プライドと仲間思いの“ギャル魂“で苦境を乗り越えろ──藤井みほな『GALS!!』に見る圧倒的な自己愛

2021.8.20

文=羽佐田瑶子 撮影=小野奈那子 編集=山本大樹


マンガの小さなひとコマに、さりげないひと言に、救われることがある。視界が開けることがある。わかり合えない私たちがそれでも手を取って生きていくために、あのマンガを読み解こう。ライターの羽佐田瑶子による、コミュニケーションやジェンダーを考えるためのマンガレビュー・エッセイ。

「おまえの価値は他人が決めるもんじゃねーだろ」。藤井みほなの漫画『GALS!!』の主人公・寿蘭(ことぶき・らん)は、他人に流されない圧倒的な自己肯定感で次々と困難を乗り越えていく。根拠がなくても、自分自身に誇りとプライドを持つこと。誰が相手でも色眼鏡で見ず、気持ちを正直に伝えること。『GALS!!』から、自分を丸ごと愛して生きるヒントを探る。

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「自分サイコー」で「仲間が大事」なGAL魂

憧れの人がいる。話しやすいように、Aさんとしよう。Aさんは朗らかで、いつも友達の輪の中心にいるタイプ。けれど、端のほうまで耳と目を向けられる人で、いろんな人を輪の中へ誘ってくれた。人に、優劣をつけないのだと思う。人見知りが激しかったり、率直過ぎる発言をしてしまったり、容姿がすごく派手だったり、いると空気が少し変わってしまう人をその場になじませるのがとても上手だった。それはきっと、自分自身がそちら側だったこともあったから。海外の血が流れていることで肩身の狭い思いをした幼少期のことを、いつの日か話してくれたことがあった。

何年かぶりに『GALS!!』を読んでいて、主人公の寿蘭とAさんが重なった。ギャルとはほど遠いシンプルな風貌だし、いつも元気いっぱいな蘭と違って大人っぽい人だったけれど、思わず人が集まってしまう、その太陽のような雰囲気は似ていたような気がする。

何が悪くて、何がいいのか。社会の価値観に縛られず、人に迷惑をかけないだとか責任を放棄しないだとか、そういう自分が大切にしている尺度で話す人だったから、まわりも自然とAさんに寄っていった。そして、常識が薄れて新しい価値観や、知らない人に出会えることが楽しかった。どんなことも楽しんでくれるのでAさんの前では、自分の言葉をしゃべることができた。「それ、おもしろそう」って、タバコを吸いながら優しく笑ってくれるのがうれしかった。

羽佐田瑶子連載

「自分で選んだ人生を生きて 大切な人たちが楽しそーに笑ってて 大好きな渋谷の街が平和なこと! これがあたしの幸せ!!」

(『GALS!!』第3巻より)

『GALS!』は1998年、コギャルブーム全盛期に少女漫画雑誌『りぼん』(集英社)で連載が始まった。自称・渋谷最強のカリスマ女子高生・寿蘭と、星野綾、山咲美由というふたりの親友との友情や恋愛の物語は一大ブームとなり、ドラマ化もされた。そして、17年ぶりに続編の『GALS!!』が刊行され、高校卒業後のオトナになった彼女たちの日々が描かれている。

私が大好きな寿蘭は、とにかく最強。誰もが振り返るかわいさで、彼女に憧れて高校に入学してくる生徒もいるほどのカリスマ性を持つ。先祖代々警察官ぞろいの一家で育ったため正義感が強く、悪さや卑怯な真似は許さない。相手が誰であろうと真正面から立ち向かい、ケンカも抜群に強いのだ。友人に「(蘭の)幸せってなんだよ」と聞かれて、彼女は大きな笑顔でこう答えた。「自分サイコー」で「仲間が大事」で「大好きなものを守ること」を大切にする蘭のGAL魂は、昔から変わらない。やっぱり大好きだし、かっこいい。

自分自身の価値を計るもの

「おまえの価値は他人が決めるもんじゃねーだろ おまえが自分を愛してて 自分の価値をちゃんとわかってりゃ それで十分じゃん?」

(『GALS!!』第2巻より)

親友で、超優等生の星野綾。東京大学に進学した彼女の文化祭に遊びに行った蘭は、東大の男友達・周(あまね)を紹介してもらい、なぜかその人がイケメンかどうか証明するための「イケメン探し」に繰り出す。しかし、目の前に楽しそうなものを発見するとすぐに飛びついてしまう蘭。イケメン探しそっちのけで、ダーツやカードゲーム、レゴ部の展示と目的を忘れて楽しむ。相手が堅物そうなまじめくんでも、楽しそうだったら一緒に遊んでしまい、色眼鏡なく気持ちを正直に伝える。

「数字とか肩書きとか見せられてもスゴイかどーかわかんねーし!」と言う蘭に、周は「価値を証明してくれるのは数字や肩書きや目視できる結果だろ?」と問う。自分の価値を計るもの、それは「自分自身だ」と蘭はスッキリした笑顔で答える。「ギャル哲学だよ!」なんてふざけながらも、周は蘭の考え方に表情が明るくなっていた。

この「自分サイコー」だと思い込むこと、自分を丸ごと愛することはGAL魂だと寿蘭は何度も言う。蘭がけっして人に自慢したり、マウントを取ったりしないのは、誰かの目よりも「自分に対するプライドがいい感じに高い」からだ。

プライドは自信になって、蘭はものすごく自分のことを愛することができる。だから、他人からの評価に対して過敏に反応する他の登場人物たちに喝を入れる場面の力強さが気持ちいいと感じる。

“ギャルであること”への誇りとプライド

「不安とか そんな形のないもんにビビって時間ムダにするよりさ 今を楽しく生きて 自分から輝いていこーぜ!!」

(『GALS!!』第2巻より)

自分を過小評価しかっこいい彼氏の言動に振り回されっぱなしの綾。彼が自分を本気で愛してくれているのか、彼から自信をもらいたいと嘆く彼女を蘭は一蹴する。「自分嫌いな奴が人に好きになってもらおーなんてさ そりゃ虫がよすぎるぜ」。

蘭だって、まわりからチャラそうだとバカにされることもあるが、けっして卑下しない。ギャルである自分に誇りとプライドを持っているから、圧倒的な自己肯定感で困難を乗り越えていく。落ち込んだり悩んだりすることもあるけれど、自分を丸ごと愛するパワーはたくましいのだ。自信のなかった人たちも、本気でぶつかってきてくれる蘭によって少しずつ自分を認めていく。

“GAL魂”を心に刻んで

久しぶりに、Aさんに会う機会があった。相変わらずまわりには人がたくさんいて、笑顔で話を聞いたり振っていたりした。昔なじみの友達との会話は、思い出話が大半だ。気恥ずかしさからか、当時の自分を茶化してしまったり、本音をオブラートに包むようにふざけてしまったり。しかし、Aさんは当時の私たちを「ああいうのも青春って言うんだよ。自分で決めたんだからどれも間違ってないよ」と言っていた。真剣な表情だった。自分で自分を認めて、正直に生きてきた人の言葉は、目をそらせない強さがあると思った。

「うちらは天下のコギャルだぞ?! まわりの奴らの目を気にしててどーすんだよ! ちょっと叩かれたくらいでへこんでんじゃねーよ!! くだらねーウワサに反応したら負けだぞ! もーちっと根性すえろ!」SNSには感情があふれ、正直とは遠い言葉がやりとりされることもある。いいねがつかない私の意見は社会のゴミ認定されたみたいで、自尊心がどんどんすり減らされていく感覚になったこともあった。だけど、根性すえて、プライドと誇りを持って自分で自分を認めていきたい。どんな世の中になっても蘭のGAL魂を心に刻んで、楽しく生きていきたいと思う。

ライターの羽佐田瑶子による、コミュニケーションやジェンダーを考えるためのマンガレビュー・エッセイ。月1回程度更新です。

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  • 羽佐田瑶子連載

    『GALS!!』藤原みほな/集英社

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