新しいサブカルの教科書!?『ポスト・サブカル焼け跡派』誕生秘話
新しい10年の幕開け、2020年代のはじまりにすごい本が発売になった。『ポスト・サブカル焼け跡派』。しかも刊行した出版社は、『Quick Japan』の3代目編集長・北尾修一氏が2017年に立ち上げた百万年書房だ。
著者はTVODという84年生まれのふたり組のテキストユニット。QJ読者なら絶対に読んでおきたいこの本の誕生秘話について、TVODのひとりであるパンス氏に寄稿してもらった。
「カルチャーに政治を持ち込む」とは――TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』について
2016年夏、西新宿・思い出横丁の「岐阜屋」にて、餃子をつまみビールを飲みながら、おもむろにコメカ君が「ふたりでなんかやりませんか?」とつぶやいた次の瞬間、ガシッと握手をしたことを思い出す。そんな「友情・努力・勝利」みたいなシチュエーションなど過去に経験したことがなく、むしろどちらかというとふたりともそういう「熱さ」的な文化を避けてはじっこのほうをトコトコ歩くような人生だったので、いまだに、なぜあのとき即座に握手したのかがわからない。
とにもかくにも始まってしまったのだ。敬愛するダニエル・ミラー(The Normal)から引用して「TVOD」と名乗り、気がついたら数年後には、ふたりで書いた本が書店に並んでいた。
『ポスト・サブカル焼け跡派』には、上記の「握手事件」が起きる前から、ふたりであーだこーだと話していた内容が投入されている。もともと大学の友人で、卒業してからは何年も会っていなかったが、ひょんなことから再会したのが2015年頃だったか。折しもSNS上では「カルチャーに政治を持ち込むか否か」といった議論が盛んだった。アーティストが社会問題に対して声を上げると「そんなこと言わないでください」というファンからの声が出て、物議を醸す。繰り返されるそんな出来事についてどう思うか、といった話をよくしていた。僕らは一介のカルチャー好きもしくは批評読者に過ぎないのだが、そんな視点から何かできることがないかなと考えて始めたのが、「カルチャーに政治の話を持ち込む」ふたりの雑談をテキスト化してウェブにアップすることだった。
淡々とその作業を続けていたら、百万年書房・北尾修一氏に声をかけていただいた。僕らは思春期の頃、北尾氏が編集長時代の『Quick Japan』を穴の開くほど読んでいたので、最初の打ち合わせの際はオロオロしながら新宿の「らんぶる」に行ったのだった。はたから見たら相原コージ・竹熊健太郎のマンガ『サルでも描けるまんが教室』におけるふたり組+辮髪(べんぱつ)をブルンブルン振るう編集者のような風景だったに違いない(この文章で伝わるかどうかはわからないのでぜひ読んでみてください)。そして「百万年書房web」で連載を開始、大幅加筆そして注釈+年表を付けたのが本書である。
「カルチャーに政治の話を持ち込む」試みから出発したものの、持ち込んでる表現が偉い、とか、これからは持ち込む時代だ!などとスローガンを投げて締めるような内容にはしたくなかった。なぜならば、僕ら自体が、現在に至るサブカルチャーを楽しく摂取してきた張本人だからだ。ではどうするのか。まず、スパンを極めて長く取ってみた。50年ほどの流れを追っている。そこで、ミュージシャンを挙げて、その存在と、取り巻く社会状況の変遷を描き出すことに努めた。コメカ君は個人の「キャラクター」を徹底的に深掘りし、僕はそのまわりについて語る、餅つきのような役割分担となったが、普段ふたりで雑談しているときも同じような具合で話しているので、その極端な延長がこの対談ということだ。
そしてかつて「おもしろかった」もろもろが、もしかしたら機能不全を起こしているかもしれない現在の状況を「焼け跡」として捉えている。従って、わかりやすい結論こそないものの、ひとつの歴史観を提示している。
とはいえ、それを押し付けるつもりもない。歴史とはさまざまな人々の記憶と言葉の集積であり、違う視点があったらそれもチェックしたくなってしまうのがTVODなのだ。僕らはいつも、言葉を聞きたいと思っている。
TVOD『ポスト・サブカル焼け跡派』
2020年1月31日発売 2,400円(税別) 百万年書房