囲碁将棋「雰囲気とブランディングだけで生きてきた」“カッコいい”漫才師を築くまでの20年
今年で結成20周年を迎える囲碁将棋。キャリアを重ねても連日舞台に立ち、漫才と向き合い続ける姿は多くの後輩芸人の憧れであり、「東京吉本漫才師の大将」としても慕われている。
しかし、本人たちに後輩を引き連れている意識はなく、「みんなが“カッコいい風”にしてくれた」という。ふたりはどのようにして、みんなが憧れる“漫才師”になったのか。そこには、ふたりの意識を変えた先輩・後輩の存在があった。
さらに、2月18日(日)に開催するふたりがデビュー当時から憧れていた「日比谷公園大音楽堂」での公演についての思いも聞く。
囲碁将棋
文田大介(ふみた・だいすけ/1980年6月20日生まれ、神奈川県出身)と根建太一(ねだて・たいち/1981年3月23日生まれ、神奈川県出身)によるコンビ。NSC東京校9期出身で2024年に結成20周年を迎える。2023年に初開催された『THE SECOND~漫才トーナメント~』では、グランプリファイナルに進出した
目次
後輩が作ってくれた“カッコいい先輩”としての囲碁将棋
──後輩の方々から「東京吉本漫才師の大将」と言われることもあるおふたり。ご自身では、どう感じているんですか?
文田大介(以下、文田) 東京吉本で、僕らより先輩で漫才をやっている方って少ないんですよ。
根建太一(以下、根建) たとえば、トータルテンボスさんでも、僕らがギリギリ絡んでいる世代。後輩の年代からしたら(世代的に)遠すぎるんですよね。
文田 一緒の舞台に立つ人でくくるとしたら(必然的に)僕らが一番上になるのかなと思うんですけど、たぶん、ポイズン(POISON GIRL BAND)さんが活動していたら(現在はコンビ活動休業中)、おふたりがリーダーだったと思いますね。
──では、リーダーと言われることに関しては違和感がないものですか?
文田 リーダーというか、ただの年長者(笑)。
──それ以上に、おふたりを尊敬している芸人さんが多い印象があります。
文田 たぶん、「囲碁将棋すごいよな」と言ってたほうが“っぽい”んじゃないですか?
──(笑)。
根建 なるほどな。
文田 音楽でもあるじゃないですか。この人をけなす人はいないけど、あまり有名じゃない人。ちょっとマイナーというか……そういうラインだと思います。
根建 僕らって実績がないんで、「コイツらだったら取って代われるんじゃないか」という位置にいるんですよ。『M-1グランプリ』優勝の実績があると、天才の域だし、神がかっていなきゃ目指せないけど、僕らだったら刺し殺せるというか。ギリギリ刃が届くところにいるのかなって。
文田 やっぱり一緒にいるのがデカいのかな~。
──以前、『芸人雑誌volume9』で掲載したインタビューでダイタクさん、オズワルドさんも語られていましたが、東京吉本には囲碁将棋さんを慕う方がたくさんいますよね。
文田 僕らが若手のときもポイズンさんやパンクブーブーさんが頭になって、何かをやってほしい、とずっと思っていたんですよ。だけど、叶わなかった部分もあるので、「後輩がそうやって言ってくれるんだったら、旗くらい持つよ」とは思いますね。自分たちも先輩に先陣切ってやってほしかったので。
──責任感が生まれてくる感じなんですか?
根建 僕らふたりとも責任感はまったくないです(笑)。責任感のなさでやってきて、後輩がついてきてくれるんだったら、それもいいのかなって。別に僕らが引き連れたことなんて一回もないんで。
──そのぶん、カッコ悪いところは見せられないと。
根建 そうですね。ネタとか発言とか、そういうのを見てくれているんだとしたら、変わらず、同じことをやっていくだけかもしれないですね。ただ、スベッてるところはめっちゃ見てると思います(笑)。
文田 スベり方というかね。
根建 『M-1』も“落ち方”だと思っていて。僕ら、別に変な落ち方はしていないような気がするんですよ。アイツらが勝手に「やりたいネタやって落ちた」みたいに言ってくれるから「あ、そんな感じになってんだったら、それでいこう」って感じです。
文田 だから何がカッコいいかなんて、自分たちではわかってないんですよ。
根建 みんなが“カッコいい風”にしてくれて、僕らがそれに便乗しているだけです。
POISON GIRL BANDイズム
──おふたりからすると、「東京吉本漫才師のリーダー」というか、漫才師として尊敬する先輩はどなたになるんですか?
文田 直接的に「この人たちいいな」と思ったのは、やっぱりポイズンさんですね。おふたりは、何度も『M-1』決勝に上がっているのに、劇場での若手だけのトーナメントライブに出てくれるんですよ。でも、若手を目当てに観に来たお客さんの前だから勝てない。本当だったら出なくていいのに、自分たちが負けて、後輩に箔をつけさせてあげているくらいに僕は感じていて……。そうやって、単純に勝てない状況でも一緒に出てくれいてた思い出があったんで、僕らも「若手のバトルライブに出てくれ」と言われたら出るようにしています。ルミネtheよしもとで若手とのバトルライブを定期的にやっているのは、そういうところの流れを汲んでいますね。
──後輩芸人とのバトルライブ『囲碁将棋のオマエらには負けねえから!』は2021年から続いていますよね。
文田 そのイベントも、最初は「神保町よしもと漫才劇場のメンバーが、ルミネに立つ機会がないんで、囲碁将棋を頭にイベントをやってくれ」と言われたので、「だったらバトルライブにしてください。どうせやるならバチバチに肩並べてやります」って感じでやったんですよ。そこはポイズンさんイズムがちょっとあるのかなと思います。それくらい、当時「ポイズンさんが一緒に出てくれていた」というイメージが強いんですよ。ポイズンさんがちょっと人気あるヤツに負けてるのを見ると「いやいや。そんなわけないじゃん!」って思っていたし、「もう出ないでくれよ」とすら思っていたぐらいでしたから。
根建 僕はポイズンさんに影響を受けまくっているどころじゃないです。漫才の影響はもちろん、芸人としての生きる道みたいなものは、阿部(智則)さんの影響を受けていますね。僕、単純にめんどくさがり屋で、酒も飲めないので、先輩付き合いもしないほうだったんですけど、阿部さんだけは自分でついていきました。阿部さんもつるまない人なんですけど、阿部さんのつるまないのは孤高のつるまなさ。で、僕みたいなヤツに優しいんですよ。
誰も準備してなかった?初開催の『THE SECOND』
──昨年は『THE SECOND』でベスト4になり、話題となりました。今年も挑戦されるとのことですが、この大会にかける思いを教えてください。
根建 出させてもらうからには、やっぱりいい成績を残したいです。でも、去年、負けたとき、清々しかったんですよ。負けたときの悔しさを想像すると、出たくなくなるときってあるじゃないですか。そういうのがないんで、気持ちの余裕は、『M-1』のときよりもあるかもしれないです。タイマンというのがいいんですかね。
文田 シニアの大会って感じがしましたけどね。現役が終わった人の「40歳以上の部」みたいな。ああいうのって、どの大会でも、終わったあと、みんなで握手していい感じじゃないですか。あと、自分的には、去年「大会が盛り上がればいいな」ぐらいの気持ちだったんですけど、今年は、自分に向けた目標を立ててもいいのかなと思っています。ただ、去年より、ちょっと厳しいのかなと思っていて……まわりがちゃんと準備してくるというか。去年は誰も準備してなくて。
根建 誰も準備してねーってことはねーけど。
文田 いろんな兄さんたちが、昔からやっているネタを『(開運!)なんでも鑑定団』(テレビ東京)のように持ってきた大会だったなと。
根建 (笑)。
文田 前回は「懐かしさ」を感じる大会だったんですけど、今年は『M-1』っぽくなるんじゃないかなと思っています。『M-1』卒業組も増えますし。
──囲碁将棋さんは、2019年に『M-1』を卒業してから『THE SECOND』が始まる数年の間にも『囲碁将棋が優勝を本気で意識したライブ』など、賞レースを意識したライブを定期的に打って、刃を研いでいた印象があります。気持ちが途切れなかったのはなぜなんですか?
文田 ダイタク、ニューヨーク、オズワルドが、「賞レースが終わると、囲碁将棋はネタを作らなくなる」と思ったのか、『以後勝利』というネタライブを立ち上げたい、と何回か声をかけてくれたんですよ。でも、「現役の人たちだけでやったほうがいい」ってずっと断っていて。ただ、僕自身、2015、2016年ごろマヂカルラブリーと(『M-1』に向けて)一緒にやっていたときに、ポイズンさんも入れて「全国ツアーしたいな」とずっと言っていたのに、頓挫しちゃった思い出があって……。「今、こうやって言ってくれてんのって、僕が思っていたポイズンさんに対する思いと似てんのかな」と感じて、イベントに出ることにしました。
根建 そうですね。場所を提供してもらった感じです。
文田 ふたを開けてみたら、アイツらはありネタをするんですけど、僕らだけ新ネタ2本作ってくる変なイベントだったっていう(笑)。でも、そんな感じで火を消させなかったというか、燃料を入れてくれていた感じですね。
──昨年の『THE SECOND』では、前説にはダイタクさんもいらっしゃいましたよね。
根建 ダイタクが会場にいたんで、恥ずかしながら「うっしゃ!」とか「ちきしょう!」とか言っちゃってました。ダイタクがいて、さらに気合いが入っちゃったかもしんないです。
ラッキーで進んできた20年間
──囲碁将棋さんは、今年で結成20周年を迎えます。デビュー当時に思い浮かべていた姿と、現在のご自身を比べていかがですか?
文田 5、6年目で『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)みたいな番組に出ているイメージだったんで、思ってたのと違いますね。でも、今思えば別にそうじゃなくてよかったなとも思います。今で全然いいというか。
──それは漫才というものがあって、お客さんの前に立てている幸せを感じているからなんですかね。
文田 そうですね。「お笑い芸人」という肩書から、十何年経って「漫才師」という肩書にずれていったのかなと思います。だから、テレビでスベってもそんなに気にならないんですよ。サッカー選手がバラエティ番組に出ているのと同じというか。
根建 それはちょっと違うけど。
──(笑)。
文田 「漫才師」として、バラエティに呼ばれてしゃべっているような感じ。ずっと舞台に出て漫才をやっているのに「漫才どうでもよくて、テレビに出たい」とは思いもしなかったというか。だから、テレビに出たときよりも、ルミネで初めて『7じ9じ』(過去にあった芸人のネタ&SPコメディ公演)とか寄席に出させてもらったときのほうがうれしさはありました。
根建 僕も5年目ぐらいまでにスーパースターになりたいと思って吉本に入っているんですけど、今でじゅうぶんというか。極論をいうと、僕ら(高校の)同級生ふたりが、(舞台上で)会話をしているだけじゃないですか。それでお客さんが入ってくれるなんて、もうめっちゃラッキーっすわ。だから、宗教にするしかないと思っています。このふたりの話を聞きに来てる人たちを増やすみたいな。
文田 そもそも、僕ら「腕を磨く」とか「芸を磨く」みたいな言い方が当てはまらないんですよ。
──ライブを経て、レベルアップしている感覚ではないんですか?
文田 正直、吉本全体でいっても、圧倒的スキル不足の漫才師なんです。雰囲気とブランディングだけで生きてきましたから。
根建 マジでそうです。
──そんなわけないです(笑)。
文田 楽器でも、同じコードを弾いたとき、ヘタだと別の曲に聞こえると思うんですけど、それぐらいのことだと思うんですけどね。
根建 「コイツら“あえて”ヘタ弾きしてんじゃねーか?」みたいな(笑)。
文田 それが(ほかとは)違うように見える要因なのかなって思います。
根建 全部ラッキーです。
憧れていた野音の舞台へ
──2月18日には『囲碁将棋20th anniversary ZEKKEI MANZAI TOUR 日比谷野音』が行われます。日比谷公園大音楽堂(以下、野音)で配信なしの開催と、特別な公演になると思いますが、開催への思いを聞かせてください。
根建 1、2年目のとき、東京ダイナマイトさんが野音でやっていたライブを観て「めっちゃカッコいいな」と思って。20年間、「いつか野音でやりたいな」とふたりで話していたんですよ。やれるわけないと思っていたら、いい機会が巡ってきて……。
文田 ほかの社員さんが会場を2日間押さえていたらしく、僕らのマネージャーが「野音でやりたい」と言っていたのを聞いていて、「1日どうですか?」と誘ってくれたんですよ。
根建 でも、僕らのマネージャーは敏腕なので、今でもどこかのイベントを圧力でつぶしたと思っています(笑)。
──(笑)。東京ダイナマイトさんは2006年にライブをされていたので、今から約18年前ですね。
根建 東京ダイナマイトさん自体もロックでカッコいいじゃないですか。それも相まってずっと憧れていましたね。
文田 当時、半分お手伝いで行ったんですけど、関係者受付でベッキーを見たときに「ベッキー、目デカっ!」と思ったのがめちゃくちゃ印象的でした。
根建 (笑)。たしかにそんな感覚でした。「有名人いる!」みたいな。
──これまでもたくさんの絶景で漫才をされてきましたし、野音は、ひとつの中間ポイントのような場所でもありますよね。
文田 そうですね。いろんな絶景でやりたいと思っていて、野音もその中の候補だったんで。
──最後に、野音に立って以降の漫才師としての現在の夢や目標を教えてください。
文田 これから絶景ベースの全国ツアーをしたいと思っているので、(今後のことは)それを回ってみてから考えようかなと思っています。「来年こうするために、今はこれをやっている」ということでもなく、ただ「20年やったから」というボーナスステージみたいな感じにしたいですね。
根建 野音に立てるのが光栄です。それこそ野音に立ったら、「もう一回やりたい!」と思う可能性もありますし、逆に「いや、ちょっと大きすぎたわ。やるもんじゃねえわ」と思う可能性もあるじゃないですか。
文田 それはある。
根建 あるよね。とりあえず今はワクワクしかないです。
『囲碁将棋20th anniversary ZEKKEI MANZAI TOUR 日比谷野音』
開催日時:2024年2月18日(日)開場14:30/開演15:30
会場:日比谷公園大音楽堂(東京都千代田区日比谷公園1-5)
チケット料金:前売3,500円/当日4,000円
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