クズ主人公が話題の『連ちゃんパパ』強姦シーンに見るリアル(小川たまか)
※性暴力に関する記述が含まれる原稿です。
GWが明けたころからツイッター上でにわかに話題になったのが、『連ちゃんパパ』です。話題になった理由は、主人公をはじめとした登場人物がそれぞれクズ要素を抱えていることと、パチンコ沼の闇、そして描かれる内容のえげつなさと、ほのぼのタッチの絵柄のギャップ。
「吐き気をもよおす邪悪」とも表現されるそのクズっぷりを、怖いもの見たさで見ちゃった人も多かったものと思われます。
私は性暴力を取材するライターなので、このマンガでの数々の邪悪エピソードの中でも最も読者をドン引きさせている「主人公の強姦事件」に興味を持ち、ちょっと全巻購読してみました。
今回書くのは、被害者視点での『連ちゃんパパ』強姦エピソードについて、です。
被害者が加害者になる連鎖
まず、『連ちゃんパパ』(作・ありま猛)は1990年代にパチンコマンガ雑誌で連載されていた作品です。しかし内容は、パチンコ依存から抜けられなくなり、他人どころか実子までも傷つけまくる、どうしようもない親たちの話。
高校教師だった主人公の日之本進はあっという間に失業し、その日暮らしの不安を埋めるかのようにパチンコにのめり込んでいきます。まじめに働こうとすることもあるけれど、そのたびに不運に見舞われ深みにハマるばかり。
パチンコ代を稼ぐために人を陥れることを躊躇しない進は、たびたび「エヘヘ」「ハハッ」と屈託のない笑顔を見せるのですが、主人公が笑うたびに読者はゾッとする仕様になっています。エヘヘじゃねーよ!
とはいえ、邪悪過ぎるという前評判を読み過ぎたせいか、かえって進に同情してしまう部分もありました。彼がパチンコ依存になったそもそものきっかけは、先にパチンコにハマった妻・雅子が借金と浮気をして出て行ったこと。
『連ちゃんパパ』では被害者が加害者になり、被害を生みつづける連鎖がさまざまな関係性の中で描かれており、進ばかりが悪いとも思えなくなります。
だが、強姦は別だ。
絵里が警察に通報しないのは究極のリアル
非常に胸糞悪いエピソードですが必要なので説明しますと、進の息子である浩司の境遇を心配した小学校教師・絵里が、浩司を預かりたいと申し出ます。
進は浩司を一時保護している絵里の家に出向き、具合が悪いふりをして、絵里に「今夜は泊まっていって下さい」と言わせ……そして寝ているところを襲う。
驚いた絵里を「大声出すと(隣に寝ている)浩司に聞こえるぜ」と黙らせ、ことが終わったあとは、「もう他人じゃないんだからさ」「もういいじゃないか終わった事は……(困り顔)」と、悪びれる様子もない。クズの中のクズ。
私がこの物語展開で大変リアルだと感じるのは、泣いて怒り、進を「ケダモノ」と非難する絵里が、警察に連絡しないことです。通報しようか迷う場面すらない。
実際にこれが現実です。内閣府調査によれば、無理やり性交等をされた経験のある男女のうち、警察に連絡・相談したと答えた人はわずか3.7%(※1)。
また、これは顔見知りからの性被害に当たるわけですが、事実として性被害は知り合いから行われることがほとんどです。同じく内閣府調査によれば、無理やり性交等をされた経験のある男女のうち、加害者が「まったく知らない人」と答えたのは11.6%に過ぎません。
加害者との関係で3番目に多いのが「職場・アルバイト先の関係者」(14.0%)で、進と絵里の関係もこれに当たるでしょう(※2)。
被害を訴えることの負担
なぜ被害者は警察に通報できないのか。この心理は複雑でいろいろなパターンがあり、ここでは書き切れないほどですが、ひとつ挙げるとすれば、被害者が自責感に囚われてしまうことです。「騙されて泊めてしまった自分が甘かった」といった自責感です。だから、被害者の「隙」を言い立てるようなセカンドレイプは有害なのです。
また、2017年の性犯罪刑法改正まで、強姦罪(現・強制性交等罪)は親告罪でした。被害者の告訴があって初めて捜査が始まるため、加害者側の関係者が被害者に「告訴しないでほしい」とプレッシャーをかけることがありました。
「おおごとにすればあなたがつらい思いをするだけ」「あなたが我慢すれば丸く収まる」などと言われるわけです。進の場合だったら、浩司の将来を心配している絵里の気持ちを逆手に取って「浩司を犯罪者の息子にするつもりなの?」とか言うのでは。進ならすっごく言いそうですよね。
実際に、強姦を訴えた女性が、出所した犯人から逆恨みされ刺殺される事件もありました(※3)。
(※1)内閣府・平成30年発表の「男女間における暴力に関する調査」より。「無理やりに性交等された被害の相談先」警察に連絡・相談したと回答した人は女性2.8%、男性8.7%、男女合わせて3.7%。「性交等」とは、膣性交・肛門性交・口腔性交のいずれか。
(※2)加害者との関係で最も多いのは「配偶者・元配偶者」(女性26.2%、男性8.7%)、次いで「交際相手・元交際相手」(女性24.8%、男性17.4%)。「職場・アルバイト先の関係者(上司、同僚、部下、取引先の相手など)」は女性14.9%、男性8.7%、男女合わせて14.0%。
(※3)JT女性社員逆恨み殺人事件(1997年・東京)。2017年の刑法改正で非親告罪化したのは、このような被害者の負担を減らすため。
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