傑作韓ドラ『D.P.─脱走兵追跡官─』軍隊の歪みが脱走兵を生み出す「みんな知ってて傍観してたくせに」
Netflixで8月27日に配信が始まった韓国ドラマ『D.P.─脱走兵追跡官─』は、紛うことなき傑作ドラマだ。全6話、一気に観てしまう。軍隊を舞台にした社会派ドラマであり、刑事ドラマのようなバディものでもある。爽快感が味わえるシーンもあれば、ハードなアクションシーンや感動できるシーン、クスッと笑えるシーンもあるが、後味はどこまでも苦く、心に残るものは重い。
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ほとんど全員兵役を経験
よく知られているように韓国には兵役がある。1953年まで続いた朝鮮戦争によって南北分断がもたらされたためで、男性の多くは20歳から28歳までの間に入隊して約1年半の兵役義務をこなさなければならない。俳優や歌手も例外ではなく、本作の主演俳優たちも、ほとんど全員兵役の経験がある(入隊前の俳優もいる)。
タイトルにある「D.P.」とは“Deserter Pursuit”の略語で、軍務離脱者(脱走兵)を捜索して逮捕する特殊な任務を指す。私服を着て、スマホを持ち、部隊の外を歩き回る仕事であり、軍人に見えないこともある。実在の部隊だが、兵役経験者でもほとんどの人が漠然としか知らない存在だという。原作であるウェブトゥーン『D.P. 犬の日』の作者で、共同脚本も手がけたキム・ボトンはD.P.組出身者。
ドラマの舞台である2014年についても触れておきたい。この年、韓国の軍隊内では、大きなふたつの事件が発生した。ひとつは20歳の兵士が部隊で数十回にわたって暴行を受けて死亡した事件、もうひとつは執拗ないじめを受けていた兵士が部隊の中で銃を乱射して5人が死亡した事件だ。いずれも韓国社会に大きな衝撃を与え、軍隊と兵役の改善が図られた。本作はこのふたつの事件がモチーフになっていると思われる。
閉じた世界である軍隊では、日常的に理不尽な暴力や拷問のようないじめが横行している。加害者のほとんどは先に入隊した先輩兵士であり、被害者は後から入隊した後輩兵士だ。上下関係は絶対で、年齢も腕力も関係ない(「俺より先に入隊しなかったのが悪い」というセリフもある)。だから、軍隊では自殺者や脱走する者が後を絶たず、脱走兵を逮捕するためにD.P.が組織されている。ここまでが本作の背景である。
生まれたときから親に愛され、すくすくと育ち、青春を謳歌していた未来ある若者が、理不尽な暴力が吹き荒れる“闇”の中に放り込まれる。これが兵役の本質だと言ってもいい。
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