アルコ&ピース(平子祐希・酒井健太)がMCを務めるテレビ東京のゲームバラエティ番組『勇者ああああ』。この連載では同番組の演出・プロデューサーを務める板川侑右が、主に過去に呼んだお笑い芸人についてエピソードを語る。
『勇者ああああ』にはお笑い芸人だけでなく、“ちょっと変わった文化人”も出演する。たとえば料理家の園山真希絵などひと癖もふた癖もある強者が登場するのだが、中にはなぜキャスティングされているのか理由がまったくわからない人物もいる。それが、2000年代に一世を風靡したイラストレーター326(ナカムラミツル)だ。
すべての行動や言動に意味を求められる「プロの厳しさ」
「藤井聡太が記した人生初の“封じ手”用紙、買えます!」
そんなネットニュースの見出しを見た。記事によると、先日行われた王位戦第2局で藤井聡太棋聖がプロ棋士人生で初めて書いた封じ手「8六歩」が希望者に販売され、その収益が豪雨被災地への義援金に充てられることになったらしい。 「封じ手」とは対局が翌日にもつれ込む場合などに適用されるルールで、指し手が次に指す一手を紙に記し、対局が再開するまで封印する行為のことである。
ちなみにこの「封じ手」、フジテレビの大ヒットドラマ『警部補・古畑任三郎』第1シリーズ第5話「汚れた王将」にも犯人を暴くキーアイテムとして登場。正直言うとさっきの説明も全部ドラマの受け売りである。
すべてにおいて“合理的”であることを重んじる米沢八段(故・坂東三津五郎)が「封じ手」に仕かけたトリックを暴こうとする立会人を殺害。しかしその際に被害者の血液が対局に使用する竜の駒に付着する。裏返したときに見えてしまう血痕から殺害現場の発覚を恐れた米沢八段は、飛車を「成り」にするのを諦めてそのまま敗北する――「汚れた王将」のストーリーをざっくり言うとこんな感じだ。そして物語は自分らしくない“非合理的な一手”で不様に散った米沢八段のひと言で締められる。
「あのときの飛車の動きに関して私は説明のしようがない(中略)
合理的な説明ができないくらいなら、自首したほうがマシだ」
すべての行動や言動に意味を求められる「プロの厳しさ」を僕は子供ながらに痛感した。そして大人になった今、僕はテレビ制作のプロとして企画やキャスティングについて多くの人々から説明を求められる立場になった。
「この前放送した、スクウェア・エニックスの歴史を振り返る企画
あれビックスモールンを出す理由って何かあるの?」
ビックスモールンをテレビに出す理由、そんなものはこの世に存在しない。ただなんとなく「イジったらおもしろそうだから」呼んだだけである。とはいえこちらも番組プロデューサーとして「なんとなく呼びました」とは口が裂けても言えない。どんな無駄な一手であろうと意味を持たせるのがプロの仕事だ。
「2003年にスクウェアとエニックスが合併することで誕生したゲームメーカー、スクウェア・エニックス。そして2019年にグリが合体することで誕生した新生ビックスモールン。“合併と合体”というふたつの事実を比較することで視聴者に歴史をよりわかりやすく伝えられるのではないか、という意図でのキャスティングです」
我ながら「ちょっと何言ってるかわからない」説明である。ただ重要なのは内容ではなくてその熱量。真剣な顔をして話せば多少道理が通ってなくてもなんとなく回っていくのがプロの世界である。
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