家事だけに専念してもらったほうが都合がよかった。
「若い頃にしておかないと一生後悔するぞ」と言われるものがいくらでもあった。長期の海外旅行までが、会社に入ったらもうできないものとされていた。だからこそ、誰もが大学を出る時に長い卒業旅行に出かけたのだ。そこで初めて、海外では社会人になっても長期旅行をするのが普通なのだと知った人も多かっただろう。
恋愛も同じだ。若い頃をすぎても恋愛をしている人は、すべてをあきらめて仕事や家事をしている人を惑わすかもしれない。
社会にとって都合が悪かったのだ。遊びも恋愛も若い時に済ませて、さっさと卒業してもらわないと。
「もう若くないのに」の圧力は、もう消えてくれただろうか。
社会にはまだまだ根づいていて、そのせいで自分を無理に抑えつけている人も多いのではないか。
社会が押しつけてくる生き方のアドバイスは、あなたのためを思って言われているものではなさそうだ。
自分のことを一番よく知っているのは自分だ。生き方については、全員にぴったり合う大量生産の服なんてないのだ。ひとりひとりが、自分用にあつらえた服を着るしかない。
自分自身の体験からそう思う。
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