映画が終わっても人生は続いていく——『IDOL』著者・町屋良平と『冬のなんかさ、春のなんかね』監督・今泉力哉が語る“物語の終わらせ方”
芥川賞作家・町屋良平のアイドルをテーマとした小説『IDOL』は、町屋自身がボーイズグループに魅入られ、感動してきた経験から書いた作品である。
本作の出版を記念して、映画監督の今泉力哉との対談が実現した。今年話題を呼んだドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』を手がけた今泉は、BE:FIRSTの楽曲「空」のMVや、乃木坂46の個人PV、ハロプロオタクたちの日常を描いた映画『あの頃。』でも監督を務めた。
ふたりのアイドル原体験から、互いの創作スタイルにまつわる話まで。4月25日に青山ブックセンター本店で行われたトークの模様をお届けする。
「IDOL」の原体験はBTS、ももクロ、BE:FIRST
町屋 『冬のなんかさ、春のなんかね』で、わたしの小説を取り上げてくださってありがとうございました。SNSで騒ぐとみっともないかなと思って心を静かにしていたんですけど、うれしかったです。
今泉 自分の作品はクセが強いので、そう言ってもらえて安心しました(笑)。小説家の主人公が、学生時代に先輩から薦められる本として町屋さんの『1R1分34秒』を使わせてもらいました。町屋さんの小説はこれまでに何冊か読んでいたのですが、今回ボーイズグループをテーマにされたのはどういういきさつだったのですか? もともと好きだったんですか?
町屋 そうですね。きっかけはBTSで特に「IDOL」という曲に衝撃を受けました。それから何年か経って、日本でもサバイバルオーディションが世間で流行りだした。わたしもちらっと見て「ほお、こういうものか」なんて思っていたのに、いつのまにかツーッと涙が流れていて……。
今泉 (笑)。
町屋 今泉監督もアイドルのMVを撮っていますよね。アイドルの原体験はなんですか?
今泉 最初はももクロですね。まだ6人時代だったから「ももいろクローバー」時代ですかね。「Z」がつく前のももクロのライブを生で見たことがあって、あれは衝撃でした。1日3公演の初回なのに全力で踊って歌っていて。「この濃度で3回やるって、どゆこと?」と思いました。あと、2階の関係者席から見せてもらったんですが、サイリウムの波がマジですごくて。パフォーマンスと同じくらいその光景にも感動しました。その後、乃木坂46と仕事したり、ボーイズグループでいうとBE:FIRSTの「空」というMVも撮りましたね。
町屋 BE:FIRSTの話はしたかったんですよ。彼らの「Scream」を聴いて「日本にもこんなダンス&ボーカルグループが出現したんだ!」って驚きました。「空」のMVでめちゃくちゃ泣いたのは、数年間一緒にやってきた彼らが友人同士だったり、他人として映ってるところでした。別の世界線を見せてもらったようで素晴らしかったです。
今泉 BE:FIRSTは紅白で見た時にかっこよくて印象に残っていて。ただ、オファーをもらったときはそこまで詳しくなくて、人数もわかってなかった。だから脚本を書くヒントが欲しくて、今でも見れるオーディション動画やYouTubeコンテンツなどをたくさん見ましたね。
町屋 JUNONさんとSHUNTOさんがメインでしたね。
今泉 ふたりは芝居ができそうというか、自分の好きな温度感だったんです。もっともっと俳優の仕事もやっていってほしいなと思います。自分の作品でもまたご一緒したいですね。
着想は実際のサバ番から
今泉 でもボーイズグループが好きといっても、なかなか小説にしようと思わないような気がするんですが。
町屋 最初「Quick Japan」の編集者は「青春をテーマに短編小説はどうでしょう」って言ってくれたんですけど、最近の「Quick Japan」ってボーイズグループをよく取り上げているのを知ってたから、だったら「ボーイズグループ小説じゃん!」と勝手に思っちゃったんです。
今泉 そこからの発想だったんですね。QJ×青春=ボーイズグループ小説!
町屋 『IDOL』で描かれるグループ「8koBrights(エコーブライツ)」は、サバイバルオーディション番組で落ちた人たちで結成されているんですけど、実際のサバイバル番組で落ちちゃった子から着想しました。彼はオーディションを主催するプロデューサーの方から「自分のラップを見つけろ」という課題を暗に与えられ、早い段階で自分には無理だと気づき、数日間めちゃくちゃ苦しむんです。落ちたあとのインタビューでも「音楽が嫌いになりかけた」と告白していて、その姿にわたしも号泣してしまいました。『IDOL』の4章以降はその号泣のパワーで書けちゃったところがありますね。
今泉 そこに加えてタイムスリップとかサスペンスの要素も入ってきて。
町屋 普通にボーイズグループのリアルを書いても現実に起こっていることにまったく敵わない。だったらタイムスリップしてもらおうと。
今泉 敵わないからだったんですね。でも、普通そうはならないですよ(笑)。
町屋 むしろタイムスリップのアイデアが生まれた瞬間、書けると思ったんです。小説っていろいろ情報を溜めておきながら、ひとつのアイデアや一文が生まれた瞬間に始まるんですよ。
小説/映画の終わらせ方問題
今泉 町屋さんって小説を書く時、どこから書きますか? 冒頭から? それともラストを決めてから書き出します?
町屋 自分の場合は、頭から書き進めていきますね。書いている自分としても、次はどうなるのかわからない状況にしたいので。
今泉 一緒です。自分も可能ならシーン1から書きますね。ラストから書く人もいるけど、その結末のために人物に何かを言わせたり行動させたりするのが嫌なんです。帳尻を合わせていくみたいで。物語をつくるときは1→10で順番に書きたい。でも実際は1だと思っていたところが書き進めるうちに2か3になって前段を足したりっていう作業はありますけど。
町屋 でも最後のほうってどうしてもわかっちゃうじゃないですか。自分の頭のなかでもう結末までわかってるのに、それをわざわざ書くのが精神的に辛くて……今泉監督はそういうことないですか?
今泉 ないですないです。辛くなるってめっちゃ面白い思考ですね。もう書かなくていい、作業みたいになる辛さなんですかね。そういう感情になったことはないです。ぜんぜんその域に達してないかも(笑)。町屋さんが終わらせ方で意識してることはなんですか?
町屋 小説でぼくが一番大事にしているのは、開いて終わらせることですね。情報量を増やして終わりにしたい。でもこれって技術的に難しいんですよ。
今泉 わー、わかります。
町屋 普通の小説って物語の中盤以降はキャラクターの情報も定まってストーリーの流れもつかめるから、ぐいぐい読めるものなんですよ。
今泉 たしかに難しいですよね。後半で新しい人を出すとその人について描く時間もないし、展開も増やすと、とっ散らかる可能性が高い。だから大抵の物語って、中盤以降は駒が出揃ってそこからどうなるかを描く。だから印象として閉じていく。
町屋 でもぼくは読者として小説を読んでいるとき、中盤で作者が終わりを意識したことを感じると萎えるんです。これは保坂和志さんがずっと言ってることですけど、小説はどんどん情報を増やし続けたほうがいい。もっというと終わり方なんて別になくて、プツっと切ればいいと。ぼくはそこまで極端なやり方はしないですけど、そのことは常に意識していますね。
今泉 おもしろ! 意識してないと後半って閉じてっちゃうなという感覚はあったんですけど、こうやって言葉として人から聞いたのは初めてです。俺も自分の映画では、全部解決して終わりとか、わかりやすいハッピーエンドやバッドエンドで終わらないようにというのは意識していますね。
映画はあくまでも登場人物たちの人生の一部分でしかなくて、映画が終わっても人生は続いていくから。ただ、「ここで終われたでしょ」っていうタイミングが何回もある映画にはならないように気をつけつつ、ですが。
町屋 今終わってたらめっちゃよかったのに……というのは映画ならではの現象ですね。演劇でもたまにあるけど、映画でよくある。
今泉 『IDOL』の終わり方は確かにある種のピークで、開いて終わっていて。心地よかったです。
ビジュはイメージしない
町屋 8koBrightsに推しのキャラクターっていますか?
今泉 レンですかね。あとはリュウも。
町屋 レアですねぇ。レンとリュウは女性読者からの人気がめちゃくちゃ低いです(笑)。現実にいたら人気だろうけど、小説のかたちで中身を知っていると推せないっぽい。
今泉 町屋さんはいるんですか? 推し。みんな平等に好きですか?
町屋 わたしは作者として運営側の視点なので、社長のヤスですかね。グッズを平等に売らなきゃという気持ちで書いていました。
今泉 なるほど。自分はアイドルとかに関しては、支える側よりも支えられる側の人が好きだからかもしれません。周りが見えてなくて、真ん中にいられる人のすごさに惹かれるというか。
町屋 めちゃくちゃ今泉監督っぽいですね。ちなみに推しはいないですけど、ちなみに書いていて苦労したのはシンイチなんですよ。キャラクターとしては動かしやすいけど、内面の魅力をどう書けばいいのか、かなり悩んでました。5章くらいでようやくファンがシンイチを推すポイントがわかってきた。
今泉 脚本を書くときって俳優の背格好とかもけっこう意識しなきゃいけないんですけど、小説の場合ってどうですか?
町屋 ビジュはまったくイメージしてないですね。
今泉 え、ほんとですか? それはすごいな。俺、ここ数年小説書こうとしてるんですけど、全然書き切れなくて。まぁ脚本も締切までに書き終えることのほうが少ないけど……(苦笑)。ゼロからだと書けないんですよね。ヒントはたくさんあったほうがいい。さっきの終わらせ方問題でいうと、映画の場合、ラストシーンは基本的に撮影が始まってから書き直しています。
町屋 たしかにその書き方だと小説はめちゃくちゃつらそう。
今泉 それでも、なんで脚本は書けるのかっていうと、脚本って世に出ないじゃないですか。脚本は映画やドラマの設計図でしかなくて。それを元に多くのスタッフやキャストの力が合わさって完成する。でも小説は、文字だけで、それ自体が作品じゃないですか。だから本当すごいと思っています、小説も、小説家も。

町屋良平(まちや・りょうへい)
1983年生まれ。2016年『青が破れる』で文藝賞を受賞しデビュー。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞、2022年『ほんのこども』で野間文芸新人賞、2024年「私の批評」で川端康成文学賞、『生きる演技』で織田作之助賞、2025年『私の小説』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。他の著作に『しき』『愛が嫌い』『ショパンゾンビ・コンテスタント』『生活』など。2026年4月、『IDOL』(太田出版)を刊行
今泉力哉(いまいずみ・りきや)
1981年生まれ、福島県出身。2010年『たまの映画』で商業映画監督デビュー。『愛がなんだ』、『街の上で』、『窓辺にて』、『ちひろさん』、『アンダーカレント』など、恋愛をテーマにした映画作品、テレビドラマやMVなどを多く手がける。2026年1月より日本テレビ水曜ドラマ『冬のなんかさ、春のなんかね』で監督・脚本を務める。
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