「子どもを産まなかったほうが問題」は失言ではない。現政権の本音だ(清田隆之)
これまで1200人以上の恋愛相談に耳を傾け、ラジオやコラムで紹介してきた「桃山商事」の清田隆之。男女それぞれの生きづらさやジェンダー問題に精通する視点から、「2019年のジェンダー差別発言のネット投票」について解説する。
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お正月の一家団らんの中で抱いた違和感
2020年の正月は横浜にある妹夫婦の家で過ごした。姪っ子と甥っ子、義理の弟の父母姉、そして私の両親と我々夫婦、昨年の秋に産まれた双子の娘たちがそろい、とても賑やかな集まりとなった。
台所では私の母親と妹がお雑煮を作っている。妹の夫のお姉さんは姪っ子や甥っ子の遊び相手をしていて、お母さんは妻とともに双子たちを見てくれている。私は他の男性たちとともに、テーブルでお寿司とおせちをつつきながらビールを飲んでいる。
みんなが笑い、特に子どもたちは大はしゃぎだ。私も楽しい……確かに楽しいのだけれど、「自分はこうしてていいのか」とうっすら居心地の悪さも感じている。これは家族の幸福な団らんなのか、それともジェンダーの呪縛に満ちた光景なのか──。
1位は「子どもを産まなかったほうが問題」
1月11日、上智大学の三浦まり教授らが主催する「公的発言におけるジェンダー差別を許さない会」が“ワースト発言ランキング”を発表した。これは2019年に政治家たちから飛び出たジェンダーに関わる問題発言の中から、とりわけ注目を集めた8つをノミネートし、ウェブ投票(総数7593票)によってワースト発言を選ぼうという主旨のランキングだ。栄えある(?)1位に選ばれたのは、麻生太郎副総理兼財務大臣のこの発言だった。
(日本人の平均寿命が延びたのは)いいことじゃないですか。素晴らしいことですよ。いかにも年寄りが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるけど間違ってますよ。子どもを産まなかったほうが問題なんだから
2019年2月3日、福岡県で行われた国政報告会にて
少子高齢化に伴って社会保障費が増えていることを問題視する文脈の中で発せられたこの発言は、「女性蔑視」「人権意識に欠ける」「政治家としての責任放棄だ」などさまざまな批判が起こり、国会の場で発言を撤回するに至った(形ばかりではあったが……)。
もっとも、麻生太郎のジェンダー観が絶望的なのは今に始まったことではない。2014年にもまったく同じ内容の発言で批判を浴び、「誤解を招いた」と釈明しているし、2018年には女性記者へのセクハラ問題で辞任した福田淳一前財務事務次官を「セクハラ罪という罪はない」と擁護し、波紋を呼んだ。30年以上前にも選挙演説で「婦人に参政権を与えたのが最大の失敗だった」という衝撃発言をしている。