かが屋・加賀&放送作家・白武ときおの【エロ自由律俳句|第10回前編】メモリアル回のゲストには短歌の世界から東直子が


白武の5句

【白武の句①】
地図が読めずにかいた汗

女の子が地図が読めない子で、「ごめん、わかんなかった」って右往左往した結果が見える汗。

相手がかいてる汗ということですね。

そうですね。

迷いが汗に具現化されている。

迷いを許しているというのもいいですよね。白武さんかどうかはあれですけど、これを見ている彼か彼女は相手を許してるし、あなたなら迷ってもいいと思っている。

全然イライラしてなくて、この汗もすごくかわいいなって思っている。私もすごい方向音痴なんで、この句すごくは優しくて。

迷った経緯を聞くのが好きなんですよね。地図を把握する能力の低さを愛でているのではなく、がんばってきてくれたことに好感を持ちます。相手はそれを悪いと思ってるし。

【白武の句②】
羽目を外すと決めた人たちで曇ったガラス

場所はどこだろうなあ。

バーというか飲食店ですね。今日はもうどうなってもいいやという人たちの熱気でガラスが真っ白になってるの見ると、その人たちのボルテージが具現化されていると感じるんですよね。自分にそういう気質がないのもあって、夜の渋谷のホテル街とかを見に行くことがよくあります。

外から眺めてるんですか?

変態ですけどね、それだけ聞くと。

羽目を外すって言葉は外に向かってる感じがしますけど、実際はガラスの内側で悶々としてるっていう、そのコントラストがいいですね。

熱狂というか、突っ走っていくことでガラスが曇って外側と隔たっていく。行き過ぎると秘密になっていくっていうのがいいですよね。

【白武の句③】
社交性の高いバースデーの発音

社交性の高い人たちって「バースデー(バースデーケーキの言い方)」って言うじゃないですか。「今日〇〇くんのバースデーがあるんだけど」って。

バースデー(笑)。確かに言いますね。「バースデー(ハッピーバースデーの言い方)」とは言わない。

東さんが「穂村(弘)さんのバースデーあるから」って言ったらびっくりします(笑)。

そう発音したことはないですね。そこにエロティックなものを感じるということですか?

そこまで社交性が高いと思ってなかった人がそういう発音をすると、あ、そういうモードも持ってるんだとギャップを感じていいなって。知らない世界に連れてってくれるかもしれない。

ドキドキ感があるんですね。

わかります。自分の知らない世界を知ってそうでちょっと緊張もしますが、同時にエロティックを感じる。それをバースデーの発音から感じた。

それを社交性が高いと表現するのがおもしろいですよね。気がつかなかったことでした。

【白武の句④】
お金持ちならではのギブのハグ

似たような句がつづきますが……ホームパーティー慣れしてる人っていますよね。セレブリティの習慣だと思うんですけど、そういうところにいる人たちは下心や恋愛の感じを一切出さずに外国の当たり前の文化みたいにハグしてくれる。

「久しぶり〜」みたいに純なハグをしますよね。

ただの挨拶じゃんって思うんですけど、それを僕が勝手にドキドキしてうれしいご褒美のようなギブのハグみたいに思ってしまう。この感触を忘れたくないって思いますね。ハグをするのが嫌じゃない領域に入れてくれるんだって。そんなに頻繁に訪れるものじゃないですし。

相手はしてあげようと思ってないけど、自分はギブアンドテイクの発想があるからギブだと捉えている。

受け取ったって思う。

そこでドキッとする。

僕もこんなことされたらわかっててもデレデレしちゃうな。

ハーフのお金持ちの子のホームパーティに行ったときにハグをされたんです。自分からも抱き締めていいのか、これは受けるだけが普通なのかもわかってないから、すごい格好悪い状態になってしまって。

慣れてないと自分の手をどうしたらいいかわかんないですよね。

『カリオストロの城』のルパンみたいにガガガとなってしまいました。

【白武の句⑤】
手を触るあなたが花のエレメントなんですか

生年月日で占いをできるっていう子がいて。僕は太陽のエレメントらしいんです。誰と相性がいいのか聞いたら「木とか花のエレメントです」と。「あ、そうなんですね」「私、花のエレメントなんですよ」「あなたが花のエレメントなんですか」じゃあ話早いじゃんって。

まるで他人事のようにその人が言っているっていうのがエロティックですよね。

占いの中での事実なんだけど「相性いいですよ」なんて言われたら、こっちとしては好意に感じてしまうじゃないですか。

意識しちゃいます。

だって相性に出てんだから。あなたはそれ信じてるんでしょって。ゴール前にあなたがパス出してますよねって。

運命の相性っていうことを外側から言ってくれるのはいいきっかけになりますよね。そうだ、これもですます調ですね。

やっぱ敬語って素敵だな。僕の句には一個もないですもん。

人としゃべってないんじゃないですか?

ちなみにこの場合は相手も太陽のエレメントが相性いいんですか?

そのはずです。

すごく穿った見方をすると、占い師がめちゃくちゃやり手な可能性もありますよね。占った相手に毎回ぴったりのエレメントを自称しているかもしれない。

サイトで調べても同じ結果にはなるのでコントロールはできないはずですが……。でもオリジナル占いだったらそれができそうですね。

かが屋・加賀&放送作家・白武ときおの【エロ自由律俳句|第10回前編】メモリアル回のゲストには短歌の世界から東直子
左から、東直子と白武ときお

前半振り返りトーク

昨日、頭の中で今日の句会をシミュレーションしていたんです。ミシュランの審査員が、僕たちががんばって作ったご飯をぺって吐き捨てるみたいな最悪な想像をしていたんですが。

私がですか? そんなことしませんよ(笑)!

と思ってたんですけど、こんなに優しくお話ししていただいて。

エロ自由律俳句が大きく拡がってしまいましたね、僕らがお呼びして、勝手に学ぶという不思議な状況ではありますが。

東さんは愛情のキャパシティが僕らと全然違うように感じました。

東さんの口から「全体重のせてください」と聞けたのは、すごいことですよね。

たとえば「夜の空そのものになる」は、短歌にしようと思ったらできるものなんですか?

そうですね。短歌になりそうな感じがします。全体重のせてくださいを上の句にして、下の句につづくものを考えたり。

同じお題を全員でお大喜利みたいにつづけるというのも?

そういう遊びが実際にあって、付け句といいます。過去には宇宙飛行士の向井千秋さんが考えた「宙返り何度もできる無重力」に下の句をつけてくださいというイベントもありました。

大喜利みたいだ。

白武さんは、ここ最近はけっこうパーティーピーポーみたいな生活を。

コロナも開けたので、自分の未体験ゾーンに足を踏み出そうと思って。

僕もちょっとずつ生活を変えていかないといけない。

加賀さんは細かい生活の観察が素敵でしたよ。ギターを弾く指先の硬さって体験者しかわからない。

これが渾身のひと振りだったんで……もっといいスタメンで挑みたかったな。でもやっぱり人の句を見てて、すごく孤独を感じますね。

もともと自由律俳句って孤独のイメージがあります。山頭火と放哉のイメージなのか。型にきちんとはめて、季語もちゃんと入ってる俳句は賑やかな感じがするんですよね。社会的にちゃんと機能していて、季節も大事にして、人間関係も大事にできている。自由律俳句はそこから外れたところで始まってるから、根本的に孤独と相性がいいんじゃないでしょうか。そういう意味ではエロ自由律俳句は“ふたりの孤独”ですね。

密封感、真空パック感がありますね。

ふたりの孤独って表現、いいですね。

ジャンル的に言いにくいこともある今の世の中で、エロを目的としているという前提がはっきりしていたので、振り切れました。

エロ自由律俳句がまたひとつ深いところに到達した気がします。後半はちょっとテイストが変わったものも用意しているので引きつづきよろしくお願いします。

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【連載】エロ自由律俳句
お笑いコンビ・かが屋の加賀翔と放送作家の白武ときお。お互いに自由律俳句が好きで、詠んだ句をLINEで送り合う仲であるふたりが、「エロ」をテーマにした自由律俳句の連載。

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福田 駿

(ふくだ・しゅん)1994年生まれ。『クイック・ジャパン』編集部、ほか『芸人雑誌』編集も担当。

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