「異常な世界だからこそ、ドラマが生まれる」かもめんたる岩崎う大の野球コント超批評
長年にわたって、お笑い芸人たちは“野球”を題材にコントを作りつづけてきた。高校野球、プロ野球、草野球と幅広い世代の人々に根づいている野球文化と、お笑い芸人たちが築き上げてきたコントの文化は、いかにして交わっているのか。そこには、さまざまな秘密が隠されていた。かもめんたる岩崎う大が「野球コント」の潮流を分析する。
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プロ野球選手の超人的なドラマ
──今回は、コントの世界でなぜここまで多くの「野球ネタ」が生まれているのかを分析する企画でして……。
岩崎 なんかおもしろい企画ですね。昨今のお笑いの分析ブームがある意味ピークを迎えたような……。10年後にインタビューを読み返したら「何やってたんだろう」って思う気がするなぁ(笑)。
──かもめんたるさんも『元プロ野球選手』という設定でコントを作っていますよね。
岩崎 もともと僕も「昔から野球ネタって多いよな」っていう感覚はあったんです。ただ、僕らはふたり共背が小さいし、プロ野球選手の役を演じても説得力がないからやらなかったんですよ。そこから自分なりにどう「野球コント」にアプローチするかを考えたときに、大谷翔平選手がヒントになって。大谷選手ってめちゃくちゃ背が高いのに顔が小さくて、すごいバランスじゃないですか。逆に僕はよく「顔だけ見ると180センチくらいありそうに見える」って言われるんですよ。だから、ファンタジーで顔と体を取り替えられちゃった人っていう設定にすれば説得力があるかもしれないと思って生まれたネタなんですよね。
──『元プロ野球選手』のコントでは、麻布十番で酔っ払って揉め事になったり、自身の肉体への愛着だったり、「プロ野球選手あるある」も多分に含まれているネタですよね。
岩崎 プロ野球選手になるような人って、少年時代から数々の犠牲を払って野球に打ち込んできた、超人的な人たちじゃないですか。それこそ人生のすべてを捧げて、普通の人からは想像もつかないような人生を送っている。それにまつわる悲喜こもごもっていうのはやっぱり魅力がありますよね。その一方で、オフシーズンには飲み歩いて遊んでいる人もいるっていうのもおもしろいですし。憧れもありつつ、イジりたくなる要素もいっぱいあるんですよね。
高校野球という異常な世界
──これまで観た中で印象的な野球コントはありますか?
岩崎 ゾフィーの『野球部の末路』はおもしろいですよね。高校の野球部って相当な数あるじゃないですか(※)。その中で想像できないほどとんでもない野球部もありそうだなと思いますよね。あのコントに出てくるキャプテンも悪意があるわけじゃなくて、純粋に「そういうもんだ」と信じて青春を捧げちゃったんだなっていう雰囲気がある。あと、さらば青春の光の『スカウト』も好きですね。甲子園で活躍したことを知ってるい人は絶対NHKを観ている……っていう構図がすごいし、森田は何を考えながら甲子園観てるんだっていう(笑)。
※2021年現在、日本高校野球連盟の加盟校は3890校
──「高校野球ネタ」も、コントのひとつの定番ですよね。
岩崎 高校野球も、ある種の異常な世界だと思うんですよね。僕も中学生のころに野球部だったんですけど、高校の野球部に行ったOBの先輩の話を聞くと「年間で正月の3が日しか休みがない」っていう話を聞いて、すごい怖かったんですよね。異常じゃないですか?
──確かに、ある意味では異常な世界だと思います。
岩崎 あと、中学だと学校の野球部じゃなくて硬式のクラブチームに入っている人もいるんですよね(※)。一回、硬式のクラブチームに入っている同級生が中学の野球部の練習に混ざってきたことがあって。「軟式ってこんな感じなんだ」ってちょっとナメた感じで練習していたんですけど、そいつ、前歯がなかったんです。「硬式はマジで気をつけないとこういうことになるよ」って、ニヤッて笑ったときの歯がない顔が忘れられないんですよね……。高校になるとほとんど硬式球を使うじゃないですか。硬式でやっている人はみんな歯がないんじゃないかって勝手なイメージを持っていました。
※軟式球を使用する中学校の野球部以外に、ボーイズリーグやシニアリーグなど硬式球を使用するクラブチームが各地域に存在する
──そこまでいくと、もはや異世界の話ですよね。
岩崎 うん、やっぱり異常な世界だからこそのドラマがあると思うんですよね。