「子どもを産まなかったほうが問題」は失言ではない。現政権の本音だ(清田隆之)

2020.1.21

政治家の問題発言から透けて見える思想信条

麻生太郎に限らず、政治家という権力や影響力を持った立場の人間がこのような発言をするのは大問題だ。こうやって“ワースト発言ランキング”としてまとめ直し、世間に提示することは、問題発言を風化させないためにも非常に大事なアクションだろう。

またこれらは、政治家たちの思想信条を読み解く上でとても役立つ資料となってくれる。今回ノミネートされた8つの発言のうち、7つは与党である自民党の議員、ひとつは野党である国民民主党の議員によるものだった。自民党議員の中には安倍晋三総理大臣や萩生田光一文部科学大臣なども含まれている。

「子どもを産まなかったほうが問題」は失言ではない。現政権の本音だ(清田隆之)

具体的にどんな発言があったかはリンク先を参照していただけたらと思うが(2017年と2018年も合わせてご参照ください)、ここから読み解けるのはおおむねこのようなイメージだ。いわく、子を産み育てることが女性の役割であって、仕事や社会進出はほどほどにするべきだ。バリバリ働いて妻子を養うことが男の仕事で、多少のヤンチャは許してやって欲しい。また、子どもを作れない同性婚は公的にバックアップする必要はない──。

憲法は「国の最高法規」ではあるけれど……

これを聞いて、みなさんはどう感じるだろうか。「あはは、ずいぶんと時代錯誤なジェンダー観だな〜」と一笑に付せたらどんなにいいかと思うが……とんでもない。これは過去ではなく未来の話、つまり現政権が導こうとしている日本の“グランドデザイン”なのだ。

確かに政権与党は「女性活躍」を謳い、「LGBT(性的少数者)への理解増進」を目的とした法案なども推し進めてはいる。また、ここ数年お題目のように唱えられている「働き方改革」も大事な政策だろう。それが当事者たちの困りごとを改善し、ジェンダー格差を是正するためのものであるならば粛々と進めて欲しいと思う。しかし一方で、自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」を読むと、本音の部分ではそれと正反対のことを考えているようにしか思えない文言がそこかしこに記載されている。

憲法は「国の最高法規」と呼ばれるが、平たく言えば「国をどういうふうに治め、国の仕事をどういうふうにやってゆくかということをきめた、いちばん根本になっている規則」(『あたらしい憲法のはなし』より引用)となる。この国の主権者である我々国民が、「国の仕事」に従事する政治家や公務員に対して課したルールとも言える(それとは逆方向に、国民が守るべきルールが法律だ)。

現在の日本国憲法は「国民主権」「戦争放棄」「基本的人権の尊重」が三原則となっている。ところが自民党の改憲草案では、「まえがき」にあたる前文の主語から変わっているのだ。日本国憲法では「日本国民は」と始まる形で主権在民を宣言しているのに対し、改憲草案では「日本国は」と国が主語になっている。まるで憲法の方向を「国→国民」に反転させようとしているかのように思える変更点だ。

「個人として」と「人として」は何が違うのか

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清田隆之

(きよた・たかゆき)1980年東京都生まれ。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。早稲田大学第一文学部卒業。これまで1200人以上の恋バナを聞き集め、「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している。 『cakes』『すばる』『現代思想』など幅広いメディアに寄稿するほか、朝日新聞..

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