綾野剛×星野源『MIU404』の現代性と普遍性。野木亜紀子脚本の構成力を考察する
金曜ドラマ『MIU404』がすごい。コロナ禍の中で4月10日スタート放映開始の予定から遅れること2カ月半、6月26日放送の第1回から大人気に。『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』などを手がけた脚本家・野木亜紀子の新境地を、ドラマを愛するライター、大山くまおは「現代の日本が抱える社会問題への向き合い方」と見据えて考察する。
社会の問題を真正面から取り上げる『MIU404』
綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』(TBS)が好評だ。綾野演じる刑事・伊吹藍と星野演じる刑事・志摩一未が「第4機動捜査隊」のバディとなり、事件解決に奔走するというストーリー。脇を麻生久美子、岡田健史、橋本じゅんらが固める。数話にわたるゲストとして菅田将暉が出演しているのも話題になっている。
刑事ドラマらしい1話完結のストーリーを積み重ねながら、志摩が抱えていた“相棒殺し”の過去、第4機動捜査隊隊長・桔梗ゆづる(麻生久美子)が長年追いかける闇カジノ事件などを縦軸にして進んでいく緻密な構成は、『アンナチュラル』(TBS/2018年)を手がけた脚本家・野木亜紀子の面目躍如だろう。
『MIU404』は新井順子プロデューサーによる「機動捜査隊を舞台にした新たなオリジナルドラマをやりたい」というオーダーに野木が応えたかたちで始まったもの。「刑事モノが乱立するドラマ界にこれ以上刑事ドラマを増やしてどうするんだ」という公式サイトに寄せた野木のコメントは、同ドラマの設定を聞いた視聴者の感想と似ていたんじゃないだろうか。いくら今、最も注目を集めている脚本家といえども、手垢のつき過ぎた刑事ドラマというジャンルで、斬新かつおもしろい作品ができるのだろうか、と。
それでも、『MIU404』はここまでめちゃくちゃおもしろい。刑事ドラマとしての完成度は、ほかの同ジャンルの作品より頭ひとつ抜けているように感じる。だが、それは『MIU404』がまったく斬新な刑事ドラマだからというわけでなく、むしろ刑事ドラマとして先祖返りをしつつ、現代向けにアップデートしているからだと考えられる。
まず、大きなポイントとして挙げられるのが、現代の日本が抱える社会問題への向き合い方だ。第1話では煽り運転、第2話ではブラック企業に蝕まれる現役世代による犯罪、第3話では社会からこぼれ落ちる若者たちの姿、第4話では男社会とヤクザに搾取されつづけて社会の片隅で命を失う女性の“反撃”が描かれた。第5話「夢の島」では搾取される外国人技能実習生の問題を克明に描いて大きな反響を巻き起こした。問題の表面だけを取り入れるのではなく、問題の根源とされる「監理団体」にスポットを当てたところも特筆に値する。
また、どのエピソードも、ちょっとしたきっかけ(それを作中では「スイッチ」と呼ぶ)で犯罪に走らざるを得ないところに追い詰められた社会的な弱者が描かれている。機捜の面々は、犯罪者たちが罪を重ねる前に逮捕し、罪を償わせ、社会に押し戻す「スイッチ」の役割を担っている。
ストーリーに社会問題を巧みに取り入れてエンタテインメントへと昇華させるのは、野木亜紀子の得意技と言ってもいい。代表作『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS/2016年)はラブコメディでありながら、女性の「生きづらさ」を描いていた社会派ドラマでもあった。『アンナチュラル』(TBS/2018年)も1話完結の法医学ミステリーでありつつ、社会的弱者を襲う不条理な死への怒り、法を守ることの大切さなどが物語の縦軸として据えられている。『フェイクニュース』(NHK/2018年)は社会問題そのものがテーマとして取り上げられていた。このとき、野木は「『世の中の分断』を書こうと思った」と語っている。
野木は脚本家になる以前、ドキュメンタリー制作会社に勤務し、取材やインタビューなどを手がけていたことはよく知られている。派遣社員として働いたことも社会を見る目につながっているという。刑事ドラマにありがちな単純な勧善懲悪のストーリーではなく、その背後にある複雑さから目をそらさず、弱き人々の声にも耳を傾ける。「事件が起こるところには必ず、人がいて、社会がある」と彼女は言う。野木の社会、そして人を見つめる眼差しの深さが、『MIU404』のドラマのクオリティを高めるのに大きな役割を果たしているのは間違いない。
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