ヒャダイン×PandaBoY『D4DJ』での共作から考える “DJ文化とオタク文化の共通点”
TVアニメ『D4DJ First Mix』のオープニング曲「ぐるぐるDJ TURN!!」は、作曲を音楽クリエイター・ヒャダインが、編曲をDJ/トラックメイカーのPandaBoYが手がけている。5年前、PUFFY「パフィピポ山」を共作し(その際は作詞がヒャダイン、作曲がPandaBoY)、現在もサウナ仲間としてととのい合っているふたりが練り上げたのは、意外にも“90年代”をテーマにした懐かしくも新しいサウンド。その制作過程とサウンドの魅力を語り合ってもらった。
※本記事は、2020年10月23日に発売された『クイック・ジャパン別冊 おそ松さん』掲載のインタビューを転載したものです。
目次
「誰もやっていない、想像つかないことをやっていくのが楽しみ」
――おふたりは2015年に、PUFFYの「パフィピポ山」という楽曲で共作をされていて、それ以来のタッグになります。そんなおふたりが『D4DJ』というDJを主体としたプロジェクトを聞かれたとき、どのような感想を持ちましたか?
PandaBoY(以下、P) 「ブシロードさんがついにDJまで」と思いました。プロジェクトを知るきっかけとしては、『D4DJ』がSOUND MUSEUM VISION (※渋谷のクラブ)でイベントを開催したときに、ライブなんだけど、楽曲の曲間をDJっぽく見せたいと相談されたことですね。そこから「Dig Delight!」の編曲につながったんだと思います。
――ヒャダインさんはプロジェクトについて知ったのは、いつぐらいだったんですか?
ヒャダイン(以下、H) 僕がMCをやっているテレビ朝日の『musicるTV』という番組で、ブシロードさんを訪問するロケ(編註:#396~397「「ブシロード」のオフィス潜入」)があったんです。そのときに、『BanG Dream!(バンドリ!)』や『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』を立ち上げた血気盛んな人たちがいろいろグッズをくださって。いい人だなぁと思っていたんですけど。
P モノをくれるのはいい人たちですね(笑)。
H そのときに、次のテーマはDJなんですって言ってたんですね。バンドやラップだと、すごくわかりやすい掛け算になると思うんですけど、どうやってDJとミクスチャーするのかなと思って。ただ、プロジェクトを取り仕切る一番偉い人とお話しさせてもらったとき、「誰もやっていない、想像つかないことをやっていくのが楽しみ」みたいなことをおっしゃっていたので、これは興味深いし、おもしろくなる担保があるなと。
――サウンド面についてはいかがですか。ユニットごとに異なるプロデューサーを立てて、幅広いサウンドを提供しているのが『D4DJ』の魅力かと思うのですが。
H すごいですよね、ユニットごとに色が違って。
P もっとクラブ系に特化するのかなって思っていたんですよ。ドラムンベースとかダブステップ、ヒップホップとか。そういうジャンル分けになると思っていたら、いざ蓋開けるとロック系やアイドル系も取り入れていて驚きましたね。
H Photon Maidenとかは好みですね。
P ガッツリエレクトロ系ですよね。そこはこの作品ならではの感じがします。
H でも、あれを一点張りにしていたら、みんなついていけないところがあるかなと。ハピアラ(※「Happy Around!」)みたいに、ちゃんとど真ん中を突きつつ、サウンドはクラブシーンを睨んでるみたいな良いハイブリットがある。
――ユニットごとの役割分担はきちんと考えられていますよね。
H あと、結構な数のライブ映像がYouTubeの公式チャンネルにアップされているじゃないですか。キャストの皆さん、すごくないですか。踊れて当たり前みたいな状況で、「時代はこうなったか」と思いました。
P しかも、今スクラッチの練習もしているみたいで。僕もスクラッチの音を曲に入れますけど、実際にジャグリング的なパフォーマンスはできないのに、それを声優さんがやるっていう。
H ブシロード関係の声優さんは作品のたびに手に職がついていってる感じがします。
参照したのはファットボーイ・スリム
――PandaBoYさんはまず「Dig Delight!」の編曲で参加していますね。
P 「Dig Delight!」のときは正直探り探りというか。一緒に編曲した大和さんが作った土台があったので、編曲というよりは、リミックスを作る感覚でしたね。作曲した「Happy Music♪」のときは、水島精二監督(TVアニメの監督)からいろいろ話を聞く機会があったのと、LINEでいろいろ気軽に質問できる環境があったんです。その中で、「ハッピーな感じ」という軸があれば、ロックでもジャズでもラテンでも、けっこう攻めた感じでなんでもやっていいよと言われたんです。そこからさらに自由度を広げていこうというタイミングで、ヒャダさんにも作曲の依頼がいったのかなと。
――ヒャダインさんも、水島監督とはいろいろ話はしたのでしょうか?
H ありましたね、Zoom会議が。さっきのパンちゃん(PandaBoY)と同じで、いろんなジャンルを跨ぎつつ、「音楽って楽しいね、ハッピーだね」ということを表現したいとは仰っていました。既発の曲との棲み分けは多少考えましたけど、自分が作るから大丈夫かなと、無責任な自信を持って制作しました。
――意識としては、DJのアニメというコンセプトと、番組のオープニングとしての要素、どちらのほうが強かったですか。
H どちらもありましたが、DJのアニメだからといってEDMっぽさで攻めたら、もうまんまじゃないですか。水島監督からいただいた参考曲も、EDMというよりも、ファットボーイ・スリム(90年代を代表するクラブDJ/トラックメイカー)とかで。
P ああー、それはけっこうでかいリファレンスですよね。
H そうなんですよ。DJの方々の作曲方法って、サンプリングとループがベースじゃないですか。「ぐるぐるDJ TURN!!」でも、DJらしさをその手法からピックアップしてみようと思って、ファットボーイのリフとリズムをサンプリングしてそれを並べて、BPMを調整しつつAメロを作るという。
P なるほど、だからAメロにファットボーイゾーンがあるんですね。
――サンプリング、カットアップの手法を取り入れて。
H そうなんです。もちろんTVアニメのオープニングなんで華やかさやキャッチーさも必要ですし、歌うのが声優さんなので、かわいい台詞やラップも入れたいし、ライブでも楽しめる掛け合いやお客さんが声出せるようなパートも作りたいわけです。プラス、水島監督からのリクエストで、Peaky P-keyとPhoton Maidenの要素も入れています。
P あ、だからハウスゾーンも。
H そう。それをいきなりインサートみたいに入れてしまおうと。結果、メチャメチャになってきて(笑)。でも、声優さんの声って、それを押し切ってくれる力がある。あとはオープニングの映像もあれば、なんとかなるっしょと思って。
P サビはもうヒャダインさん! って感じですもんね。じゃあ流れ的にはファットボーイのリファレンスからAメロを作って、フォトン(Photon Maiden)、ピーキー(Peaky P-key)の要素をハウスで入れて、サビではヒャダイン節が炸裂するという順番で。
H その通りでございます。
元気なアレンジだなーって思いました(笑)
――PandaBoYさんは、アレンジャーとしてどのように取り組みましたか?
P もう大変でしたよ(笑)。
H 気の毒だなあと思いました(笑)。
P クラブ系のアレンジをするときは、ハウスでBPM130、ドラムンベースでもBPM180~190とかなのですが、今回はAメロのBPMが220とかで(笑)。なのでそこはビッグビート(編註:バンドサウンドを主体にサンプリングし、それをループさせたブレイクビーツ)にチャレンジしています。途中のハウスゾーンもEDM系でいくのではなく、あえて90年代的なテイストのものにして。サビはヒャダさん節を壊さない程度に、ブレイクコアっていう高速ブレイクビーツと、ニョンニョンしたアシッド系のシンセを入れてアレンジしました。
H 元気なアレンジだなーって思いました。ずっと元気(笑)。それはこのプロジェクトのそもそものコンセプトを反映しているので、その点はすごくよかったなって思っています。あとは、歌詞が普通にいいですよね。中村航さんの歌詞テクがやばかった。
P びっくりしましたね。すごいワードセンス。
H メロディも1番と2番が違っていたりするし、BPMも220なのでそのぶんメロディも多くて歌詞のボリュームも半端ないんですけど、言葉のチョイスは独特だし、ひっかかりもある。端的に言って作詞家としての才能を感じましたね。
リミックス文化とオタク文化の親和性
――ここからはアニメソングにおけるリミックス文化についても伺いたいのですが、おふたりはリミックスという作業を通して、どのようにアニメソングの魅力を知っていったのでしょうか?
P 僕は10年くらい前に流行ってたアニソンを勝手にリミックスしてネットへ上げていたら仕事の依頼が来た人間なので。そういう意味では、僕はリミックスの文化にほんと感謝していますね。
H 僕もそもそもはニコニコ動画でゲーム音楽のリミックス、リアレンジをやっていましたから。だから感じるところもあるんですけど、クラブミュージックのリミックスって、オタクとは縁遠いと思いきや、じつはコミケ会場に近い。
P ああ、2次創作。
H 2次創作、薄い本って、あれはもうリミックスでしょう。素材があってそれを自分たちが勝手に解釈する。だから、オタク文化との親和性がすごく高くて、抵抗や嫌悪感がないんじゃないかなと。
欧米のようにDJが評価される時代へ
――『D4DJ』では、今後どういう曲を作っていきたいですか?
P 今の時点でもだいぶ遊んではいるとは思いつつ、まだまだやられてないジャンルとかもあるので、それをスパイス的に混ぜ込んで新鮮さは出せるように頑張りたいですね。そういう意味で「ぐるぐるDJ TURN!!」は、90年代の音を持ってきたところがすごく新しい。
H そういえば僕、でんぱ組.incで1回、ビースティ・ボーイズの「Sabotage」(94年)のカバーをやったんです。同じように、かわいい女の子たちがあのあたりのサウンドを引っ張ってくるっていうのが、『D4DJ』でもできるんじゃないかな。逆に2次元であるからこそ、ビジュアル的にも自由度がめちゃくちゃ高いと思うんで。
――DJという題材だからこその自由度がある。
H 日本でも欧米のようにDJっていう存在が重宝される時代に突入するんだとしたら、このプロジェクトももっと意味合いを持ってくるし、逆にそれを牽引していく存在にもなるかもしれない。そう考えると今後が楽しみですよね。あとは、やっぱりライブが醍醐味だと思うので、みんなで盛り上がれる日が1日でも早く来るのを願っています。
P ようやく会場にお客さんを入れられる段階まで来たみたいですからね。特にこの作品は、現場の大きいスピーカーで聴いて、楽しんでほしいですね。
ヒャダイン
音楽クリエイター。これまで多岐にわたるアイドルやJ-POPアーティストに楽曲を提供。アニメ作品でも多くの楽曲を手がけ、近作ではhalcaの「告白バンジージャンプ」の作詞・作曲を担当(前山田健一名義)
PandaBoY
DJ、トラックメイカー。『D4DJ』では、TVアニメOPのほかに、Happy Around!のユニット曲の「Dig Delight!」の編曲、「Happy Music♪」の作曲、編曲などを手がけている
『D4DJ』とは?
キャッチーなメロディのアニメソングは、リミックスしても主張が強く、DJとの相性もとても良いため、多くのアニソンリミックスがYouTubeやニコニコ動画にアップされ、アニクラを中心に密かな盛り上がりを見せてきた。そんなアニソン×DJに目をつけたブシロードが手がける新たなプロジェクト『D4DJ』は、ライブやアニメ、ゲームなどメディアミックス展開を遂げる新しい形のエンターテインメントだ。
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Happy Around! 1st Single『Happy Music♪【Blu-ray付生産限定盤】』
■収録内容
[CD]
01.Happy Music♪
02.君にハピあれ♪
03.Happy Music♪ -instrumental-
04.君にハピあれ♪ -instrumental-[Blu-ray Disc]
・MixChannel Presents D4DJ CONNECT LIVE ライブ映像 -Happy Around!-■初回生産分限定封入特典 ※なくなり次第終了となります。
・『Reバース for you』D4DJ PRカード1枚【全4種】
・D4DJ Groovy Mix 特典シリアルコード【2021年11月3日23:59まで有効】■発売中
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