『エルピス』第7話、長澤まさみの筋肉が内側に寄る瞬間


情けない人たちとクールになっていく岸本

このドラマ企画が6年前、某局で通らなかった理由は、政治家が冤罪事件に関わっている物語であるということもあるだろうけれど、それと同時に、登場人物たちが主人公たちも含め、まったくヒロイックでなく、むしろ情けない人たちばかりで、誰もが「毒の回った頭で走りつづける死にぞこない」(by刑事・平川)のようであり、「中身がスッカスカなもんだから外面ばっかりデコデコ盛り上がってよ。エセ光でテッカテカ」(by村井)であることが明るみに出て、身も蓋もなくなったからではないだろうか。

クールに調査をつづける岸本拓朗(眞栄田郷敦)(『エルピス』7話より)写真提供=カンテレ
クールに調査をつづける岸本拓朗(眞栄田郷敦)(『エルピス』7話より)写真提供=カンテレ

一方、岸本は、先輩たちが千々に乱れていることを尻目にどんどんクールになっていく。せっかく行われたDNA再鑑定の結果が検察側の意地によって一致しなくても、母からそういうことが往々にしてあると聞いていたとはいえ、淡々と受け入れながら取材をつづける。元ボンボンガール篠山あさみ(華村あすか)と付き合っているようだけれど、全然はしゃいだ感じはない。

背中の筋肉の動きに長澤まさみを感じる

第8話演出の二宮は、ただただ淡々と登場人物を撮り、彼らは市井の中に溶け込んでいく。村井、木村、平川、喫茶店の店主……中年男性たちの顔が印象的だった。大根仁は、俺たちの見たい長澤まさみを撮る天才だが、二宮は長澤の背中をじっくり撮る。白いシャツに浮き上がる肩甲骨。八飛市の商店街で出会った男・本城彰(永山瑛太)の情報を聞いたとき、筋肉がかすかに内側に寄る瞬間は、ほかの誰でもない長澤まさみがいるような気がした

『ニュース8』のキャスターになった浅川恵那(長澤まさみ)(『エルピス』7話より)写真提供=カンテレ
『ニュース8』のキャスターになった浅川恵那(長澤まさみ)(『エルピス』7話より)写真提供=カンテレ

『エルピス』とは、大衆が求めるテレビの役割とは何かという物語なのではないだろうか。

大衆が求めるもののど真ん中と、その隙間にこぼれるものを逃したくない闘いの物語が演出家の違いで見えてきた。

『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ

『エルピス ―希望、あるいは災い―』全話レビューはこちら

この記事の画像(全13枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

村井(岡部たかし)(『エルピス』6話より)写真提供=カンテレ

『エルピス』第6話、村井はなぜネットで強く支持されるのか。煙草を吸い、組織に媚びない中年男性の善意

(5話より)写真提供=カンテレ

『エルピス』第5話、“実在の複数の事件から着想を得たフィクション”から考える後半戦

『エルピス』第4話、長澤まさみのセクシュアルなシーンは必要か?朝ドラとの共通点と「突破できないジェンダーギャップ」

ケビンス×そいつどいつ

ケビンス×そいつどいつが考える「チョキピース」の最適ツッコミ? 東京はお笑いの全部の要素が混ざる

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターとして廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

「VTuberのママになりたい」現代美術家兼イラストレーターの廣瀬祥子が目指すアートの外に開かれた表現

パンプキンポテトフライが初の冠ロケ番組で警察からの逃避行!?谷「AVみたいな設定やん」【『容疑者☆パンプキンポテトフライ』収録密着レポート】

フースーヤ×天才ピアニスト【よしもと漫才劇場10周年企画】

フースーヤ×天才ピアニスト、それぞれのライブの作り方「もうお笑いはええ」「権力誇示」【よしもと漫才劇場10周年企画】

『FNS歌謡祭』で示した“ライブアイドル”としての証明。実力の限界へ挑み続けた先にある、Devil ANTHEM.の現在地

『Quick Japan』vol.180

粗品が「今おもろいことのすべて」を語る『Quick Japan』vol.180表紙ビジュアル解禁!50Pの徹底特集

『Quick Japan』vol.181(2025年12月10日発売)表紙/撮影=ティム・ギャロ

STARGLOW、65ページ総力特集!バックカバー特集はフースーヤ×天才ピアニスト&SPカバーはニジガク【Quick Japan vol.181コンテンツ紹介】