大友克洋『童夢』マンガ業界に衝撃を与えた怪作の魅力
漫画家としてだけでなく、映像監督、シナリオライターとしても新たな作品を生み出しつづける大友克洋。大友が自身の創作物とプロデュース作品すべてを時代順に俯瞰/総括し、リ=プロデュースを手掛けた作品集『OTOMO THE COMPLETE WORKS』がついに刊行を開始した。
第一回配本にラインナップされたのは、大友の代表作でもある『童夢』。日本マンガの画風に大きな影響を与えたこの作品の表現法を改めて考える。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.159に掲載のコラムを転載したものです。
『童夢』に猛り狂う「力」の表現
使えない会社員を主役に置いた、はんざき朝未『無能の鷹』(講談社)が好きだ。目新しいのに馴染みが良い。なんだろう、この感じ。のむらしんぼ『コロコロ創刊伝説』(小学館)の久々の新刊(6巻)を読んでいて、思うところがあった。
児童誌『コロコロコミック』の歴史を巡るルポ、今巻のキモは『つるピカハゲ丸』がヒットした作者の有頂天模様。子供時代という短いスパンで、ホビーと共に次世代へ継承されてゆく(ハゲ丸に代表される)溌剌とした愚者の笑いは、一時は古色を帯びたが、『無能の鷹』も実はその系譜と思えたのだ。興味深いのは、巻末収録の「皿洗い少年 洗太」のことで、昨年のM-1王者・錦鯉に原作を得ている。錦鯉もまた、トラディショナルな味わいが強烈に新鮮な、溌剌とした愚者の後継者なのだから。
『コロコロ』が創刊した1977年ごろ、マンガマニアの話題に名前がのぼりはじめた大友克洋。その全集の刊行が、今年1月よりついにはじまった。
第一回目の配本は『童夢』。巨大団地で起きる、不可解な事故を巡るスリラー。ここに猛り狂う「力」の表現については、多くのはしゃいだ模倣を生んだ。しかしオリジナルは、その「力」の解説も命名もしない。静かだ。ストイック振りに背筋がピンとする。
若い読者には信じられないだろうけれど、最初に発売された単行本(1983年・双葉社)は、コンビニでも売っていた。こんな怪作に、それだけ一般的な支持があったことは、今さらながら驚く。「いまコミックはここまできた!」というコピーの帯が巻かれていた。まさにその通りだ、と感じつつレジに直行した。
先にも触れたが、大友の登場は、画力をカサ増しするための多くのコツにあふれていたため、後続するマンガの画風をガラリと変化させてしまった。ところが、言葉は少ないがノイズと大量の空気をとらえたような、あの豊かさを引き継いだ作品は、極めて少なかった。
一冊で完結する『童夢』は、現況ではもう短編の部類だろう。もしや、日本マンガの個人全集はコレが最後なんじゃないの、とも思う。長期連載こそが評価される現在のマンガ状況には、短編の集積こそが映える全集の形に収まる大物が、もう思いあたらないからだ。最近70年代の、短編マンガの魅力を後世に手渡そうとする企画が、そこここで見られるけれど、爆音のイメージの強い大友克洋の静けさに、耳を澄ますいい機会と思う。
【関連】プロ漫画家は作画をコストで考える──『東京トイボクシーズ』うめの場合
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