『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』プロデューサー対談。寒空の渋谷で見つけた“映画化の仕掛け”
近年のオリジナルテレビアニメでは異例のヒットとなったと言っても過言ではない『オッドタクシー』(テレビ東京)。その異例っぷりは昨年では終わらず、映画化が進行中。どうなるかわからない放送直後から怒涛の現在まで、現場ではどんなことが起こっていたのか。それぞれの立場から『オッドタクシー』を統括するふたりのプロデューサーに、裏側を存分に語ってもらった。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.159に掲載のインタビューを転載したものです。
平賀大介(ひらが・だいすけ)P.I.C.S.所属。『オッドタクシー』のクリエイティブを統括
伊藤裕史(いとう・ひろふみ)ポニーキャニオン所属。『オッドタクシー』のビジネス面を統括
他の深夜アニメではあり得ない広がり方をした
──『オッドタクシー』は去年6月の最終回放送後から反響が大きくなり、今もファンを増やし続けています。ここまで話題になる予測はあったのでしょうか?
面白い作品を作れている自信はあったんですけど、オリジナル作品ですし、子供向けアニメのようなかわいらしい雰囲気という点においても、これが皆さんにどう受け取られるのかのイメージはできていなかったです。僕らとしては、第4話「田中革命」がキラーエピソードだと思っていて。あそこでドーンと話題になるのを期待していたんですけど、そこまで盛り上がらず(苦笑)。
このまま放送が終わり、世間の熱が静かに冷めるのかなと危惧していたら、放送後に視聴者が増えていきましたね。
放送が東京での深夜のみだったので、注目を集めるために、いくつか施策を打ったんです。まずは、朝9時にAmazon Prime Videoで配信を決めました。
──通勤するサラリーマンを狙いに行こうと。
そうです。ところが緊急事態宣言が発令されて、通勤という概念がなくなった。そこで「残り3話だけでもOA直後に配信したいです」と言って放送直後の27時に配信を繰り上げる調整をしてもらったのが良かったと思います。
最終話で話題になり、さらに7月から再放送もはじまり「もう1回観てみよう」と思ってもらえる道筋を作れたのが功を奏し、視聴者が広がっていきましたね。
話題になったタイミングで、いつでも視聴できる環境を作れたのは良かったですよね。「久しぶりに徹夜して1日で一気見した」とツイートしてる人がいたり、高い熱量でハマってくれている人がどんどん増えているのを、エゴサをしながら感じました。
「お父さんが観ていて、娘もハマった」とか「子供の影響で私もファンになった」など、他の深夜アニメではあり得ない広がり方をしたのが、よりファン層を広げた要因でしたね。
──どれだけファンが拡大しているのか。それが数字として表れたのが、受注生産の「Blu-ray BOXプロジェクト」ですね。
作品が広がっている感じはあったのですが、実際はどうなんだろう?と半信半疑だったんです。指標がないじゃないですか。具体的な数字が出ているわけでもないですし、とんでもない視聴率が出ているわけでもない。「ヒットコンテンツになっているかも!」と本当の意味で実感したのは、このプロジェクトでしたね。
普通にパッケージを販売するのは避けたかったんです。オリコンなどの売上枚数ランキングに掲載されて、数字という尺度で作品の評価を決められたくなかった。あえて書籍流通で販売して、ランキングに反映されない戦略を立てました。
受注生産の形式によって「これは買わなきゃ」というお客さんの心理と作品への愛情のおかげで、Blu-rayでも3000枚売れればヒットと言われる状況の中、6038セットも予約をいただきました。
──Blu-ray BOXの予約終了後でいうと、2021年12月24日にYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でPUNPEEさんとスカートの澤部渡さんが主題歌「ODDTAXI」を歌って話題になったと思ったら、その翌日に『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が情報解禁されて。すごい戦略ですよね。
『THE FIRST TAKE』はたまたまなんですよ。お正月に映画の発表をしようと思っていたら、SUMMIT(編註:PUNPEEをはじめOMSB、VaVaらアニメの劇伴を担当したアーティストの所属するヒップホップレーベル)さんから「クリスマスイブに出演が決まりました!」とお知らせをいただいて、最終話で描いた「オッドタクシー作戦」がクリスマスだったのもあるし、12月25日に映画化の発表をするのは絶好のタイミングだと思いました。
映画化の物語は渋谷からはじまった!?
──そもそも、映画化の話はいつ決まったのでしょう?
去年8月くらいにアスミック・エースさんから「もう、他所で映画化の話は決まってますよね?」と問い合わせがあって、「え!? 決まってないですけど!」とビックリしたんです。「もし良ければ、映画化に向けて動きませんか?」と言っていただけて。緊急事態宣言下でイベント上映もできていなかったし、映画を出せば、より『オッドタクシー』が盛り上がるかもしれない、という話になりました。とはいえ上映タイミングや劇場の確保など、いろんな条件をクリアしないと映画は実現しないので、そこら辺を整理しはじめたのが9月ごろでしたね。
あと、映画化をするにはTVシリーズの委員会に再投資をしてもらわなければいけなくて。とにかく資金調達が大変でしたね。というのも、話題にはなっていたものの収益的にはプラスになっていなかったんです(今もまだプラスになってません)。
そこで「TVシリーズの売り上げを伸ばすためにも、追加投資して映画事業をやるべきだと思います」と熱心に皆さんを説得しました。運が良かったのは、各社のプロデューサーさんが想像以上に『オッドタクシー』を高く評価していたことです。「映画によって、さらに作品が広がる」と強く期待していただけて、それでなんとか制作に乗り出せたんです。
──映画を作るにあたって、どのような作品を目指したのでしょう?
まずは、TVシリーズを観てくれたファンの方に面白いと感じてもらいたい。そして、映画から作品に触れる方たちも楽しめる内容じゃないといけない。このふたつを叶えられる構造を大事にしました。単なるTVシリーズの総集編ではない形にどうやったら落とし込めるのかが、最大の課題でしたね。
──プランを組み立てる前に、一度編集をされたんですよね?
そうなんですよ。11月ごろ、試しにTVシリーズの内容をつなげてみまして。いろいろと工夫はしてみたんですけど……これだと総集編だなって。そしたらTVシリーズを編集してくれていた方が「これはこれで成立していると思うんですけど、他にやりようはないですかね?」ってボソッと言ったんですよ。それを言われて、さらに頭が痛くなりました。映画を作ると決まったものの、アイデアが固まらずに頭を悩ませていましたね。……そしたらですよ!
──なにかあったんですか?
脚本の此元和津也さんは大阪に住んでいて、普段はオンラインでのミーティングしかできないんです。だけど、お笑い芸人の男性ブランコ・浦井(のりひろ)さんの一人舞台の脚本を此元さんが担当されていたのもあって、11月中旬の公演で東京に来ることになったんです。
僕もその舞台を観に行きまして、そのまま此元さんと食事をしました。「なかなか良いアイデアが浮かばないんです」と相談した帰り、渋谷のセンター街を歩いていたら「こんな仕掛けが面白いと思うんですけど……」とポロッと言われて。
「え! 今言ったこと、じっくり話しませんか?」と、寒空の下で数十分ほど立ち話をしました。「面白い! そっちの方向で練り直します」と、そのときに映画の糸口が見つかったんです。しかも、それが最初にやりたいと思っていた仕掛けに沿っていた。まあ、その時点で明らかに作業量がオーバーしていたんですけどね。
ハハハ。制作は本当にギリギリのギリですよね。
本当にギリギリなんです! 今、間に合うのかどうかの瀬戸際で(笑)。
──本予告がYouTubeで公開されましたね。
本予告はTVシリーズの絵をつないで作ったんですけど、「TVとは一味違うぞ」と感じてもらえる内容にしました。
──SNSでは「意味わかんないですよ」の声は誰なんだ!とざわついています。
そうですね。予告映像をツイートしたら、1日で1万リツイートまで行きましたし、皆さんがすごく楽しみにしてくださっているのを感じます。
今作は「17人の証言により、事件の新たな輪郭が見えてくる」とうたっていて、女子高生失踪事件が起きたときにそれぞれの人物は、その事柄を、主人公の小戸川をどう見ていたんだろう?というのがメインの切口になっています。ひとつの出来事でも、どの人の視点かによって見え方が違うじゃないですか。そういう多角的な仕掛けを楽しんでほしいです。
あと、僕は本予告を劇場環境の試写室で観たんですけど、音がすごいんですよ。PUNPEEさんたちに作っていただいた劇伴を広い空間で聴く体験は映画館でしか味わえないので、ぜひ劇場に足を運んでもらいたいです。
それと映画館に来られた方は、最後まで席を立たないでいただきたいです。
大事ですね。
これはマナーの話でなくて、です。エンドロールの途中で帰る方々のポリシーもわかりますが、この作品を120パーセント楽しむのなら最後の最後まで見届けてください!
【独占公開】『オッドタクシー』前日譚シナリオ『JUSTICE』
-
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』
2022年4月1日(金)TOHOシネマズ新宿ほか全国公開
脚本:此元和津也
監督・キャラクターデザイン:木下麦
出演:花江夏樹/飯田里穂/木村良平/山口勝平 ほか
配給:アスミック・エース
(c)P.I.C.S. / 映画小戸川交通パートナーズ
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR