GEZAN『狂(KLUE)』が問う、新しい時代の新しい「革命」のかたち
2019年10月、あの巨大台風の接近によって千葉で行う予定だった主催イベント『全感覚祭』が中止となり、その翌日に渋谷のライブハウスを占拠する勢いで同イベントを急遽開催して話題を呼ぶなど、今、日本の音楽シーンで目が離せないバンドの筆頭株と言っても過言ではないGEZAN。
そのバンドの5枚目となるアルバム『狂(KLUE)』が2020年1月29日に発売された。音楽ライター・天野龍太郎がこの巨大なアルバムに対峙した、渾身のレビューをお届けします。
5thアルバム『狂(KLUE)』で新境地に向かうGEZAN
GEZAN。2009年から大阪で活動を始め、現在は東京を拠点とするロックバンド。圧倒的なライブパフォーマンスとフロントに立つマヒトゥ・ザ・ピーポーの特異な個性、レーベル「十三月」をベースとするインディペンデントな活動、そしてフェス『全感覚祭』を主催することで、独自の地歩とファンダムを築き上げてきた。
私が初めて彼らの音楽を聴いたのは、大阪・布施のEGYPT RECORDSで勧められて買ったCD-Rの『一時的な腸』(2010年)。「下山(Gezan)」を名乗っていた当時のバンドの音楽は、大阪スカムシーンの系譜を感じさせる、極めてトラッシーなパンクロックだった。
アルバムごとに音楽的なビジョンとバンドの姿を更新してきたGEZANではあるが、4作目となる前作の『Silence Will Speak』(2018年)が決定的なターニングポイントになったことは間違いないだろう。
活動休止、そして新たなドラマー・石原ロスカルの加入を経た『Silence Will Speak』にはまず、録音をスティーヴ・アルビニが、マスタリングをボブ・ウェストンが手がけた、というトピックがあった。生々しく封じ込められたドライなサウンドは、音そのものに対するバンドの飽くなき探究心を伝える。また、ヘビーなグルーブの上でラッパーのCampanellaやOMSBらがマイクリレーを行う「BODY ODD」、Merzbowのノイズに包まれた「Ambient red」など、これまでのGEZANからの断絶、そしてバンドが新たなフェイズに移行したことをはっきりと示す曲が収められていたことも重要だった。
その『Silence Will Speak』から1年3カ月。フジロックへの出演や『SHIBUYA全感覚祭-Human Rebellion-』の熱狂が余韻を残すなか、5枚目のアルバム『狂(KLUE)』は届けられた。GEZANはここで、前作の延長線上にある作品をつくらずに、さらに別のベクトルへと向かい、新たな選択肢を選び取って前進している。