400年前から今まで「歌舞伎にしかないもの」がある。新世代役者が語る、そのエンタテイメント性と“ハマり方”<中村隼人・中村米吉・市川團子インタビュー>

2024.1.18

文=釣木文恵 撮影=長野竜成 編集=菅原史稀


10代の若さで重要な役柄をいくつも演じている市川團子(19歳)、歌舞伎のかたわらドラマやバラエティにも出演する中村隼人(30歳)、古典からナウシカまで演じる女形・中村米吉(30歳)。ファンのみならず、広く世間から注目され、若くして人気、実力ともにこれからの歌舞伎界を背負って立つ役者たち。

彼らがその道へ進むことについて決意した瞬間や、自らも出演しているからこそわかる魅力など、若い世代ならではの思いを聞いた。

「死ぬまでやれたら」と思った

──歌舞伎のお家に生まれたお三方ですが、自分もその道に進もうという決意はいつごろ芽生えましたか?

團子 僕は幼いころから祖父(二代目市川猿翁)のビデオを観ていて、本当にかっこいいなと思っていて。小学校3年生のときに突然、父(九代目市川中車/香川照之)に「出るか」と言われて「あの舞台に出られるんだ!」と初舞台を踏みました。その時点では仕事という感覚はなかったけど、当時から「死ぬまで歌舞伎をやれたらうれしい」と思っていたのは覚えています。

隼人 普通、歌舞伎役者って10代のころは学業優先だったり、声変わりの時期は舞台を休むことが多いんですけど、父親(二代目中村錦之助)の方針で僕は8歳の初舞台からずっと毎月のように出させていただいて。高校進学のときに一度、将来について考えたんです。そこから本格的に仕事として意識し始めましたね。

米吉 私の初舞台は7歳でしたけども、父(五代目中村歌六)は「どうせ大きくなったら嫌でも出なきゃいけないんだから」と学業優先でした。だから子供から大人に切り替わる時期は芝居は見るばっかりで。大学に入るときに、歌舞伎役者として歩み始めなきゃいけないと考えまして、改めて「役者として真剣に勉強させていただきたいです」と父と(二代目)中村吉右衛門のおじさんにお願いして、そこから本格的に歩み始めた感じです。

──ほかの道を考えたことはないですか?

米吉 私は芝居に出ていないころも、漠然ともう歌舞伎役者になるんだろうなって思っていましたね。そして、本格的に始めたとき「ああ、こりゃ大変だ」と気づくわけですけども。

隼人 僕は中学のころは広告代理店に勤めたいと思ったことがありました。

米吉 なんで?

隼人 CMで流れているいろいろなキャッチフレーズを見て、かっこいいな、こういう人の心に残る仕事っていいなと思って。 

團子 僕は子供のころは宇宙飛行士になりたいと言ってました。BTSが好きだからダンスを踊ってみたいなとも思いました。でもその全部が「歌舞伎やりながら」が前提だったんです。動画クリエイターにも興味がありましたけど、それも結局「歌舞伎を紹介する動画を作れないかな」という動機だった。すべてが歌舞伎に帰結するんです。 

3人の趣味、ハマっているもの

中村米吉(なかむら・よねきち)1993年、東京都生まれ。中村歌六の長男。2000年に中村米吉の名を襲名して初舞台、2011年から女方を志す

──せっかくなのでお三方のプライベートも聞いていいですか? それぞれ好きなものとか、趣味を教えてください。

米吉 私は本当に無趣味な人間で。

隼人 甘いものは?

米吉 そう。甘いものが好きですけど、食べるだけ。 

隼人 作らないんですか? 

米吉 だって自分で作ったっておいしくはないんだから! プロには敵わない(笑)。本当に甘いものは等しく世界を平和にしますから。高い安いに和洋問わず、等しく素晴らしい。(團子に向き直って)あなたはBTSだよね?

市川團子(いちかわ・だんこ)2004年、東京都生まれ。九代目市川中車の長男。2012年、五代目市川團子を名乗り初舞台

團子 はい。BTSのテテ(V)が一番好きです。グク(JUNGKOOK)が最近出した新曲のダンスブレイクも覚えました(笑)。

米吉 ガールズグループは見ないの?

團子 LE SSERAFIMやNewJeansも好きです。

──どこかで披露しようとは?

團子 本当に素人すぎるので、お見せできないです。もう5~60年ぐらい修行したら、お見せしてもいいかもしれないです(笑)。

隼人 僕はキャンプとダイビングですかね。都会の喧騒を離れて、静かな山奥でキャンプをしています。木を拾ってきて火にくべて。

團子 ひとりですか?

隼人 ううん、ひとりだと熊が怖いし(笑)。仲間と料理作りながら。休演日にキャンプに行って、次の日の朝、キャンプ場から友達に仕事先まで送ってもらったこともあります(笑)。

團子 すごいです!

隼人 趣味が案外、歌舞伎につながることもあるんですよ。ダイビングをやってみたら、いかに普段から体に力が入っているかわかって。それが踊りや立廻り(切り合いや格闘の場面で行われる様式的な動き)の力の抜き方に応用できたりもするんですよね。

中村隼人(なかむら・はやと)1993年、東京生まれ。中村錦之助の長男。2002年、初代中村隼人として初舞台

車一台買えちゃう衣装⁉

──若くして第一線で活躍されているみなさんが考える、歌舞伎の魅力は?

團子 見得(感情の高まりなどを表現するため、演技の途中で一瞬ポーズを作って静止する演技)です(即答)。見得と立廻りが理屈なしにかっこいい。まず視覚的に、感覚的に高揚する感じがすごくおもしろいと思うので、それを知ってほしいですね。『三人吉三』(正称を『三人吉三廓初買』とする歌舞伎の演目)なんかだと、みんながそれぞれに立ち廻りして、最後ピタッと決まるポーズが本当にかっこいいんです。

隼人 團子君の言うとおり、歌舞伎の立廻りって形を見せるから、ゆっくり動いていても、きれいで迫力があるんですよ。あと、着物とかの豪華絢爛さは、なかなかない。車一台買えちゃうくらいの衣装がざらにある。ぜんぶ本物なんですよね。歌舞伎って、日本の伝統と技術がすべて詰まっているんですよ。

米吉 2月に私たちが共演する『ヤマトタケル』は特に、初演が1986年ですから、本当に衣裳が豪華で。あのころの日本の景気がいかによかったかと思わされます(笑)。今同じものを作ろうったってもう無理ですから、一見の価値がありますよ。

ほかにも隈取(歌舞伎特有の化粧法)とか女形(歌舞伎の女性役、それを演じる役者)とか、歌舞伎ならではの視覚に訴えるものは大きな魅力だけど、同時に耳から入ってくる情報もすごく豊かなもので。古典作品におけるBGMである邦楽……といってもJ-POPじゃなくて、歌舞伎だと三味線音楽ですね。義太夫、長唄、清元と、三味線の伴奏で歌い踊るのは同じでも、まったく別のものなんです。そういう日本の音楽が生で体感できるのって歌舞伎しかない。

隼人 そうだね。

米吉 いろいろ言いましたけど、理屈はいいからとにかく一度観に来てほしい。

隼人 20歳以下無料の日とか、もしもできるんだったら作りたい。

米吉 いいね。歌舞伎にもいろんなのがあるんですよ。合う合わないは私たちにだってあります。だから一度見て、もし合わなくてもまたしばらくして来てもらえたら、なにか必ず刺さるものがあると思うんです。

見得は“必殺技”みたいなもの

『ヤマトタケル』ティザービジュアル(左)中村米吉、(右)中村隼人

──今回お三方が出演される『ヤマトタケル』は「スーパー歌舞伎」というジャンルを築いた作品で、初演時はとても奇抜で新しいものとして誕生したと思います。今も『ワンピース』や『(風の谷の)ナウシカ』がどんどん歌舞伎になっていますが……。

隼人 歌舞伎はなんでここまで残ってきたかっていうと、そのときそのときに流行っているものを取り入れて芝居にしていたからなんですよ。忠臣蔵なんて、当時の人からしたら一種のテロ事件なわけじゃないですか。そういう事件をすぐ演劇にしちゃう。

米吉 すごくトガってますよね。

隼人 歌舞伎ができて400年以上経って、「派手な着物を着てわけのわからない言葉をしゃべる」というイメージの人も多いと思う。だから歌舞伎で『ワンピース』や『ナウシカ』をやるというと斬新に聞こえるけど、その精神性は昔から変わらないんです。

『ヤマトタケル』ティザービジュアル(左)市川團子、(右)中村米吉

團子 『ヤマトタケル』は初演から40年経っていますけど、本当におもしろいです。まずは最初が本当にキレイで。大和朝廷が目の前に、しかも回って出てくるんです。それからやっぱりなんといっても立廻りがカッコいいです。立廻りでの見得はカッコよさの必殺技みたいです。『ヤマトタケル』はそのカッコよさがわかりやすく表されているから、そういう意味で歌舞伎の“入口”としてぴったりだと思います。

隼人 「歌舞伎ってわからなさそう」って思うでしょ? スーパー歌舞伎はね、わかりますから。

米吉 そう。まず口語で普通にしゃべるから、何を言ってるかちゃんとわかる。

隼人 普通の演劇に歌舞伎要素である立廻り、見得、演出が加わったぐらいの感覚で見られますよね。

米吉 ヤマトタケルって歴史上の人物で、まあスーパーヒーローなんです。でも、人間くさい悩みを抱えているし、それでも前を向いて進む。そこをこの若いふたりが演じることで、観た方には明るさと希望みたいなものを感じていただけると思います。

スーパー歌舞伎 三代猿之助四十八撰の内『ヤマトタケル』

公演期間:2024年2月4日(日)~3月20日(水・祝)
公演時刻:昼の部 午前11時~/夜の部 午後4時30分~
劇場:新橋演舞場

【2月休演】13日(火)、22日(木)、29日(木)
【3月休演】4日(月)、11日(月)、18日(月)

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釣木文恵

(つるき・ふみえ)ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。

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