声優・夏川椎菜のフシギな“言葉”の世界「アラサー生活の“絶望”にフォーカス」

2025.4.16

文=太田祥暉 撮影=上村 窓 編集=山本大樹


『Quick Japan』vol.177(4月9日発売)のインタビューに登場した声優・夏川椎菜。

さまざまな声優が活躍する現在。総数は1万人を超えるが、その中でも独自の世界観を持つ「文章」でファンを魅了し続けている存在が夏川椎菜だ。自身が作詞を務めた「ユエニ」では、「女性の目線で見た恋愛や世の中」をとことん掘り下げてみたと思ったら、「シャドウボクサー」はUNISON SQUARE GARDEN・田淵智也によるロックサウンドに皮肉屋スピリット満載の応援ソングを執筆。アニソンファンにその作詞家としての文才を轟かせてきた。

そんなアーティスト・夏川椎菜の新譜『Ep04』が4月16日に発売となる。全5曲のうち「テノヒラ」「グッドルーザー」「スキ!!!!!」は夏川が作詞を務めた新曲。彼女の想いに満ちた言葉がどこから生まれたのか、その根源を探る。

ここでは『Quick Japan』vol.177には掲載できなかった、夏川のロングバージョンのインタビューお届けする。

Quick Japan vol.177表紙
『Quick Japan』vol.177(表紙:ぽんぽことピーナッツくん)QJストア限定版 『Quick Japan』vol.177(表紙:ぽんぽことピーナッツくん)通常版

“こむら返り”で年齢を実感…

(なつかわ・しいな)1996年生まれ、千葉県出身。声優、歌手。主な出演作に『ハイスクール・フリート』(岬明乃役)など。ソロとしての活動のほか、麻倉もも、雨宮天とのユニット・TrySailとしても活動中。著書に小説『ぬけがら』(エムオン・エンタテインメント)

──4月に発売となる新譜『Ep04』はどのような想いで作られたのでしょうか。

夏川 これまでシングルやアルバムを作る際に、「これはいい曲だけど、今じゃない!」とキープしていた楽曲があったんです。ただ、次のアルバムでそれを放出するとなっても、またアルバムのコンセプトとも合わない可能性がある。そこでEPというかたちを取って、好きな曲たちをリリースすることにしたんです。

──「今じゃない!」というのはどういうことですか?

夏川 たとえばシングルだと、表題曲としてやりたい曲があったとき、それと方向性が被らない幅のある曲をカップリングに選ぶことが多いです。でも、コンペでどうしても方向性が被る曲が出てくることはあって。いい曲なんだけど、2曲ともロックなものは……みたいなときに、「今じゃない!」ってなっていたんです。

──なるほど、そんな経緯だったんですね。さて、『Ep04』では夏川さんが3曲作詞していますが、1曲ずつ歌詞に込めた想いも伺えればと思います。まず「テノヒラ」から。

夏川 最初にメロディを聴いたとき、サビの最後のフレーズが音として抜けていて、この4文字に何を入れるかが重要だなと思ったんです。そこでいろんな候補の中から、一番私っぽい表現だと感じたのが「バレてく」でした。では何がバレていくのか。曲調も相まって、明るい言葉がいいなと思ったときに「愛しさ」をハメて、昔と今の自分を比べていく内容にしていきました。

──小学生の夏川さんは自分のことを「何もできない子」だと思い込んでいたというお話がありましたが、そのころと現在を対比していると。

夏川 そうですね。小学生時代の記憶を思い出しながら書いていました。これは入れなかったフレーズではあるんですが、モチーフとしてシール帳のことを思い出していたんですよ。友達はたくさんシールを買っていたなとか、ほかの友達は家が厳しくて百均のシールしか持ってなかったなとか、それをどういうレートで交換していたな、とか……。そんな思い出の映像をもとに作詞をしていました。

──頭の中で映像を浮かべていたということだと、「グッドルーザー」はどんなテイストの映像をイメージしながら作詞されました?

夏川 すっごく「ブルーがかった」、めちゃめちゃ暗い映画です。

──ミニシアターで上映されるような邦画の。

夏川 そのイメージで、アラサーの絶望にフォーカスしたのが「グッドルーザー」です。先ほども触れましたけど、「腓(こむら)返りで跳び起きた」というフレーズがもともとメモ帳にあって。腓返り自体は何歳でも起きることですけど、実際自分がその立場になったとき歳を取ったことを実感したんですよね。そこから転じて、アラサーの希望と絶望から後者にフォーカスすることに決めました。メロディがダウナーだったこともあって、そういう歌詞が合うかなと。

「大人になれば自由になる」 というのは真理だけど

──「グッドルーザー」の鬱屈とした気持ちの一方で、「スキ!!!!!」は爽やかなナンバーになっていますよね。

夏川 「テノヒラ」よりもちょっぴりおバカですね(笑)。「スキ!!!!!」は仮歌に引っ張られた印象があって、完成版では「キライ スキ キライ スキ」となっているフレーズがもともと「ジャンプ ジャンプ ジャンプ ジャンプ」だったんですよ。ただ、自分に「ジャンプ」は爽やかすぎるので、何か置き換えたい……。そこで思い浮かんだのが花占いだったんです。意味がないと思いつつもやってしまうことだし、フレーズとしてライブでコール&レスポンスがしやすいこともあって、「キライ スキ キライ スキ」にすることにしました。私の曲に「チアミーチアユー」というのがあるんですが、それに近しいイメージで書けましたね。

──ちなみに、この三曲の中で一番気に入っているフレーズはどれですか?

夏川 間違いなく「グッドルーザー」の「『大人になれば自由になる』 というのは真理だけど 売れるものなど それしかないと 捧ぐ日曜日」です。これはすんなり出てきたフレーズで……。水曜日のことを1番で書いていたのでまた曜日について書きたい、できれば休日、そしてネガティブに言いたいとなったとき、休日出勤のことを書こうと思ったらこうなったんですけど。

──でも、夏川さんの活動的に平日も土日もあまり関係ないですよね? 土日もライブやイベントがありますし。どこから休日出勤の感覚を得たんですか?

夏川 友達にカレンダーどおり休める人が多いからかもしれません。土日に遊びに誘われても断ることが多いので、どこか休日出勤の感覚があるのかも。といっても、「グッドルーザー」は自分のことを書いたというよりも、こういう人が多いのでは、というイメージで書いているので、その感覚に共感してくださる人が多ければうれしいですね。

──夏川さん以外の方が作詞を担当された2曲についての想いも伺わせてください。

夏川 「つよがりマイペース」はやぎぬまかなさんにお願いさせていただいた楽曲です。もともと私は、やぎぬまさんがやられていたバンド「カラスは真っ白」の楽曲が大好きだったんですよ。「時間差チーズケーキ」や「YASAI FUNK」のように使っている言葉はメルヘンなんだけど、伝えたいことは現実的なやぎぬまさんの力をお借りしたくて。その比喩表現が自分にはどうしても書けない、憧れの存在でしたから。「かなわない」もsympathyさんにお願いしたかったところから始まっていて。事実を書いているだけなんだけど、「結構経っているソーダ水」のようにやるせない、自分には絶対書けない気持ちを歌詞に詰められているところが素晴らしくて。どちらも、とてもいい曲になったと自負しています。

──そんな『Ep04』ですが、夏川さんが特に推したいポイントはどこですか?

夏川 私の楽曲って、最近は「テノヒラ」のようなオルタナロックが多い気がしていて。その方向性を突き詰めてみた一枚になっています。……かと思えば、渋谷系寄りのサウンドもあったり、爽やかなコーラのCMで使われていそうな曲もあったり(笑)。いろんな方向性が楽しめるEPになっていると思うので、ぜひ聴いてくださるとうれしいです!

『Quick Japan』vol.177(表紙:ぽんぽことピーナッツくん)QJストア限定版 『Quick Japan』vol.177(表紙:ぽんぽことピーナッツくん)通常版

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太田祥暉

(おおた・さき)編集者・ライター。2018年から商業媒体でライティングを開始。アニメ公式サイトのあらすじやBlu-rayブックレットなどを担当している。著書に『ライトノベル50年・読んでおきたい100冊』(玄光社)。 https://sites.google.com/view/wataruumino..

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