何が語られて“いない”か聞き分ける
浅川は岸本に
「いいこと言えば言うほど嘘っぽい」
第2話より
と指摘する。本当のことを言っているように聞こえる声は技術で出せる。それがアナウンサー。明るく高く単語を粒立たせて話すと、聞きやすく、情報が頭に入ってくる。
浅川はその技術を習得していて、『フライデーボンボン』でも明るく「エナーズ・アイ」(キラーン)とやっているし、報道番組時代も、ニュースをあたかも真実のように、明晰に読んでいたが、どうやら心の中は違う。個人の感情を抑えて、真実味があるように物事を伝えてきたのだ。その声に、言葉に、私たち受け手は、耳を注意深く傾けて、何が語られていないか聞き分けないとならない。
気になる声と言えば、浅川の元彼・斎藤正一(鈴木亮平)の声。冤罪事件に関して浅川に接触してきた斎藤。フレンチレストランでランチしていたことを社の者に見つかったから、と地下駐車場の車の中で語った末、浅川の自宅マンションへ──。誘ったのは浅川だが、自宅マンションの前で抱き合うなど、こんなふうだから過去に写真を撮られてしまったのでは?と思うけれど、ここにも何か理由がありそうな気がしている。それはそうと、斎藤の「声」である。アナウンサーでもないのに、妙に清潔で明瞭なのだ。エリート感が漂う。ただ、それがかえって、不穏に感じてならない。
自分の信じる声や言葉を見つけ出す難しさ
「いい人間になれば勝手にいい声になるんだよ」
第2話より
と浅川は岸本に言った。それはおそらく、明瞭な声を出せばいいものでもなく、ボソボソの声では伝わらないわけでもない。大声でもボソボソでも、真情の伝わる声がある。名演出家・蜷川幸雄は、晩年になって俳優に「自分の信じる声の大きさでいい」と語りかけた(稽古場で筆者はそれを聞き、蜷川幸雄『身体的物語論』の中の「最後の少年」という原稿にも書いている)。それまで、俳優に激しく大きな声を求めつづけてきた演出家が、無理して嘘になるくらいなら、囁く声でも真情が伝わるほうを選ぶように言ったのである。筆者は、大きな声も、必死で出したときには、その人の本当が出るからだと思っていたから、それは自然に受け入れられた。声だけに限らない。文字(文章)でも同じことがいえると思う。きれいな、はっきりした文字やうまい文章が必ずしも正しいわけではない。でも、自分の信じる声や言葉は、自分自身のことにもかかわらず、なぜか見つけ出すことがすごく難しい。
社会を覆う、あまりに強く大きな声の中から自分の声や言葉をすくい出せ。
浅川恵那、岸本拓朗、斎藤正一、大山さくら、それぞれの主張、松本良夫の手紙……。果たして、誰の言葉が信じられるだろうか。
『エルピス ―希望、あるいは災い―』
毎週月曜22時から放送中
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、岡部たかし、筒井真理子、鈴木亮平 ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
音楽:大友良英
プロデューサー:佐野亜裕美、稲垣護
写真提供=カンテレ
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