情けない人たちとクールになっていく岸本
このドラマ企画が6年前、某局で通らなかった理由は、政治家が冤罪事件に関わっている物語であるということもあるだろうけれど、それと同時に、登場人物たちが主人公たちも含め、まったくヒロイックでなく、むしろ情けない人たちばかりで、誰もが「毒の回った頭で走りつづける死にぞこない」(by刑事・平川)のようであり、「中身がスッカスカなもんだから外面ばっかりデコデコ盛り上がってよ。エセ光でテッカテカ」(by村井)であることが明るみに出て、身も蓋もなくなったからではないだろうか。
一方、岸本は、先輩たちが千々に乱れていることを尻目にどんどんクールになっていく。せっかく行われたDNA再鑑定の結果が検察側の意地によって一致しなくても、母からそういうことが往々にしてあると聞いていたとはいえ、淡々と受け入れながら取材をつづける。元ボンボンガール篠山あさみ(華村あすか)と付き合っているようだけれど、全然はしゃいだ感じはない。
背中の筋肉の動きに長澤まさみを感じる
第8話演出の二宮は、ただただ淡々と登場人物を撮り、彼らは市井の中に溶け込んでいく。村井、木村、平川、喫茶店の店主……中年男性たちの顔が印象的だった。大根仁は、俺たちの見たい長澤まさみを撮る天才だが、二宮は長澤の背中をじっくり撮る。白いシャツに浮き上がる肩甲骨。八飛市の商店街で出会った男・本城彰(永山瑛太)の情報を聞いたとき、筋肉がかすかに内側に寄る瞬間は、ほかの誰でもない長澤まさみがいるような気がした。
『エルピス』とは、大衆が求めるテレビの役割とは何かという物語なのではないだろうか。
大衆が求めるもののど真ん中と、その隙間にこぼれるものを逃したくない闘いの物語が演出家の違いで見えてきた。
『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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