囲碁将棋「漫才にツカミはいらない」『THE SECOND 2025』絶対的信念を掲げた3度目の挑戦

文=奥森皐月 編集=高橋千里


年間100本以上のお笑いライブに足を運び、週20本以上の芸人ラジオを聴く、21歳・タレントの奥森皐月

今回は5月17日に放送された『THE SECOND~漫才トーナメント〜2025』(以下:『THE SECOND』)グランプリファイナルで改めて感じた、囲碁将棋の驚異的な職人っぷりを熱弁する。

欠かせないお笑い賞レースになった『THE SECOND』

『THE SECOND』グランプリファイナルが5月17日、フジテレビにて放送された。

結成16年以上で、過去に全国ネットの漫才賞レース番組で優勝経験がないことが出場条件の“セカンド”。2023年に第1回大会が開催され、今回が3回目となった。初年度から楽しく観ていたが、今年の大会を通していよいよ欠かせないお笑い賞レースになっていることを感じた。

『THE SECOND』
(C)フジテレビ

これまで『THE SECOND』という大会は「『M-1』で勝つことができなかった芸人さんに向けた大会」という印象だった。

『M-1』の予選で毎年のように準決勝くらいまで勝ち上がっていたのにそのままラストイヤーを迎えてしまった芸人さんや、決勝に進んだ経験はあるものの惜しくも優勝に届かなかった芸人さんが、もう一度戦って優勝を目指すという側面が大きかったように思える。

ところが今年の『THE SECOND』は、予選含め『M-1』に一度も出場したことがない芸人さんがふた組もグランプリファイナルに出場した。もう少し正確にいうならば、『M-1』が始まったころにはすでに芸歴10年を超えていたという大ベテランだ。

『THE SECOND』
(C)フジテレビ

過去2回の『THE SECOND』で最も芸歴が長かったのは、1994年結成のテンダラー。今大会ベスト8となったのは、その記録を遥かに上回る1990年結成のはりけ〜んずと、1972年結成のザ・ぼんちのふた組だった。

どちらも当然名前は知っている芸人さんだが、劇場に行かない限り漫才を観られる機会はなかなかないと思う。それがゴールデンの地上波番組で楽しめるというのは『THE SECOND』ならではの魅力だろう。

芸歴16年以上という条件はあるものの、上限がないことによって『M-1』では観られないような多様さと稀少でわくわくするラインナップが作られている。もっとも、それだけの芸歴を重ねた上で戦いに挑もうとする決意も凄まじい。

地上波ならではの「スーパーオーディエンス」システム

第3回大会となって大きく変わった点といえば「スーパーオーディエンス」というシステムができたこと。アーティスト・俳優・アスリートなど幅広いジャンルの著名人が、事前PRに携わったり、当日のスタジオを盛り上げたりするようになった。

これまでは進行のアナウンサーさんを除くとスタジオにいる全員が芸人さんで、独特な空気感が個人的には好きだった。ただ、お笑いの濃度があまりにも高く、観ている人によっては疲れるだろうなぁとも感じていた。

今回スーパーオーディエンスが入ったことにより、地上波の賞レースらしさが増し、これまでよりはゆったり観られた気がする。

あくまでも私の一意見ではあるが、司会の東野幸治さん、ハイパーゼネラルマネージャーの有田哲平さん、スペシャルサポーターの博多華丸・大吉さんという強固な“お笑い”との対比があった。

これまでに比べ、お笑いファンではないテレビが好きな層は観やすかったのではないだろうか。そもそもお笑いファンではない人が4時間かけて14本漫才を観続けられるのかわからないが。

芸人への愛とリスペクトを感じるVTRパート

番組冒頭のVTRで「『THE SECOND』の魅力」を紹介しているパートがあった。初見にも優しくて丁寧だ。

「ベテラン同士のタイマンバトル」「審査員は観客100人」「優勝までネタ6分×3本の過酷な戦い」という3つの魅力が紹介されていたのだが、プレイヤー側の過酷さが魅力とされているのがお笑いスケベを隠しきれていなくて笑ってしまった。

これまでの大会にも共通していえることなのだが、『THE SECOND』は節々から芸人さんへの愛とリスペクトを感じる。

オープニングのVTRでは、グランプリファイナルより前に敗退してしまった芸人さんがたくさん映る。それから、対決前のVTRでは予選でどの組と戦って勝ち上がってきたかの紹介がされる。過去の苦労話や私生活については過度に話されず、あくまでも漫才師としてのこれまでを紹介するVTR、というのがとても好きだ。

また、トーナメント形式が採択されているため、予選含め明確な順位がつけられることがない。スポーツではトーナメント形式はよくあるが、お笑い賞レースは点数による順位形式が多かった。

「ファイナリスト」や「セミファイナリスト」とくくられていることがほとんどなので、「ベスト16」や「ベスト8」と呼んでいるのは特徴的。このスタイルが素敵だと思う。

観客の採点から感じた「お笑いファン度」の高さ

昨年『THE SECOND』を観ていて唯一気になった点は、観客の採点について。

観客は絶対評価で、とてもおもしろかった・おもしろかった・おもしろくなかったの3段階で点数をつけることとなっている。しかし、コメントを求められて「〇〇のほうがおもしろかったので3点にした」と言う人がちらほらいた。

あくまでも絶対評価なので、わざと点数に差をつける必要はない。今回はそのルールがきちんと説明されていたのか、先述したようなコメントをする人はほとんどいなかった。

むしろ一般観客の審査コメントが話題になるほど。金属バットのネタに対する「無言の時間はバネを縮めているようだった」という秀逸な表現は、観客のお笑いファン度の高さを感じさせた。「はりけ〜んずが仕上がっていると両親が言っていた」というコメントもなかなか衝撃的だった。

以前グランプリファイナルの観覧募集のサイトをのぞいたのだが、サイト内に「今年の『THE SECOND』の予選を観に行ったか」「配信で予選を観たか」「普段どれくらい劇場に行っているか」などの質問項目があった。

この質問の結果から、たくさん観ている人が観覧に選ばれているのか、はたまた関係ないのかは不明である。しかし、少なくともあのスタジオで観覧している人の多くは、普段から劇場に通うようなマニアなのではないかとテレビで観ながら思った。

史上初のトップバッター優勝を果たしたツートライブ

今年のチャンピオンとなったのはツートライブ。史上初のトップバッターからの優勝も達成した。

『THE SECOND~漫才トーナメント~2025』
撮影=ナカニシキュウ

4分という限られた時間の中で多くの展開を詰め込む『M-1』のネタとは違い、『THE SECOND』のネタは前のコンビのネタの内容を用いたりイジったりする傾向にある。

そのため「後攻のほうが有利なのではないか」とも思っていたのだが、結果的には一番最初にネタを披露したツートライブが勝ち進んでいった。

ほかのコンビのネタを使うことなく、3本のネタに共通して「本当においしい肉は固くてまずい」という、やけに耳に残るフレーズを入れていたのは圧巻だ。

『THE SECOND』のシステムを巧みに利用して、回を重ねるたびにおもしろさを増していったのが優勝の秘訣だったとも思える。

“ツカミ0”で最後まで駆け抜けた囲碁将棋

一方、私が今年優勝候補だと注目していたのが囲碁将棋だ。

2023年大会でグランプリファイナルに出場し、昨年は惜しくもベスト16、今大会でまたファイナルまで駒を進めていた。

予選となるノックアウトステージでは、過去最高得点の297点を獲得。吉田たちが対戦相手だったグランプリファイナル初戦では、ツートライブに次ぐ294点という驚異的な点数を叩き出した。

そしてザ・ぼんちとの世紀の大接戦を勝ち抜いた金属バットをも倒し、優勝目前まで進む。「今日が一番おもしろいです」と言い放つ最高の状態の囲碁将棋のネタを3本も観ることができて、ただただうれしかった。

先日、文田(大介)さんがPodcast番組『NON STYLE石田明の漫才を問う』にゲスト出演した際に、「漫才においてツカミはいらない」という話をされていた。

これはあくまでも寄席での話で『THE SECOND』はまた別かと思っていたのだが、今回のネタは3本とも「どうも、囲碁将棋です」の次には本ネタの内容を話し始めている。本当にツカミ0で最後まで駆け抜けていて、驚かされた。

1本目の『年齢確認』は文田さんのヤバさが詰まったコント寄りの漫才、2本目の『子供の名前』は言葉遊びの入った巧みなネタ、3本目の『モテる方法』は根建(太一)さんと文田さんそれぞれのキャラクターと狂気が激しくぶつかり合う囲碁将棋の真骨頂ともいえるネタ。

3本とも違う角度から愚直に立ち向かっていて、ベストアルバムのような満足感を得られた。

惜しくも優勝には届かなかったが、囲碁将棋がいかに職人かというのが全国にまた知られたのではないかと思うとうれしい。エンディングでは「来年もまた出ます」と言っていたので、ここから1年の囲碁将棋からも目が離せない。

お笑いファンが興奮する名試合の数々

ほかにも心の師弟対決となった「マシンガンズvsはりけ〜んず」や、もともと対決したいと話していた「金属バットvsザ・ぼんち」など、ありとあらゆるお笑いファンが興奮する名試合が数々生まれた2025年の『THE SECOND』。

3年連続ファイナル進出という偉業を達成している金属バットの来年以降も楽しみだ。

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奥森皐月

(おくもり・さつき)女優・タレント。2004年生まれ、東京都出身。3歳で芸能界入り。『おはスタ』(テレビ東京)の「おはガール」、『りぼん』(集英社)の「りぼんガール」としても活動していた。現在は『にほんごであそぼ』(Eテレ)にレギュラー出演中。多彩な趣味の中でも特にお笑いを偏愛し、毎月150本のネタ..

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