岡田将生論──クリーンで、いじわるで、あったかい。岡田将生は、もうひとつの自然現象だ。

(c)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会
文=相田冬二 編集=森田真規


村上春樹の短編小説を、『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』などで国際的にも評価の高い濱口竜介監督が実写映画化し、第74回カンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』が2021年8月20日に封切られた。

そこで高槻というキーパーソンに扮している岡田将生。ライターの相田冬二は、本作における岡田将生について「キャリアにおいても最良の演技である」と評する──。

俳優の奥底にある魅力に迫る連載「告白的男優論」の第11回、岡田将生論をお届けする。

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北風と太陽の同居

岡田将生を見ると、『北風と太陽』を思い出す。

ひとりの男が着ている外套(がいとう)を、どうにか脱がそうと競う北風と太陽の小さな物語を。とかく教訓話にしたがる人も多いが、単純にかわいらしいエピソードだと思う。北風が悪で、太陽が善とはまったく思わない。むしろ、北風の懸命さ、太陽のドヤ顔が印象に残る(うさぎと亀の挿話が、後先考えずにまっすぐ生きるうさぎと、虎視眈々と抜け目なく勝機を窺う亀の対比によって構成されていることにも通ずる)。

岡田将生の中には、北風と太陽が同居している。二面性ではない。北風と太陽は、岡田将生という住まいのルームメイトなのだ。

岡田将生演じるキャラクターは、いじわるだ。すごくいじわるなわけではない。少しいじわるなのだ。同じ人物が優しさを見せるときがある。とっても優しいわけではない。少し優しいだけ。少し、の塩梅に岡田将生を感じる。

少し、と、少し。

このコーディネートが、大気を呼び込む。
心地よい生ぬるさ。
ちょうどいい涼やかさ。
温感自動の風。
大げさにならない肌へのあたり。
ちょっぴり人工的でもあって、だから清々しい。

北風だけでは困る。
太陽だけでもめんどくさい。
北風と太陽のブレンドが、品のいい自然現象を創る。
岡田将生は、もうひとつの気象だ。

すべてを、等価のものにする

岡田将生は、季語でもある。

『ハルフウェイ』の彼を見れば、冬の、マフラーにくるまれる温かさを体感する。
『重力ピエロ』を眺めれば、ニットキャップの中の、秘密の季節を垣間見る。
『ホノカアボーイ』に接すれば、常夏のTシャツがそよぐ様に、気持ちが揺れる。
そもそも、出世作たる歳時記『天然コケッコー』には四季のすべてが、あった。

『天然コケッコー』主題歌/くるり - 言葉はさんかく こころは四角

岡田将生は、シーズン・グリーティングス、つまり、季節の到来だ。

あるときはスマート(『ひみつのアッコちゃん』)だが、あるときは愚直(『潔く柔く』)である。いじめっ子(『悪人』)でもあるし、いじめられっ子(『アントキノイノチ』)でもある。双方の気分を知っている。だから、偏りがないし、ヒエラルキーに支配されない。

『アントキノイノチ』予告編

すべてを、等価のものにする。
裏も表も。
弱さも強さも。

コンプレックスも、思い上がりも、まとめて面倒見る。が、特に、デフォルメはしない。つまりは特権化しない。美点も欠点も、特別なものではなく、当たり前に人間に備わっているという真実を、淡く滲ませる。

だから、彼が人の軽薄さを体現したとき、私たちは、妙な親近感と、不思議な居心地のよさを味わうことになる。

『告白』の空回り先生。
『想いのこし』の軽さ。
『何者』のふわふわ感。
人物の、愛おしいほどのテクスチャは、岡田将生にしか描写し得ぬ風だ。

ここに、高気圧と低気圧がねじれ現象を起こした、季節の変わり目テイスト『伊藤くん A to E』を加えるなら、その突出した独自性が他の追随を許さぬことは、もはや明白。

映画『伊藤くん A to E』予告編

風が吹くと、新しい季節が始まる。
風が止まると、季節が去っていく。

岡田将生は、存在そのものが浮遊し、循環し、去来している。

2021年最高の演技

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