キャバクラで繰り広げられる恋の攻防戦。「酒の場での言葉は信じるな」(本日は晴天なり)

本日は晴天なり

お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、本日は晴天なり。

今回はこれまで彼女が出会った本気で恋してきたお客さんと、日々キャバクラで繰り広げられる“色恋営業”にまつわる攻防戦を紹介。キャバクラに“約束”は存在しないのである。

クセが強過ぎるガチ恋さんたち

「けいさんって意外と色営なんですね」店の副店長にこう言われた。

「けい」とは私の源氏名である。そして、色営とは、“色恋営業”のことである。

疑似恋愛の要素をふんだんに盛り込み、キャバ嬢がさもお客様に気があるかのようなやりとりをして来店するよう仕向ける営業方法だ。

この副店長の言葉は「芸人だから会話やキャラクターのおもしろさで勝負してるっぽい感じ出してるのに、本気で恋してるお客さんが多いってことは、見えないところで色営してるんですね」という意味で言われている。

まさか!!!!!

一応キャバ嬢だから会話は極力合わせてるけど、色仕かけなんてした覚えない! 勝手にこいつならいけそう!って思われてるだけ!!

ということで今回は、私のことをモノにしようとした……いや、コイツならいける!と思い、私を本気で口説いた男たちを紹介していこう。

① 本気で奴隷を探している男

とても1発目に持ってくるタイトルではないのはわかるが、つづけよう。

某大学教授に、奴隷を探してるのでよかったらならないか、とスカウトされた。もちろん奴隷になる気はさらさらなかったが、具体的にどんなことをするのか興味しかなかったので尋ねてみた。

会うのは、週1回。でも呼び出されたら必ず行かなくてはならない。初めは、椅子になるところから始める。2時間椅子になってもらう。そこからどんどん調教していく。

ざっくり言うとこのような条件だった。

個人的には椅子は多少、肉体労働ではあるが、意外と健全の範疇だなと思った。椅子の研修期間が終わるまでなら奴隷やろうかなとも考えた。

しかし「いつ呼び出されても必ず出向かなければならない」と言われ、急なオーディションが入ったら断れないのかぁと思い、丁重にお断りすると次から別の子を指名しスカウトに勤しんでいた。

② 本気で結婚したい親より年上の男

お店の従業員はそのお客様に“けいちゃんの婚約者”とあだ名をつけていた。

カラオケが大好きで私の出勤するお店のオープン時間の19時から、私の退勤する0時まで(終電帰宅のため)5時間ずっとカラオケをする。

最初は年代を寄せて歌っていたものの、私のシフトの日に必ず来るようになり、もう世代を寄せることもせず好きなアイドルの曲などを歌っていた。歌を歌っている時間は正直、楽なのだが、合間に挟まる口説きが私を本当に悩ませた。

「俺と結婚しなかった女はみんな不幸になったよ」「大学時代に僕を振った女は離婚したよ」「2LDKの家を購入してそこに住んでるから家はあるよ。そこに住んでいいよ」「老後のために1カ月8万円貯金してたけど、今はそれをここに来る資金に当ててるよ」

「けいちゃんのお父さんお母さんと同い年だけど大丈夫だよね? 許してくれるよね? 挨拶に行きたいな」

こっちがひとつもOKを出していないにもかかわらず話がどんどん進むので、なんともいえない恐さがある。しばらくすると、曲と曲の間だけでなく、間奏中もこのようなことを繰り返し言ってくるようになっていた。

ある日は、自分の勤めている会社のパンフレットを渡してきた。そこには、最近結婚した社員の写真が載っているのである。

「けいちゃんと僕もゆくゆくはここに載るんだよ」

またある日は、頭から爪先までピカピカの新品私服で、「普段はこんな感じなんだよね」と言ってきた(これはちょっとかわいかったが)。

そして驚いたのが、丸々太っていたそのお客様が、会うたびにどんどん痩せていた。「10キロ痩せたら付き合ってね?」と言って、勝手に8キロも痩せたのである。

そして決定的に私をイラ立たせたのは「この店でずっと働くなんて不幸だよ、俺が幸せにしてあげる」という言葉だ。

「けいちゃんにはおこづかいを10万円あげるからこの店も辞めてね。僕が幸せにしてあげるからね」

普段はお客様に合わせる私も、すべての発言に漂う根底の男尊女卑、毎日のねちっこいジャブに嫌気が差し「みんな好きでこの店で働いていて不幸と決めつけるのはよくないと思います。あと、10万じゃ足りないです……もっと稼いでます」と言ってしまった。彼は「そんな強気なところも好きだよ」と言ってきた。

それからも店に来ては、同じような口説き文句を言っていたが、急に来なくなった。最後のメールでは「上司にお店に通ってることがバレました。もう行けません。お幸せに」。

ハッキリ断ってしまったら逆上でもしそうなセリフばかり言われてきたが、あっけない幕切れだった。それに上司にバレて咎められるような金額ではないはずなので、おおよそ心配した上司が、キャバ嬢の女の子なんて振り向かないぞ!やめとけ!と助言してくれたのだろう。

顔も名前も知らない上司さん、ありがとうございます。

お金を使ってくれる限り、お店からしたら大切なお客様であり、私からもう来ないほうがいいよ、というわけにもいかなかったので心から安心した。

もし、ただ単に私に魅力を感じなくなって愛想を尽かせただけだったとしたら、最後に私を傷つけないような断り文句を用意してくれたことだけは、”やるじゃん!”と思う。

③ ガチ恋さん

ガチ恋さんも、お店の従業員がつけたあだ名である。ガチで恋してる男、まさに本気の男である。彼はとてもいい人だったし、40代で年齢も近く一緒にいて楽だったが、とにかく自分はモテないと言っていた。

見た目は、少しぽっちゃりで少し髪が薄かったけど、スポーツもやっているし、私が振り向くかどうかはともかくとして誰かほかにいい人いるだろうに、と思っていた。ガチ恋さんは月に1回くらいしか店に来なかった。金銭的な問題だと言っていたが、実家暮らしで不自由している様子もなかったので貯金大好き人間だったのかもしれない。知らんけど。

彼は店に行けないぶん、どうしても会いたいから最寄り駅まで車で送らせてほしいと頼んできた。私は何度も話しているし、この人は安全な人だという自信があったので、そんなに私と一緒にいたいなら電車賃も浮くし送ってもらおう!と家の最寄り駅まで送ってもらった。

車で送ってもらうようになって3回目のときに「そろそろ5、6回やらせてよ(笑)」と言われた。実は体目的でした~!というわけではなく、彼なりの冗談のつもりだったらしい。

でも私はそのとき、彼がモテない理由がなんとなくわかった気がした。

そもそも、私のことがめっちゃ好きで、送る時間だけでも会いたいから送らせてくれって言ってきたのに、電車で302円の道のりを3回送ってもらって5、6回? 906円で5回やらせたら、1回182円だよ!? 好きな女とやるのに182円は安過ぎる!

タクシーだと仮定しても片道6000円! 3回送ってもらったので18000円……。それでも1回あたり3600円!……あり得ないけど生々しい安さ!!

最後に車を降りたとき、心の中で「達者で暮らせよ!」と呟いた。

実際、この人はそんなことを言いながらも、ふたりっきりの車内では最後まで指一本触れることもない超いい人……いや、奥手?な人でしたが、普通は夜中に車内でふたりっきりは何をされてもおかしくない状況なので、まねしないでね!

キャバクラでの約束はすべて無効

本日は晴天なり

キャバクラで働き始めて、相手が自分に、恋愛的な感情を抱いているかどうかはわかるようになった。それがお付き合いなのか、一発お相手願いたいのか、そのどちらかが叶えばラッキーなのかもなんとなくはわかるようになった。

デートに誘われる。本気で付き合いたいと言われる。これは全然うれしくない。

キャバクラで働く前は、誰にでも好意を抱かれたらうれしいと思っていたが、そんなことなかった。この子ならいけるだろう!と思われてること、自分に釣り合うのはこのレベルの子だ!と思われるのが悔しかった。

「気が合うね」と言われる。「だってこっちは合わせてるからね」と思う。興味がなくても、知りたい!と言うし、つまらなくてもおもしろい!と言う。

これが色営なのか?

ただ、誤解してほしくないのが、お客様の中には、本当に興味深い話をしてくれる人もいるし、心の底から笑い転げるような話をしてくれる人も存在するのである。

また、キャバ嬢もお客様もトークスキルだけではない。居心地のよさもとても大事だ。見た目がすべてではないのと同じで、しゃべりがすべてでもない。「癒やし」というジャンルを求めてくるお客様も多い。しかしこのジャンルに関しては、私自身がまったく精通していないので、語れることはない。

また、お客様の中には、「ここは休憩所だからね~! 好きにやってね~」と言ってくる“自称癒やし系”の人がいる。そう言われて、本当に休憩するキャバ嬢はまずいないが、比較的、居心地がいいお客様はもちろん存在する。

お店で口説かれた場合、その場ですぐ、「やったー! じゃあ、今から彼女だね!」と返したりもしていた。

“酒の場での言葉は信じるな”は大人の鉄則だと思っているので、キャバクラに行く人は店で結婚の約束をしようが、デートの約束をしようが無効になる覚悟で臨んでほしい。むしろ無効になるからこそ言っている。

“アフター”をめぐる攻防戦

キャバクラでものすっごくあるあるなやりとりが、「お店終わったら飲みに行こう」→「いいよー!」→「じゃあ、閉店まで飲んで、外で待ってるね!」→「ごめんー! やっぱり無理~!」である。

これは毎年全国のキャバクラで1000回以上は繰り広げられているのでは……?と思うほどの“あるある”である。

お店が終わってからお客様と飲みに行くことを「アフター」と言う。このアフターをめぐる駆け引きは、ひと言で語れるものではない。

キャバ嬢はできるだけ長く滞在してほしいので、「アフターに行ける」という嘘は息を吸うかのようにつく。しかし、そう言われたお客様は店を出てからが本番だ!(あわよくばホテルへ!)と言わんばかりに張り切る。

さらに、ウーパールーパー、イグアナ、犬、おすすめのマンガ、65インチの4Kテレビ、家にある魅力的なアイテムでどーにかこーにか自宅に連れ込もうとするお客様もいる。もちろん、ただ単にもう少しだけ飲みたいお客様もいるが。

お店側はこの嘘によって売り上げは上がるが、「○○ちゃん、あのあとすぐ酔い潰れてしまって……」やら「本気で行くと思ってなかったみたいで、朝早くから授業があるらしく……」と、待ちぼうけ客に告げに行くという嫌な役割を担わなければならない。待ちぼうけ客は仕方なく、男性従業員を連れて飲みに行くこともある。

ちなみに私は、このあるあるに当てはまるのが嫌だったので、ダメなときは素直に断り、行けるときは行った。

その場だけのノリを真に受けてしまうお客さんの気持ちはわからんでもない。キャバ嬢を本気にさせて落とすことが趣味というむちゃくちゃイケメンのお客様に会ったこともあるので(私は、ブスだね!と言われて相手にもされなかった)その場だけのノリを真に受けてしまうのはお客様だけではないのかもしれない。

キャバ嬢の誘いをお店だけの“まやかしトーク”として楽しんでくれるお客様は、キャバクラの遊び方としてとても正しいと個人的には思う。疑い過ぎてすべての会話に「どうせ噓でしょ?」と挟んでくる人もいたが、これでは双方疲れるし楽しくない。その場で聞き過ぎは禁物である。

さらには、そんな口説き口説かれまやかしまやかされを乗り越えて(?)実際にお客様と付き合ったり結婚したキャバ嬢もいるのも事実である。可能性はゼロではないので、本気で口説くなとは言わないが、成功例の数万倍くらい失敗例があることを覚えておいてほしい。

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