「まだ心の整理はついてない」暗い過去を吹き飛ばす、やす子の愛される才能(てれびのスキマ)


テレビっ子のライター“てれびのスキマ“が、昨日観た番組を記録する連載「きのうのテレビ」。バラエティやドキュメントの中で起こった名場面、名言、貴重な会話の数々を書き留めます。2020年から毎日欠かさず更新中。


『しゃべくり007』

ゲストはやす子。前回、木村拓哉と綾瀬はるかが座った席だと言われ、やす子「私はスゴいですー(笑)」。

そんな彼女の本名は「安井かのん」。「男性からかのんちゃんって言われるとすぐ好きになっちゃう」という話を受け、上田が「かのん、今年のお正月は何してたの?」と言うと、「予定なかったので上田さんと過ごしたいですー」と、即座に「すぐ好きになっちゃう」コントに入る瞬発力は見事だった。

高校2年のときに初恋相手に告白。が、次の日にSNS全部ブロックされた(サプライズでスタジオに登場した初恋相手本人は、機種変更して引き継ぎの仕方がわからず消えたと否定)という話で「今だったら『好きです』って書いた手榴弾をこっそり渡します」と笑い、危ないなどとツッコまれて「ピンは抜いてませんよ~」と返す流れも美しかった。

「ステップ」と「ワゴン」という名の犬や「ハイエース」という猫(いずれも親が乗っていた車から命名)を飼っていたやす子は獣医になるのが夢だったが、中学のときには漫画家を目指すように。その絵柄はどこか松本大洋っぽくて本格的。高校時代は文化祭でヲタ芸を披露し大喝采を浴びる。最近、自作のラップや歌動画もバズったりしているが意外なほど多才。水泳ではバタフライ200m、400mで優勝(出場者はやす子のみ)、柔道部では部長(部員は2名のみ)で、誰も出ていないところに出場して不戦勝で優勝という経歴も。

18歳からいた自衛隊時代は「家族のような小隊」「自分にとって一番濃い思い出」と語るやす子だが、わずか2年で「やってみたいことがある」と辞めた。周囲から賢明に引き止められるほど愛されていたが、辞めた理由は「勘」だと言うやす子「ふとしたときに『やーめよ』って(笑)」。

ブレイクしたことで、2歳くらいのときに生き別れになった父親とSNSでつながり再会したという。「うちの家庭はバラバラなんです」「母親とも疎遠でしたけど、それをつなぎ止められたらいいな」「まだ心の整理はついてない」などという言葉や、父親に対して「自分を娘と思ってくれている人がこの世界にいるっていうのがものすごくうれしかった」と言ったり、自衛隊時代を「人生の中で一番、人に愛されてるなと実感した時期」と振り返ったり、言葉の端々から暗い家庭環境や過去が感じられた。愛に飢えた少女が周囲に愛されるまでというシリアスな話になってもおかしくないのだが、ひたすら明るく飄々とした語り口だからまったく重くならず爆笑の連続だったのがすごかった。

『水曜日のダウンタウン』

「オフの相方を爆笑させるの難しい説」では、「仲の良いコンビから凄く悪いコンビまで」検証。「仲の良いコンビ」はオダウエダ。植田が小田を笑わせるのだが、一発目の顔芸で瞬殺。その後もちょっとしたトークで爆笑連発。とにかく仲が良い感じと小田のゲラっぷりが印象的だった。

「普通」の仲のモグライダー、「仲が悪い」パーパーを挟んで、最後は「凄く悪い」流れ星☆。ちゅうえいが、たきうえを笑わせようとするのだが、『THE SECOND ~漫才トーナメント~』の漫才の内容についてたきうえから振られ、珍しく会話が発生。ダメ出し気味の話し合いに途端に不機嫌になり、仕掛け人にもかかわらずまともな会話をシャットダウンしてしまうちゅうえい。やはり深刻な感じの最悪の空気に。残された作戦は「放屁」。楽屋でおならをすると罰金5000円というルールがあり、そのときはたきうえが笑うという。「なぜなら、俺の不幸が絡んでいるから。あいつが俺で唯一笑うのは俺の不幸」。

重たい空気のなか、立ち上がるとちゅうえいは放屁。その瞬間、たきうえは口角をゆるめて手を差し出しながら「久しぶり」と笑う。かつてはそうやって笑い合っていたんだろうなというのが垣間見え「ちょっと感動してもうた」と松本。けど同時に、笑う理由を考えると切なくもあるなあと思った。

つづく「アイマスク着脱チャレンジ」は芸人8人に「アイマスクを取らずに待て」と指示し、全員マスクを外させることができれば賞金100万円を山分け。ひとりでもつけたままの人がいたら、外した人は賞金なし。最後までつけていた人は賞金10万円というゲーム理論的な『水曜日』らしい凝ったルール。疑心暗鬼になったり、考え過ぎておかしな方向になってしまったりするのがおもしろかったし、それぞれの行動原理を予測して配置したであろうキャスティングが秀逸で観応えがあった。


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てれびのスキマ

1978年生まれ。ライター。テレビっ子。著書に『タモリ学』(イースト・プレス)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)、『全部やれ。日本テレビ えげつない勝ち方』(文藝春秋)など。

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