写真を撮ることにこだわりを持つアーティストや俳優・声優による連載「QJカメラ部」。
土曜日はアーティスト、モデルとして活動する森田美勇人が担当。2021年11月に自身の思想をカタチにするプロジェクト「FLATLAND」をスタート、さらに2022年3月には自らのフィルムカメラで撮り下ろした写真をヨウジヤマモト社のフィルターを通してグラフィックアートで表現したコレクション「Ground Y x Myuto Morita Collection」を発表するなどアートにも造詣が深い彼が日常の中で、ついシャッターを切りたくなるのはどんな瞬間なのか。
家族との海水浴の思い出
第72回。
夏の終わりに茅ヶ崎へ。
涼しくなってきた秋への流れをぶった斬るような暑さだった。
ファミリー層の観光客が海水浴からバーベキューまで猛烈に夏を謳歌する姿にうらやましさを感じながら、自分はシャッターを切ると同時に、昔、家族で海水浴に行った思い出が蘇った。
おそらく自分が7歳前後のころ。
浮き輪をつけてひとり波に揺られていた私はふと奥の浮標に目を引かれ、家族との時間をよそにぷかぷかとそこを目がけて泳いだ。
無事に到達し、浮き輪に絶対的な安心を感じた私は満足感にあふれながら折り返しに入ったそのとき、一気に引き潮に飲まれた。
どんなに手足をかいても前に進まずに流され、次第に浜辺が米粒のようになっていく光景。
ああ、これは自力では無理だな。
子供ながらにそう絶望したのを覚えている。
それでもなんとか帰らねばと浮き輪にしがみつきながら、ジタバタとしているとものすごいスピードで大きなものが迫ってきた。
父だった。
「何、勝手に奥まで行ってるんだ」と怒りながら背中に私を乗せ、平泳ぎで懸命に戻り始めた。
恐怖のあまり肩をつかむことで精いっぱいだった私はこの父の背中を今でも覚えている。
海の広さと父の背中の大きさを感じた出来事だった。
と、そんな思い出が脳内にフラッシュバックした一枚。
この日はビーチクリーンをしに来ていたため、賑やかな声を聞きながらごみと少しの思い出を拾い集めていた。
NAOYA(ONE N’ ONLY)、中山莉子(私立恵比寿中学)、セントチヒロ・チッチ、東啓介、森田美勇人、南條愛乃が日替わりで担当し、それぞれが日常生活で見つけた「感情が動いた瞬間」を撮影する。