“ながら観“を許さない時代逆行アニメ『Sonny Boy』が、実用性と効率重視の社会に投げかけること
手っ取り早く自分の糧となる知識やスキルを得るために、わかりやすさが求められがちなこのご時世。そんな時代と逆行するかのようなオリジナルアニメが、2021年7月から放送されている。『Sonny Boy -サニーボーイ-』(以下、Sonny Boy)だ。
36人の中学生の少年少女が突然異次元の世界に漂流してしまう物語は、5話を観終わった時点でも「わからない」の連続である。こういう「何度観ても謎が謎を呼ぶ」展開のアニメは、視聴者を置き去りにしてしまうことも珍しくない。しかし『Sonny Boy』からは目が離せないのだ。
正直本作の魅力を言葉にするのは非常に難しい。が、その心惹かれる理由をじっくり紐解いていきたい。
※この原稿は5話までの内容を元に執筆されています。また、5話までのネタバレを含みます。
必要であるはずだったアニメの構成要素が「ない」アニメ
『Sonny Boy』の特徴といえばなんといっても「説明がない」ところにある。正確にいえば、登場人物のセリフによるモノローグがない。
通常、キャラクターの言動には、その人物の過去が深く根づいている。その背景が伝わることでキャラクターへの理解が深まり、ますます好きになる、意外性に驚くといった気づきにつながることも珍しくない。しかしそれが『Sonny Boy』にはないため、そのキャラクターの性格を現在進行形の言動からしか読み解けないのだ。
アニメの楽しみ方はさまざまで、中にはキャラクターを好きになってから作品にハマるという人も少なくない。しかしこの作品の場合、キャラクターの深掘りが容易ではないため、好きになるキャラクターがいたほうがアニメにのめり込める人にとって、ハマるための決定打がないともいえるだろう。
また稲田豊史の「「映画を早送りで観る人たち」の出現が示す、恐ろしい未来」(現代ビジネス)という連載でも触れられていたが、昨今では説明のしっかりした作品が好まれる傾向にあるという。『Sonny Boy』ではラジダニという頭脳明晰なキャラクターが説明役を担っているようにも見えるが、それはあくまで謎の解明に向けたもの。聞こえてくるセリフからキャラクターの心情やシーンの状況を把握することは難しい。
加えて『Sonny Boy』は、シーンを彩る劇伴音楽も必要最低限だ。劇伴はキャラクターの心情やストーリーの状況を視聴者に伝えるための大切な手段でもある。にもかかわらず第1話で音楽が流れたタイミングは、エンディングの銀杏BOYZの主題歌「少年少女」が初。2話以降でも極限まで使いどころを限定しているという徹底ぶり。あまりにも挑戦的で衝撃的な音楽の使い方だと感じた。
私も別のことをしながらアニメを観ることはある。画面から多少目を離していても何が起こったかがわかる作品は多いと感じている。しかし舞台までもが異次元世界を転々とする『Sonny Boy』は、今何が起こっているのか映像を観なければ理解できないのだ。
目を離すことを許さない──。1話約30分のアニメが早送りで視聴され、趣味にも効率化が求められることもある時代において『Sonny Boy』は、とてつもなく大きな挑戦に挑んでいるように見える。
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