ライターから文筆家に。小沼理が肩書を変えた理由「別の言い方のほうがしっくりくるかも、と」【夕方5時の会議室 #8】

編集=高橋千里


少女写真家・飯田エリカと、QJ編集部・高橋の音声番組『夕方5時の会議室』。メディア業界で働く同世代ふたりが、日常で感じているモヤモヤを、ゆる〜くカジュアルにお話しします。

第8回は、文筆家・小沼理(おさむ)さんがゲストで登場。著書『共感と距離感の練習』(柏書房)の紹介から、ご自身の肩書や経歴について話します。

※音声収録は2025年5月16日に行いました

この記事では、音声の前半部分だけをテキストで公開。後半はYouTubeまたはPodcastよりお聴きください。

エッセイを出したことで、仕事内容が変わってきた

飯田 少女写真家の飯田エリカです。

高橋 『クイック・ジャパン』編集部の高橋です。この番組『夕方5時の会議室』は、メディア業界で働く私たち同世代ふたりが日々感じているモヤモヤをカジュアルにお話しする番組です。今回はゲストに、小沼理さんを呼びました!

小沼 小沼理といいます、よろしくお願いします。今日は呼んでくれてありがとうございます。

飯田 こちらこそありがとうございます! 私は大学時代からの友人なので、「おさむたん」って呼ぶんですけど……。

高橋 かわいい。

飯田 「今後のゲストどうしましょう?」みたいな話をしてたときに、高橋さんから「小沼さんって……」みたいな感じで名前が上がって。

高橋 このPodcastを始めたときに(飯田さんと)ゲスト候補を何人か出していたんですけど、その中に小沼さんがいらっしゃって。私と飯田さんと同じ大学出身っていうのもありますし、書籍もすごくおもしろいので、呼ばせていただきたいなと思って。

小沼 ありがとうございます。

高橋 ちなみに、小沼さんの今の肩書は……?

小沼 今は「文筆家」にしてます。去年まで「ライター・編集者」だったんですけど、ふと思い立って文筆家にしてみました。まだ1年経ってないぐらいですね。

高橋 (肩書を変えたのは)何か思うことがあったんですか?

小沼 ライターっていう肩書もすごく気に入ってたんですよ、ずっとライターとしてやってきてたし。僕はエッセイの本を何冊か出してるんですけど、本の帯に「注目のライター」と書いてもらえることもあって、こういうときに見る「ライター」っていう文字列かっこいいじゃん!って気に入ってたんですけどね(笑)。

でも、自分のエッセイの本をいろいろ書くようになって、ライターというものから(仕事内容が)ちょっとズレてきたなって感じるところもあって。広い意味ではライターではあるんだけど、なんかちょっと違ってきたというか。

やっぱり「ライターです」って自己紹介をすると「どういう媒体で書いてるんですか?」って聞かれることがすごく多いんですけど、そのときもあんまり「この媒体でよく書いてます」って言えるような媒体がなくて。

飯田 けっこう野良だったね(笑)。

小沼 代わりに「こういうエッセイの本とかを出してて……」というふうに言うことが多かったんですけど、エッセイの本を出してて、でも肩書がライターって、ちょっとチグハグな感じがするなっていうか。

気にしない人は気にしないと思うんですけど、なんとなく自分の中でそこがちょっと違和感というか、ライターじゃない別の言い方のほうがもしかしたらもうちょっとしっくりくるのかもと思って「文筆家」にした、という経緯がありました。

飯田 なるほど。じゃあ今日は文筆家の小沼さんということで。今ちらっと言った「本を出してて」っていうのが、今テーブルにもある『共感と距離感の練習』。こちらが一番最新の書籍ですね。

小沼 そうですね、これは1年前に出しました。僕はゲイで、今の日本で生きる中でいろいろと感じたことを主に書いているエッセイで。その後ちょっと編著みたいなかたちで本を出したりもしてるんですけど、これが一応「エッセイ集」としては最新ですね。

飯田 すごく反響があって、(本の宣伝を兼ねた)いろんなイベントをしてトークをしているんですよね。私は仕事が入っちゃって行けなかったんだけど、春ねむりさんともトークしていてすごいなって。

小沼 そうですね。春ねむりさんと対談したのは、書店の担当者さんが「春さんとお話ししているのを聞いてみたいです」と言ってくださって、セッティングしてもらって。

本の中にはフェミニズム的な視点や、自分がゴリゴリにアナキストですっていうわけではないんだけどアナキスト的な思想に共感する部分、でもまだちょっと自分にはレベルが高いかもと思うような部分、その揺らぎみたいなものを書いているので、そういうところも含めて「春さんがいいと思います」って書店の方は言ってくださったのかなと思うんです。

そういう視点からのキャスティングがあって、いろんな人と対話して、でも「文筆家」って名前変えたわりに、文章を書く仕事よりしゃべる仕事のほうがよくやってる感じがちょっとしてて(笑)。

高橋 文章を書く時間よりもしゃべる時間のほうが長い……?

小沼 いや、今もう一冊新しいエッセイの本を作ってるところなので、一応そこで書く時間は取れてるから、アイデンティティとしては保ててるんですけど。表立った活動の告知が「○○さんとトークします」というのが多い、“べしゃりの人”みたいになっちゃってるんです(笑)。

高橋 カメラマンさんもそうですけど、クリエイターさんが表に出てしゃべる時代になったなと思っていて。トークショーもそうだし、こういうPodcastとか、Xのスペースで話す方も増えましたよね。

小沼 そうですね。本の販促イベントも、やっぱりここ15年くらいで著者がトークイベントをするのがすごく増えてきたなっていう感覚がありますね。前はもうちょっと違ったかたちで、会えるとしてもサイン会くらい? トークとか講演会はもちろんあったけど、こんなにたくさんではなかったな。

飯田 ひとりでこんなにやるとは……という感じですよね(笑)。いっぱい動かないといけない。

小沼 今は著者が自分のSNSでガンガン告知して、トークイベントも出て……みたいな時代ですね。

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次回も、続・小沼さんゲスト回。『共感と距離感の練習』に収録されている「男性的」の章から、男性的組織へのモヤモヤを話します。

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  • 『共感と距離感の練習』(柏書房)

    「わかる」なんて簡単に言えない、「わからない」とも言いたくない。ゲイ男性の著者が、自他のあわいで揺れながら考えるエッセイ。

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