2021年12月24日に封切られた映画『劇場版 呪術廻戦 0』。『週刊少年ジャンプ』で連載され、テレビアニメの放送をきっかけにブームになったという類似点から『鬼滅の刃』と比較されることも多い同作。
ここでは、公開から15日で観客動員490万人を突破した『劇場版 呪術廻戦 0』を、アニメでもマンガでも『呪術廻戦』に触れたことがなかった映画批評家の相田冬二が、予備知識ゼロでレビューする。
「私にとって『呪術』は、ずっとこの情緒が継続している1時間45分の物語=放課後であった」と評するに至った経緯とは──。
※この記事は『劇場版 呪術廻戦 0』のネタバレを含んでいますのでご注意ください。
「大丈夫じゃないですか。エピソード0なんだし」
大学生や大学院生の知り合いが何人かいて、彼らは私にとって「若者たち」ということになるのだが、当然のように全員『呪術廻戦』を読んだり観たりしている。で、みんな言うのだ。
「『鬼滅』もおもしろいけど、『呪術廻戦』はめちゃめちゃおもしろいですよ」
1年ほど前、予備知識ゼロで『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を観て文章を書いたが、とても楽しかった。なので、彼らに「『呪術廻戦』も予備知識ゼロで映画観ても大丈夫かな?」と聞いてみた。
「大丈夫じゃないですか。エピソード0なんだし」
まだ映画が公開される前のことである。
なるほど。エピソードもゼロなら、私の予備知識もゼロ。0×0=0。納得して、映画館に行って観た。
おもしろかった。
映画が終わって、お手洗いに行くと、小学生たちが熱く語り合っている場面に遭遇、その光景もめちゃくちゃおもしろかった。
『鬼滅』が「授業」だとするならば……
第一印象。
そうか、学園ドラマだったのか。
なにせ、知識がゼロなので、取っかかりが皆無である。なので、あえて比較対象として召喚するが、『鬼滅の刃』(劇場版しか観ていないが)が正統派の「授業」だとするならば、『呪術廻戦』は「放課後」、あるいは「部活」である。
両作をスクールライフとしての観点から捉えると、『鬼滅』は生真面目、『呪術』はカジュアル。『鬼滅』にもコミカルな描写は挿入されていたが、基本的に真っ当で豪速球。対して『呪術』はかなりくだけた印象だ。ふざけてる、という意味ではない。品のよい、お気楽さがある。いい感じの、力の抜き加減。ほどよい湯温。長湯もできそうである。
命を燃やす『鬼滅』は、いい意味で高温、江戸の古き良き銭湯みたいだ。さっと入って、さっと上がる。私は、熱いお風呂も好きだが、まったりとゆるゆる楽しめる温泉も好きで、『呪術』は後者だなと思う。いろいろあるスーパー銭湯、的な。
カジュアルな放課後。とはいえ、不良性は微塵も漂わないところが現代的。ヤンキーはいないし、ダークな雰囲気もない。危なさがなくて、安心して、湯けむりに包まれる。
原作のサブタイトルに『東京都立呪術高等専門学校』とあるが、本チャンの授業より、アフタースクールの情景が記憶に残る。
たとえば、この映画の主人公(エヴァのシンジと同じ声優さんだ)と、メガネの女の子が、闘いの練習をしている。それをパンダと、おにぎりの具の名前しか基本的に口にしない少年が眺めている。で、そこに、先生(この人がめちゃめちゃ強いのだと、前述した大学生や大学院生たちは声をそろえる)が様子を見に来る。シーンの終盤では、メガネの女の子とパンダが取っ組み合いのケンカ(というか、じゃれ合い)をしているが、一連の流れも含め、この場面に最も『呪術廻戦』を感じた。いいムードだ。とてもいい情緒だ。
いうなれば、私にとって『呪術』は、ずっとこの情緒が継続している1時間45分の物語=放課後であった。考えてみれば、自分がティーンエイジャーのころの放課後ってだいたい1時間45分くらいの感覚だったよなぁとも思った。2時間でもなければ、1時間半でもなく。1時間45分が放課後。
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