「元・社長、現・地下芸人」の神宮寺しし丸。46歳。類を見ない肩書を持つ彼が、学校や職場などでさまざまな悩みを抱え、生きづらさを感じている皆さんが少しでも生きやすくなるような「生き方説明書」なるものを綴る連載コラムです。
芸人をやっていると「好きなことを仕事にして良いなぁ」「楽しそうで羨ましい」と言われることが結構あります。そりゃ、楽しくないとは言いませんが、日々の生活は笑えたものではありません。
以前に「24年売れていない芸人のリアル生活」を書いたのですが、今回はその第2弾を。芸人だけでなく夢を追う若者すべてに現実を突きつけるドキュメンタリーコラムです。
※売れない芸人歴が25年目に突入しました。
『アイ・アム・1000円カットユーザー』
僕は髪を1000円カットで切っています。「安く、早く、上手く」……いや「安く、早く、普通に」カットして貰えて感謝しかありません。
しかし、こっちはこう見えても芸人のはしくれ。もう腐って異臭を放っているとはいえ、タレントの卵です。なので、そのことを隠そうとします。1000円カットユーザーだとバレるのが恥ずかしいのです。「そろそろ美容院いってこよう~」とか言って1000円カットへ向かいます。
ある日、いつものごとくチラチラと周りの視線を気にしつつ1000円カットのお店へ入りました。お店は機能的で、自動券売機にお金を入れるとカット券が出てきて、それを理容師さんに渡せばカットが始まります。ムダがない。好きだ。でも、人に言いたくない。
1000円カットには常時3人ほどの理容師さんがいて、どなたに当たるか分かりません。もちろん指名なんて制度はございません。
ある日、僕の担当になった理容師さんに「横と後を刈り上げて、あとは全体的に2cmほど切って下さい」と伝えます。すると理容師さんが「最後はすかないんですよね?」と。なんとその理容師さんが僕のことを覚えていたのです! 1000円カットユーザーとなって5年半。初めてのことでした。
1000円カットは10分ほどでカットが終わります。一日で普通の美容院の数十倍のお客さんを接客することでしょう。お客さんの顔を覚えてなくて当たり前。さらにそのオーダー内容まで把握しているだなんて……。
僕は反射的にバレたくない気持ちが出て「違います! 僕は1000円カットユーザーじゃありません!」と言いそうになりました。愚か者です。「じゃ、お前は今どこにいるんだ?」となります。僕は愚かな返答を抑え込み、震える声で「は、は、はい、そうです。最後はすかないでお願いします」と消え入るような声で応えました。
いつも通り10分でカットは終わりました。僕の事を覚えてくれていたからといって、その後の無駄口は一切無し。大好きだ。カットが終わり、掃除機のようなマシーンで頭を撫で回しカットした髪の毛を吸い取ってくれます。いつもと変わらぬ作業。変わったの僕のほうでした。
その日から僕は「髪の毛どこで切ってるの?」と訊かれたら、「はい!1000円カットです!!!」と大きな声で凛として応えるようになりました。1000円カットは僕のしょうもないプライドもカットしてくれたようです。
【教訓】
1000円カットユーザーになって10年。
しょうもないプライドをカットして貰ったのは良かったのですが、最近では1000円カットの良さを友達に説いて歩いたり、1000円カットをバカにする奴をコンコンと説教する始末……。
どうやら1000円カットユーザーとしての新たなプライドが芽生えたようです。皆さまもご注意下さい。
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