テレビ局を舞台に、スキャンダルによって落ち目となったアナウンサーと深夜番組の若手ディレクターたちが連続殺人事件の冤罪疑惑を追う渡辺あや脚本のドラマ 『エルピス —希望、あるいは災い—』(カンテレ)。
『フライデーボンボン』が終了し、別の道を進むことになった浅川と岸本。それぞれに事件の調査を進めるが──
今回は、ライターの木俣冬が、第7話のあらすじや見どころをレビューする。
目次
第7話「さびしい男と忙しい女」の演出は人気シリーズの取材担当
松本良夫(片岡正二郎)のDNA再鑑定が行われることになった『エルピス』第7話のサブタイトルは「さびしい男と忙しい女」。ふたつの相対する単語をもってきているのかと、第1話から振り返ると、「冤罪とバラエティ」「女子アナと死刑囚」「披露宴と墓参り」「視聴率と再審請求」「流星群とダイアモンド」「退職届と異動辞令」と、さほど相対的ではなかった。中では「披露宴と墓参り」が最も人生を端的に表しているように感じる。サブタイトルは誰がつけているのだろう。各回の要素を変に煽らず淡々と伝えているのは好感が持てる。
さて、第7話「さびしい男と忙しい女」の演出は二宮孝平。検索したら大根仁作品の助監督を多く務めていた人物であることがわかった。映画『SCOOP!』(2016年)、ドラマ『ハロー張りネズミ』(2017年/TBS)『まほろ駅前番外地』(2013年/テレビ東京)『リバースエッジ 大川端探偵社』(2014年/テレビ東京)などハードボイルドタッチな作品に携わっている。業界ものの『共演NG』(2020年/テレビ東京)のセカンド演出もやっているから、同じく業界ものでもある『エルピス』にはふさわしそう。注目したのは、NHKの人気シリーズ『未解決事件』のFile.08『JFK暗殺』(2020年)の取材を担当していたことだ。
推測でしかないが、この起用は、『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年/NHK)の助監督をやったことで、両作品に共通するプロデューサー・家富未央と縁ができたことからではないだろうか。いずれにしても、限りなく『エルピス』の世界観を作る上で頼もしいスタッフだろうと感じる。実際、第7話の演出はエンタメ的サービス精神のある大根仁よりも抑制されているように見えた。内容が、そうならざるを得なかったのかもしれないが。
誰かと誰かの情報共有で進行する7話
第7話は大きなイベントがなく、基本、誰かと誰かの情報共有で進行する。順に、浅川恵那(長澤まさみ)と首都新聞政治部記者・笹岡まゆみ(池津祥子)、岸本拓朗(眞栄田郷敦)と母・陸子(筒井真理子)と友人・悠介(斉藤天鼓)、岸本と村井喬一(岡部たかし)、木村卓弁護士(六角精児)と浅川と岸本、浅川と岸本、岸本と八飛署の刑事・平川勉(安井順平)、浅川と村井、岸本と被害者の姉・井川純夏(木竜麻生)、岸本と八飛市の喫茶店「珈論琲亜(コロンビア)」の店主(小野了)の会話で構成されていた。
それぞれの立ち位置でそれぞれの意見を語り合う人たちの中でとりわけおもしろかったのは、木村弁護士が語る、裁判長が退官するにあたって「まれに、こうした奇跡的な決断(DNA再鑑定)を下す」話。ひとは、出世も左遷も関係なくなったとき、ようやく正しいことを行おうとすることがある。同じことを八飛署の刑事・平川も行う。彼の場合は、もはや隠蔽し切れなくなった事件で自分の地位が安泰ではないことを悟って諦め、金50万円と引き換えに情報を岸本に提供する。平川の場合は、正しいことを行いたいという考え方とはやや違うものの、いずれにしても、人間は今いる立場を死守することが第一で、そのためには、正しいことも見ないふりをする。そうやって多くの可能性が潰えていくのだ。
女のずるさと強さを美化しない
第7話も第6話同様、やや説明的でゆったりしていて、第6話のレビューで書いたように、2回分、増えたことによる調整回ではないかという気がした。そして、その余白をまたしても村井が見事に埋めていた。
岸本と揉めてプリプリしながら帰宅する浅川は、電話をかけてきた村井に愚痴ると、彼は
「男が嫌味を言ってくるときってのはな、さびしいときなんだよ」
第7話より
と言う。そのとき、村井はきっと電話口でさびしい想いをしているのだろうと想像したら、案の定、女性に癒やされていた。その女性は、類型的な恋人でも妻でもない。
視聴者の期待を裏切らない村井は、岸本の若い熱情が自分にはもうないとショックを受けて、他者にすがっているのだが、浅川は
「悪いけど、酔っぱらいの泣き言を聞いている暇なんて、もうわたしにはない」
第7話より
と、はたと正気に戻っている。
変に感情的になり、誰かにそれをぶつけたあと、サクッと立ち直るのが驚くほどリアルだ。女のちょっとずるくて、それゆえに強いところを、美化しない。事件の顛末より、人間のこういう生々しさが、このドラマの価値ではないだろうか。だからこそ、事件の真相は、視聴者にあらかじめ、だいたいわかるように描かれ(むしろ、登場人物は気づいていないことを視聴者のほうが気づけるように描いている節がある。たとえば大門副雄二総理〈山路和弘〉の件や斎藤正一〈鈴木亮平〉の件など)、その事件に誰がどんなふうに向き合ったり向き合わなかったりするのか、人間のどうしようもない弱さのさらけ出し方に比重が割かれているように見える。
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