ノスタルジーはスーパーの2階にある(パリッコ)
パリッコのマイバスケット・イズ・スーパーマーケット 第2回
『酒場っ子』、『つつまし酒』などの著書を持つ、若手飲酒シーンの旗手・パリッコさんが提案する「スーパーマーケット」の楽しみ方。いつも忙しく買い物をして通り過ぎていませんか、スーパーの2階? 最近行ってますか、スーパーの2階? あなたの家の近くにもきっとある、よく目を凝らすときっと見えてくる、日常の中の冒険。
気が向いたらぜひ、買い物のついでに寄ってみて欲しい
僕は「酒場ライター」なんて酔狂な仕事を生業にしているが、そうなったきっかけは、ざっくりと言ってしまえば、古くからつづく酒場の味わいに惚れこんでしまったからだ。街に根づき、何十年と歴史を重ねてきた個人経営の酒場は、大将、女将さん、常連客たちが長年かけて作り上げてきた、その店にしかない空気が必ずある。また、長い長い時間がそのまま堆積したようなカウンター、厨房、壁や天井は、ずっと眺めていても飽きることがない。それを僕がよいと感じる理由は、見慣れた街の中にあっても、一歩店内に入ると、まるで知らない土地に旅行にでも来たかのように錯覚してしまう非日常感。それから、漠然としたノスタルジーにあるような気がする。最近、そんな非日常感とノスタルジーを兼ね備えた場所がほかにもあることに気がついた。そう、「スーパーマーケットの2階」だ。
身近なスーパーを想像してみて欲しい。平屋のだだっ広い店舗がほとんどだろう。ところがたまに、2階のあるスーパーというものが存在する。昨今は、服を買うならファストファッション、電化製品なら家電量販店、家具や日用品なら大型の家具店と、リーズナブルな専門店が多数存在する。が、ほんの数十年前くらいまで、そういった消費者のニーズを一手に受け止めていたのは、意外とスーパーの2階だったんじゃないだろうか。子どもの頃、母親に連れられ地元の西友に行くと、1階で食料品などをひととおり買い終えたのち、ついでに必要な日用品などを買うため、2階へ寄っていくことがよくあった。かつてのスーパーの2階にはファミコンカセットまで売られていることも多く、母親が買い物をしている間、僕はそのデモ画面を飽きずに眺めていた。確か『水戸黄門』のゲームだったと思うんだけど(なんて渋いテーマでゲームを作るんだ)、電子音による合成音声で、キャラクターたちがしゃべっている(ように聞こえる)のを聞き、人類はついにここまで進化してしまったのかと、腰を抜かしそうになったことを覚えている。
自分の住む街に2階のあるスーパーがあったとして、そこに頻繁に通っているという人は、そう多くないと思う。が、気が向いたらぜひ、買い物のついでに寄ってみて欲しい。僕は最近やっと気がつくことができた。ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある。