VTuberの「切り抜き動画」を考察。動画の見どころを編集する「推し活動」を公式はどう考えているのか

2022.7.30
たまごまご9

VTuberのご意見番・たまごまごの連載第9回は、「切り抜き動画」に注目。一般的に配信動画の見どころを短くまとめた編集動画を指すもので、人気YouTuberやVTuberの「切り抜き動画」は毎日増殖している。そもそも起源は? 切り抜かれた側(公式)はどう思っているの? 気になるところを検証する。


志摩スペイン村バズり事件

5月半ば、志摩スペイン村がツイッターのトレンド入りをした。これに一番驚いていたのは、志摩スペイン村公式だった。というのも、現在の志摩スペイン村は来場者数が少なく、トレンドに入るような経営状況ではなかったからだ。

きっかけは、にじさんじのVTuber周央サンゴの雑談配信だった。案件でもなんでもなく、ただ周央サンゴが志摩スペイン村が大好きで、ひたすら1時間半ぶっつづけで話をしていただけだ。

【おつかれさんご】GWSP(スペイン)ゆるゆる定期雑談!第62回!【周央サンゴ】

志摩スペイン村に足りていないのは人と交通の便だけ、というくらいサービスのクオリティの高さを絶賛する彼女。人が少なくても手を抜かないサービスを提供している。料理が豪華でチュロスは一般の遊園地のものと別物。提供しているものすべてにスタッフの愛が込められている。なのに人がいない。有名ジェットコースター「ピレネー」ですら待ち時間0分。志摩スペイン村のプレゼンとしては最高のものだった。これが5月7日のことだ。

ツイッターでのバズを記録したのはそれからしばらくあとの、5月16日だった。周央サンゴの志摩スペイン村語りがVTuberファン以外をも巻き込み、優れたプレゼンとして多数の人の興味を惹いた。志摩スペイン村のツイッター登録者数は爆増、地上波テレビでそのバズりが取り上げられた。周央サンゴおすすめのチュロスの売り上げは2倍になったそうだ。

周央サンゴの語りのおもしろさがバズ効果を産んだのだが、加えて今回は「切り抜き動画」の存在が大きかった。

「切り抜き動画」とは?

切り抜き動画とは、YouTuber、VTuberの配信動画を切り取って編集し、字幕などをつけておもしろさをピックアップして観てもらう動画全般のことだ。最近だとひろゆきやガーシーや梅原大吾など、有名人の配信の一部を切り抜いた動画がかなりの数になってきている。

目まぐるしく変化してきたVTuber文化において、切り抜きはものすごく重要な役割を果たしてきた。

2017年末、まだVTuber(当時はまだ「バーチャルYouTuber」という呼び名しかなかった)が数えられるほどしかいなかったころ、ニコニコ動画に「よくばりセット」というシリーズがファンによって投稿された。

当時は特に企業の「箱」にあたるものがほとんどなかった。そのため「バーチャルYouTuber」という事象全体を箱推しする風潮があった。バーチャルYouTuberがなんなのかわからない時期に、おもしろさを伝えるのは容易ではない。

そこで有志が観どころを短くカットして1本の動画に凝縮したのが「よくばりセット」だった。「これを観れば今いるVTuberが追える」という「VTuber箱推し」の象徴となるシリーズとなった。なおこのころは、今話題になっている配信中心のにじさんじやホロライブ(ときのそらのみデビュー済み)は存在していない。

VTuberの数が増えるにつれて、個人企業問わずごちゃ混ぜに紹介する「よくばりセット」シリーズが増えて定例化し、多くのVTuberファンの入口を切り拓いた。その後、諸事情でシリーズは休止。動画も削除されたため、正式に確認する手段がなくなってしまった。それでも当時観ていた人にとっては、VTuberを広める軸となった欠かせない文化として今も語り継がれている。

2018年序盤、個人デビューのVTuberがカンブリア紀を迎え、爆発的に数が増えた。このあたりでにじさんじが参入し、さまざまな企業の「箱」が生まれ始める。

ときのそらは2017年段階で、自身のチャンネルで配信の切り抜きまとめ動画をアップしていた。この当時は動画が中心で、配信をするVtuber自体が珍しかった時代だ

【検証?】ときのそらの、珍プレー謎プレー

にじさんじ月ノ美兎は、自身の紹介として「10分で分かる月ノ美兎」をアップ。2018年2月16日、こちらも「切り抜いてまとめる」動画の先駆けのひとつだ。

10分で分かる月ノ美兎【にじさんじ公式】

一方で有志が、一定のVTuberの、あるいは一定の箱の切り抜き動画を作り始める。これは2018年序盤までは動画投稿者が多かったのに対し、半ばくらいからは圧倒的に配信者が増え始めてきたからこその動きだ。

配信はおもしろいものが多い。しかし1時間以上のアーカイブを最初から観るのは、あまりにもハードルが高い。ファンは知ってもらうための推し活動として、切り抜き動画を作った。

並行して、YouTubeで配信されたVTuberの動画をカットし、ネタ素材化する動きもニコニコ動画で起きていた。昔からある「MAD」の流れだ。アニメ・ゲームネタで多く作られていたのもあり、キャラクター立ちしているVTuberにも当てはめやすかった。『デビルマン』を元ネタにした音MADの「○○(VTuberの名前が入る)マン」シリーズなどはあらゆるユーザーによってどんどん作られ、まるでブレイクビーツのサンプリングのごとくいろいろなVTuberがネタにされていった。権利的にはグレーな部分がある遊び方だが、VTuber側も自分が「○○マン」になることをおもしろがる動きも出てくる。ファンが手間暇かけて「好き」だとネタにしてくれるのは、一寸先は闇だった2018年のVTuber黎明期には、うれしいことこの上なかったはずだ。


切り抜き師大航海時代

2018年後半、にじさんじとホロライブ、774 inc.、どっとライブ、Re:AcTなど多数のVTuberグループの「箱」が増えていき、個人でも成長目覚ましいVTuberが現れ始めると、それに伴って切り抜き文化は勢いよく繁栄していった。

多いのは「箱でまとめる」「ひとりを追う」のふたつのスタイルだ。2019年以降になると「VTuber推し」という大きな括りでは追えなくなってきた。その中で専門性を持ち、狭く深く、おもしろいところを提供して知ってもらうテクニックが、切り抜き師側にも要求されるようになっていった。

たとえば『Minecraft』『ARK』『APEX』などの配信の場合、同じサーバーの中で複数人が一緒に活動していると、視点がばらけてくる。それぞれの視点を並列に観ることで、多角的に事件を見られるのが、VTuberグループ活動のおもしろさのひとつ。それを追うために「複窓(配信者のウインドウを複数開いて同時に観ること)」する視聴者もいたが、この観方は人を選ぶのでおすすめできない。

そこで多視点のアーカイブをまとめて、ひとつのサーバー内でどういうやりとりが行われていたのか、つぎはぎして群像劇を見せる切り抜きがアップされるようになってきた。参加している人みんなの配信をチェックしないといけないのだから、これはものすごく根気のいる作業だ。

たとえば2019年、にじさんじのエクス・アルビオは、アルス・アルマルを「師匠」と呼んで『Minecraft』内で慕っていたことがある。しかしなぜか音声チャットはせず、何回もすれ違っていた。この偶然のサーバー内でのふたりの声なきやりとりは、特にタイトルに乗るわけでもないので、全貌を掴むのは簡単ではなかった。

ここで何人かの切り抜き師がしっかり時系列順に、ふたつの配信視点から動画を切り抜いて整理し、テロップを入れてまとめたことで話題が広まり、ふたりの人気はより広がることになった。

ほかにも多人数のにじさんじランド建築、チームごとにドラマのある「にじさんじ甲子園」、プロ雀士とVTuberの麻雀「神域リーグ」練習、さくらみこ「マイクラ」マグマ事件、湊あくあのコミュ障エピソードなど、現在ファンの間で伝説になっているエピソードは、何かしらの切り抜きが残っている。あとから見始めた人が理解できるような、第三者による事件記録としての役割を果たしているのだ。

字幕だけではなく、演出を加える切り抜き師も増えてきた。VTuberの配信は基本的にはストリーマー型だが、それに効果音を入れたり解説を入れたりと細かな編集することで、切り抜き動画は動画YouTuber的な見やすい作品に仕上げられていく。名物切り抜き師によるテクニックは、うまい具合に新しいファンを流入させた。最近デビューしたVTuberたちでも「切り抜きから見始めました」という人はとても多い。

どれだけ本家の魅力を保ったまま見やすく、それでいて初見の人にもわかりやすく伝えるかの技術は、切り抜き職人の間でまだまだ磨かれている真っ最中だ。

手描き切り抜き

技術的に極まったもののひとつが、切り抜き音声に合わせてイラストを制作し、ショートアニメ形式にするというもの。「手描き動画」ともいう。特ににじさんじとホロライブのファンアート的作品として、どんどん増え始めている。枚数が尋常じゃなく多いものもあり、それぞれにかけている工数は観ているだけで気が遠くなるものばかり。

【漫画】化粧品にハマったらしい月ノ美兎の話【JK組】にじさんじ☆ぷちさんじ【マンガ動画】【アニメ】VTuber

現在はにじさんじはこのような手描き動画師を多数起用し「ぷちさんじ」というシリーズを展開。ライバーを知るきっかけとしても楽しめるショートアニメとして広まりつづけている。

【漫画】とあるお方の報道によりあらぬ疑いをかけられてしまう笹木咲。【手描き】

またこのスタイルは、笹木咲などのように自身のチャンネルのコンテンツとして、自主的に制作することも増えてきた。画面的に動きが少ないVTuber配信の切り抜きとして、初めて見る人を引きつけるかなり効果的な手法だ。

公式チャンネル切り抜き動画の動き

【茶番】空気悪くね?まとめ【プロレス】【にじさんじ / 公式切り抜き / VTuber 】

にじさんじは公式で切り抜きチャンネルを設立し、数多くの切り抜きがアップされるようになった。こちらもスタッフ制作だけではなく、もともと広範囲の動画をまとめていた有名な切り抜き師の門地やにじさんじ用語集らが公式採用されている。

Five Head POG Solutions with VTubers (VTuber/NIJISANJI EN Moments) (Eng Sub)

NIJISANJI ENも公式で切り抜き動画をアップしている。英語の字幕がついているので、日本人でも理解しやすいのも魅力だ。ENの切り抜きは編集の演出が大胆で、キャラ性強めになっているのもおもしろい。

【歌枠切り抜き】夜もすがら君想ふ - TOKOTOKO feat.GUMI【夢川かなう】【Re:AcT/リアクト/Vtuber】

Re:Actでは公式で、歌枠の切り抜き動画もアップしていた。歌枠から1曲切り抜いて第三者がアップするのは、権利的にNGになることがある。しかし公式がきちんとアップするのであれば権利関係はクリアにできる。アイドル的活動をしている事務所ならではの手法だ。

【切り抜き】10分でわかる最近の紫咲シオン【ホロライブ/紫咲シオン】

ホロライブの動画を大量に切り抜きしているなめたけは、切り抜き師として「なめたけニキ」とも呼ばれ名前が広く知られている有名な存在。ホロライブの配信者が公式に切り抜きを依頼したことで話題になった。

【切り抜き】女子を男体化し女装をさせる・・・何を言ってるんですか?千羽黒乃先生!【因幡はねる / あにまーれ】

因幡はねるのチャンネルでは大量の公式切り抜き動画がアップされているのだが、自分よりもコラボ相手の魅力をピックアップした切り抜きが多い。切り抜く方向性がはっきりしているのは、ある種ブランディングの手法ともいえる。

【切り抜き】育成ウマ娘51人への初見反応集 前編 【天開司/Vtuber】

個人配信者の天開司も、数多くの公式切り抜き動画がアップされている。こちらはかつてから、天開司を中心に長い間切り抜きをつづけてきた切り抜き師・田舎者が起用されたものだ。

VTuberはファンアートなどを動画のサムネイルに活用するなどの文化があるが、切り抜きもまたファンと本人がつながる文化のひとつになりつつある。VTuberとアニメの違いとして挙げられるのは、この視聴者との距離感の近さだ。

切り抜きと権利

切り抜きはインフルエンサーとして大きな影響力を持ち始めており、基本的には応援として喜ばれることが多い。YouTube自体もクリップ機能が追加され、短く簡単に切り出してSNSにシェアできるようになってきた。切り抜くことの価値は重要性を増しつつある。

影響力があるからこそ、危険な面は多い。悪意のある編集が施された切り抜きは少なくない。意図していない発言をあたかもそう言ったかのように見せかけ、貶めることができてしまう。またメンバー限定配信など表に出さないコンテンツを切り抜いて貼るのは基本NG行為だ。歌枠やゲームネタバレ部分など、配信している作品の著作権を考えない切り抜きも好ましくない。

このあたりについて、最近はVTuber事務所が公式に、明確なガイドラインを出し始めている。

のりプロを運営する佃煮のりおは、切り抜き投稿に対して感謝を述べつつ、切り抜き動画作者の収益化についてはっきりと線引きをしている。逆にいえば、グレーなのではないかとファン活動を控えていた人も発表されたルールを遵守することで、切り抜きをアップしやすくなるだろう。

以下主なガイドラインを挙げます(リンク先は、記事下関連リンクをご参照ください)。

ANYCOLOR二次創作ガイドライン
二次創作ガイドライン - ホロライブプロダクション公式サイト - VTuber事務所
VOMS .net | Guideline / FAQ
二次創作ガイドライン | 774 inc.
GUIDELINES | ぶいすぽっ!

ホロライブのガイドラインでは“いわゆる「切り抜き動画」について、遵守いただきたい事項を明らかにすることを通じて、当社タレントや当社コンテンツが、より多様な形で広がることを期待し、本ガイドライン(以下「切り抜きガイドライン」とします)を制定いたします”と切り抜きについて好意的姿勢を示した上でルールを定めているのがよくわかる。切り抜き動画チャンネルを登録性にしたことで、情報の安全性も高まっている。

VTuberの活動が配信中心の現在、今後も切り抜きの需要はどんどん高くなっていくはずだ。なんせ視聴者の時間には限りがある。観てもらえなくなるよりは、まとめ動画・切り抜き動画で知ってもらえるほうがプラスの効果が高い。

ただ権利はVTuber側にあるのは常に念頭に置いておかないといけない。VTuberファンなら誰もが知る人気切り抜き師は多数存在するが、そういう人ほど謙虚に、自身を表に出さないようにしている。自己承認欲求のためではなく、あくまでも好きなVTuberを知ってもらうための推し活動のひとつである、という謙虚な姿勢で今の切り抜き師界隈は成立している。


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たまごまご

道民ライター。『ねとらぼ』『Mogura VR』などのWEBメディアや、雑誌『コンプティーク』『Vティーク』『PASH!』などで執筆中。マンガ、アニメ、VTuber、サブカルチャー中心に活動中。『仕事のマナー「気がきかない」なんて言われるのは大問題ですっ!』などなど発売中。バーチャルプラットフォーム..